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14行為の余韻

 ーーーーー セシル視点


 嵐のような、そしてどこか優しかった激情が、わたしの上から去っていった。


 サイラス様は、わたしが捧げた全てを優しく奪い取っていった。


 何か、心地好い達成感のようなものが、身体全身を包み込んでいた。


「はあ……はあ……はぁっ…」


 その余韻に浸りながら、息が整うのを待った。


 大丈夫、と二人には言ったが、ここから先は一種の賭けでもある。


 慎重に事を進めなければならない。


 痛む下肢をやや引きずりながら、セドリック皇子の元まで移動し、その拘束をほどいてやる。


「……すまぬな、セシルよ」


 セドリック皇子は沈痛な面持ちで、


「妻となる女性を、暴漢の手から守ることも出来ぬとは、余は何と情けなき男か……」


「あ、あの……」


「よい、何も言わずとも……よい」


 そう言いながらセドリック皇子は、痛む手首を気にかけながら少し離れた位置にある椅子に腰掛けた。


「そなたには、念のため治療魔術師に身体を見させよう。そして再び浴場を使うことも許す」


「……。」


「それが済んだなら、少し金貨を持たせてやるから、余の元から去るがよい。

 そなたは……もう……余のハーレムに加わることは、出来ぬ」


 セドリック皇子は静かにそう言い、頭を垂れた。



 ーーーーー サイラス視点


 翌日の朝、目を覚ましたのは二人ほぼ同時のようだった。


「……。」


 今までも何度か肌を重ね合わせたが、あれはあくまでも治療の為である、という建前があった。


 昨夜のように、お互いに雰囲気に飲まれるままに肌を触れ合ったのは初めての事だった。


 なんだかとても気恥ずかしい……。


 アリーシャも同じ思いのようで、恥ずかしがって視線を合わせてくれない。


 俺は朝礼に出発するための準備を整え、


「それじゃあ、行ってきます」


 と、短く言うとアリーシャも、


「ええ、行ってらっしゃい」


 と、短く返した。


 その表情は、どことなく嬉しそうだった。



 ーーーーー


 正直、この日の朝礼は荒れるんじゃないかと覚悟していたのだが、まるで何事も無かったかのようにスムーズに進んでいった。


 セドリック皇子は昨日の出来事の事を、誰にも言ってないのだろうか?

 それとも、皇子の寝室に賊の侵入を許した、などという醜聞は始めから存在しないというスタンスを取ることにしたのか?


 例によって、騎士団は別命あるまで待機のまま、朝礼は終了した。



 ーーーーー


 部屋へ帰ると、セシルが戻ってきていた。


「サイラス様、ありがとうございます」


 セシルはそう言って俺の身体に抱き付いてきた。


「ああ、セシルが無事で良かった。あ、無事……って言って良いのかな……」


「ええ、無事ですよー。セシルは、サイラス様に女にして頂いたのですから……」


 顔を赤らめながら、どこかトロンとした表情で俺を見るセシル。


「ああー、ゴホンゴホン」


 わざとらしい咳払いをしたのはアリーシャだった。


「ところで、これはどうするの?」


 テーブルの上には革製の金貨袋が置いてあった。

 全部で二つ。


「うん?」


 一つは老執事が置いていった物。

 もう一つはセシルがセドリック皇子から貰ってきたものらしい。


「そういう事なら、一つはセシルの物ってこと良いんじゃないか?もう一つは、俺とアリーシャで半分づつかな」


「ええっ!良いんですか?」


 と、セシル。


「わたしはサイラス様の……奴隷なのですよ……」


 セシルとアリーシャには指定奴隷の首輪が未だにかけられたままだ。

 城内はだいぶ落ち着いた、とはいえ外してしまうのはまだ危険すぎる。


「その首輪は、あくまでも君を守るための物だよ。俺は君を奴隷だなんて思ってない」


「サイラス様……」


「それに今回セシルはだいぶ頑張ったんだ。それぐらいご褒美があっても良いだろう」


「……ご褒美と言うのなら」


 そう言いながら、セシルは俺の右腕に絡み付くように身を寄せる。


「またセシルの事を可愛がって下さいませ。それが一番のご褒美です……なんなら、今夜…すぐに、でも……」


 顔を赤らめながら、はにかむセシル。


 すると、アリーシャがガタッと椅子から立ち上がって、


「私だってまだ治療が」


 そう言って、俺の左腕に絡み付いてくる。


「あなたはもう治ったって言うけど、まだおかしいよ……あなたを見ていると……なぜか身体の奥が、疼くときがある」


 アリーシャ、セシル……。


 俺は両側から二人の女の子に抱き寄せられていた。


「サイラス様」


「サイラス」


 うーん、なんだこれ……天国かな……。



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