18大勢の群衆の前で奴隷の衣服を引き裂く話
死刑は中止され、フィート四世は城内に連れ戻された。
アリシア王女が現れた鐘突き堂には、帝国兵による厳重な包囲が敷かれていた。
ヴェルリード大隊長以下、俺も含めた帝国騎士団も鐘突き堂へ移動した。
鐘突き堂の前には何十人かの人間が整列させられていた。
男女、大人子供、問わず並べられていたが、その中の一人にアリーシャがいることを俺は確認した。
「鐘突き堂の内部探索は終了しました、中にいたのはこの二十四名で全てです」
憲兵の一人が大隊長へ報告した。
大隊長は全員の姿をぐるりと見渡したが、金髪碧眼の女性は一人もいない。
「憲兵隊、全員の身体を入念にチェックせよ」
大隊長の命を受け、憲兵隊が並べられた人達のボディチェックを行った。
容赦なく服の中まで調べる徹底ぶりだった。
泣き叫ぶ子供にはビンタまで喰らわせて黙らせた。
アリーシャにもその手は及び、下着まで調べられる事に嫌がっていたが、憲兵隊がチェックを緩める事は無かった。
俺はすぐにでも割って入りたかったが、今はじっと我慢した。
「誰も怪しいところは無いようです」
憲兵隊が報告をしたが、大隊長はまだいぶかしんでいるようだった。
「念のため、全員を投獄し……」
「待て、帝国の犬ども!私ならここにいるぞ!」
突然の声。
少し離れた民家の屋根の上に、金髪碧眼の女性が立っていた。
「王女がいたぞ!」
「捕まえろ!」
半分ぐらいの帝国兵が王女を捕縛しに向かって行った。
王女は屋根の上を華麗に飛び跳ねながら逃げていく。
「はっ、ずいぶんと身のこなしの軽い姫様だな」
大隊長はせせら笑い、彼女を見送った。
「この者達は如何いたしますか?」
憲兵の問いに、大隊長は、
「まあ、待て……」
立ち並ぶ人達を一人ずつ見て回り、
「その女を前に出せ」
指差した先にいたのはアリーシャだった。
ーー
憲兵二人に引きずり出され、アリーシャはヴェルリード大隊長の前に立たされた。
大柄で体格の良いヴェルリード大隊長は、アリーシャより二回りは大きい巨漢だった。
「おい女、貴様は何処の誰だ、言ってみろ」
「私の名前はアリーシャ……スピネル城で働く侍女です」
「城内の侍女だと?それが何故外にいる、どうやって外に出た?」
「それは……」
ヴェルリード大隊長はアリーシャに詰め寄り、服の襟元に手を掛けた。
「あっ……」
そして一気にその服を引き裂いた。
ビリーッという音が、辺りに響き渡る。
「……っ!」
恥ずかしさに身体を覆い隠そうとするアリーシャの腕を、憲兵隊員は無理矢理押さえつけ、身体を広げさせた。
破かれた服から下着が丸見えになったアリーシャの身体が、群衆の前に晒け出される。
俺はアリーシャがいつも左手に付けていた指輪が、無くなっている事に気がついた。
「シルクの下着か、侍女にしては良い肌着を着ているではないか」
舐め回す様な視線でアリーシャの身体を視姦するヴェルリード大隊長。
やがて、その野太い指でアリーシャの首元を掴んだ。
「い……やっ……」
「……この首ずれの跡、最近まで奴隷の首輪を付けていたのだろう、何故外せた?」
「そ、それは……」
「ふん、まあ良い。誰の奴隷でもないと言うのなら、貴様は今日から俺の奴隷だ。早速今晩から可愛がってやろう」
「……っ!」
恐怖の表情で震えるアリーシャ、俺はもう堪らず一歩前に出た。
「恐れながら大隊長殿、その者は私の奴隷です!」
ヴェルリードは不快そうな顔で振り返った。
「何者だ貴様」
「帝国騎士団コーサー小隊所属、サイラスです」
「ほう……」
ヴェルリードはアリーシャから手を離すと、やおら俺の方に歩みより、いきなり抜剣して斬りかかって来た。
俺もすかさず剣を抜き、二合ほど受けた。
ヴェルリードが巨体から繰り出す大剣の斬擊は、手が痺れるほどの重さだった。
白兵戦に置いて体格の違いは、即戦力差に繋がる。
「よくぞ受けた。新米の騎士にしてはスジが良い」
ヴェルリードは嬉しそうにニヤリと笑い、
「この女はお前の奴隷だと言ったな、それが何故外におる」
「街に出てみたい、と言ったので少しぐらいなら、と」
「わざわざ国王の処刑をする日にか?……誰かこの者を知っている者はおるか!」
「恐れながら!」
前に出てきたのはライネルだった。
「サイラスは俺と同じコーサー小隊所属で間違いありません、その女もサイラスの奴隷です」
ライネル……ありがとう……。
「そうか……では、サイラス。この女が自分の奴隷だと証明してみせよ」
「……!」
俺は一礼し、アリーシャの所まで歩いた。
そしてアリーシャの震える肩を両手で掴む。
「アリーシャ、すまない……」
「えっ?」
いきなり強く抱き締め、唇を重ね合わせた。
アリーシャは目を見開いて驚愕し、なされるがままになっていたが、やがて全てを受け入れ、抱き締め返して来た。
回りの群衆から下世話な野次が飛ぶ中、俺はアリーシャの唇の柔らかさを確かめ続けた。
「ふはは、奴隷というより、まるで恋人同士だな」
面白がる様なヴェルリードの声。
しばらく口付けを交わし続けた後、俺はアリーシャから唇を離した。
「はあっ…はあっ…」
お互いに荒い呼吸を整える。
すると今度はアリーシャの方から俺に抱きつき、唇を重ね合わせてきた。
アリーシャが差し込んできた舌を絡め合わせて、お互いに快楽を貪り合う。
「分かった分かった、その女はお前の奴隷だ。せいぜい見失わないように、今度からちゃんと首輪を付けておけ」
ややあってから唇を離した。
二人の間で唾液が糸を引いていた。
俺はアリーシャに騎士団の制服の上着を掛けてやり、その場から歩き去る。
「……ありがとう、サイラス」
俺にしか聞こえないような小声でアリーシャが言った。
ーー
「コーサー小隊長」
「はっ、ここに」
「あの者はお前の所属だったな……二人から目を離すな。
特にあの女の方は」
「承知致しました!」
立ち去って行く二人を見つめるヴェルリード大隊長の眼は、最後まで笑ってはいなかった。
ーーーーー
「お帰りなさい……あ、どうしたんですか?」
服が引き裂かれたままのアリーシャを見てセシルが驚いた。
「すぐに着替えを用意してやってくれ」
「分かりました」
セシルが服を取りに行くと、アリーシャは俺に抱き付いてきた。
「ごめん、サイラス……私もう、スイッチ入っちゃった」
「アリーシャ……」
濡れた瞳で俺を見つめるアリーシャ。
「サイラス……来て……」
「ああ……」
アリーシャに誘われるまま、俺はベッドに彼女を優しく押し倒す。
「アリーシャさん、着替えはこれで……あわわわ」
乱れる二人の姿を見て顔を真っ赤にするセシル。
俺はセシルに手を伸ばし、
「セシル……君も一緒においで」
「……はい、サイラス様」
セシルは軽く頷くと、着ている服に手を掛けた。
この日は一日中、三人でベッドを共にして自堕落に過ごしてしまった。