表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/26

17国王の処刑

 処刑場は、スピネル城の正門前広場だった。


 巨大なギロチン装置が広場の中央に設置され、覆面を被った執行人達が装置の調整を行っている。


 すでに広場には大勢の見物人が押し寄せ、ごった返していた。


 俺は広場の護衛役として他の騎士団員や属領兵と共に、見物人達に対峙している。

「何かあったら迷わず剣を抜け」と命令を受けてはいるが、なるべくならそんなことをしたくはない。


 ここにいる大勢の群衆が暴徒となって一斉に襲いかかってきたら、自衛のためにも戦うしかないだろうが、かなりの数の死傷者が民間人に発生する事になるだろう。


 ふと城の方を振り返ると、バルコニーにセドリック皇子と老執事が立っているのが見えた。


 ランサー王国が健在だった頃は、あの場所から国王が演説を行っていたのだろうが、今ではその場所が国王の処刑を見物する特等席だ。

 皮肉なもんだな。


 ーー


 群衆のざわめきがひときわ大きくなった。


 捕縛された国王、フィート四世が正門から引き立てられて来たのだ。


「国王様!」


「なんと、お痛わしい……」


「帝国の連中め……酷いことを!」


 口々に叫ぶ群衆達。


 そんな群衆のざわめきを掻き消すような、大音響が響き渡った。


「アリシア王女に告ぐ!」


 国王を引き立ててきた帝国騎士団の大隊長、ヴェルリードの一声だった。


「出頭して来ぬのであれば、直ちに国王の処刑を執行する。これが最後のチャンスである!」


 恵まれた大柄の体躯から発せられる大音声。

 その迫力に、群衆は我を忘れて静まり返った。


 ヴェルリードはしばし待ち、誰も名乗り出てこない事を確認すると、


「よし……執行人、国王を断頭台(ギロチン)に掛けよ」


 大隊長の命を受け、覆面の執行人が国王を両脇から掴み、ギロチンの台座へと続く顔段を歩かせ始めた。

 国王は抵抗することなく、確かな足取りで処刑台へと歩いて行く。


 国王が処刑台に近付くと、群衆が再びざわめき始めた。

 やがて頭がギロチンにセットされると、群衆のざわめきはピークに達した。


 今にも暴動が始まりそうな雰囲気だ。

 ヴェルリード大隊長も自分の大剣に手を掛けている。

 俺も万一に備え、自分の剣に手を掛けた。


 クソッ、やるしかないのか……


 と、その時。


「ランサー王国の民達よ、狼狽えるな!」


 またも轟く大音響、今度はギロチンに掛けられた国王、フィート四世その人が叫んでいた。


 恐らくは最後の言葉になるであろう国王の声を、群衆達は固唾を飲んで聞き入った。


「私は無能な国王だ、国防の重要性を見誤り、帝国軍の跳梁跋扈を招き入れ、首都スピネルを失ったばかりか、余多の王国の民達に多大なる犠牲を支払わせてしまった……許せ……」


 国王の言葉を聞き、騎士団の一人が剣を抜きかけたが、ヴェルリード大隊長によって静止させられた。


「これから我が国が受ける苦難は尋常ではないだろう、だが、優秀なるランサー王国の民よ、我が国はまだ滅びてなどおらぬ!これからの王国の再建と繁栄への責務は重く、その道のりは遥かに遠い。

 だからこの無能な王になど殉ずるな!生き延びよ!

 生きて、生きて、生き延びて、ランサー王国は不滅であることを、後世に知らしめよ!」


 処刑台一帯がシーンと静まり返った。


 ヴェルリード大隊長も瞳を閉じ、静かに聞き入っていたが、やがて目を開き、執行人に命じた。


「処刑を執行せよ」


 覆面の執行人がロープを引き、ギロチンの刃が高く登っていく。

 やがて刃が登りきり、後は手を離すだけで処刑が執行される、刹那。


「処刑を中止しなさい、私はここにいます!」


 街の中心地にある、時刻を告げるための鐘突き堂。

 その頂上の鐘のそばに、金髪碧眼のロングヘアーでドレス姿の女性が立っていた。


 アリシア王女だった。


 ーー


「王女が現れたぞ!」


「引っ捕らえろ!」


 街中に張り巡らされた検問所から、帝国兵達が一斉に鐘突き堂へ向かって走り始めた。


 俺も今すぐに持ち場を捨て、王女の元へ走って行きたかった。

 だが、今はまだ、動くべき時では無い。


(アリーシャ、無事でいてくれ……アリーシャ!)


 ーーーーー


「ついに現れおったか!」


 城のバルコニーから一部始終を見物していたセドリック皇子は、アリシア王女の出現に狂喜乱舞していた。


「何をしておる、早くあれを持て」


 従者の一人が、遠眼鏡を持って来てセドリック皇子に手渡した。

 その遠眼鏡には細長い管が付いており、バルコニーの後ろに置いてある例の判定装置と繋がっていた。


 遠眼鏡を利用して、アリシア王女の姿を確認するセドリック皇子、そして……


「な、なんだと……」


 取り落とした遠眼鏡が床に落ち、カランと物悲しい音を立てた。


「そんな……そのような……」


 青ざめた顔で後退り、崩れ落ちるように椅子に下手り込んだ。


「いかがなさいました?皇子」


 老執事が皇子に尋ねると、


「セバス、余はもう……どうでもよくなった。この国は、淫蕩な女しかおらぬ邪悪で堕落した悪魔の国だ。

 一刻も早く、帝都に戻りたい。そして余のハーレムに籠るのだ」


「承知いたしました、後はこのセバスめにお任せを」


 老執事は魔導拡声器の前に立ち、


「皆のもの、よく聞け。セドリック皇子は先程のフィート国王の言葉に深い感銘を受けた。死刑を中止せよ、死刑を中止せよ」


 ここで一旦間を置いて、


「ランサー王国の民よ。セドリック皇子はフィート国王の覚悟を受け止め、寛大な処置で政策を進めることをここに約束する。諸君らは王国の民であると同時に帝国の民でもある。共に歩み、共に栄えようぞ。帝国万歳、皇帝陛下万歳」


 そう言うと、拡声器のスイッチをOFFにした。


「従兵、皇子を寝室へお連れして。それからレーンヤ将軍に早馬を出せ、大物を釣り上げる準備が整ったと、な」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ