11装置の判定
セシルはやや緊張しながら判定装置の前に立った。
判定は……白だった。
「えっ、なんで?」
思わず叫んでしまった。
ケイケンホーフだって、自分で言ってたのに……
「ほう!ほう!こういう掘り出し物が希に出てくるから、止められんのう!」
大喜びしながらセドリック皇子が席から飛び出してきた。
「そなた、名はなんと申す?」
「……セシルです」
「よし、セシルよ、そなたを余のハーレムに入る事を許す」
「あ、あの……」
「今夜はたっぷりと可愛がってやるからのう……しっかりと身を清めて待っておれ。デュフ、デュフフフフ……」
ヨダレを垂らさんばかりに大喜びするセドリック皇子。
俺は詰め寄ろうとしたが、大勢の帝国親衛隊員に行く手を遮られてしまった。
「セバス!この者を余の部屋へ案内してやれ、それから湯浴みもさせておけ!……さあさあ、次の掘り出し物を探そうかのぅう」
セシルは不安げな顔で俺の方を振り返ったが、体格のいい親衛隊員に無理矢理顔を押さえ付けられてしまう。
「サイラス様!助けて!」
「セシル!」
そのまま両脇を親衛隊員に挟まれて、老執事につれられて講堂から連れ去られて行った。
ーーーーー
大勢の親衛隊員に行く手を阻まれ、追いかける事も出来なかった。
城の奥へと連れ去られていくセシルを、どうする事もできず、俺はただ見送るだけだった。
部屋へ戻ってきた俺は、すぐにザックと剣を準備した。
「行くつもりなの?」
「ああ、もちろんだ」
「相手は帝国親衛隊、本物のエリート部隊よ。それに……あなたは自分の国の皇子に刃向かう事になる」
「……。」
「それが、何を意味するか、分かってる?」
「……いーや、分からない」
「えっ?」
「分からない事にして、救出に行く。今は無理だが、夜になれば城内に潜入して捜索するチャンスはある」
「……あなたは……」
と、そこへドアをノックする音が響いた。
開けてみると、あの時セドリック皇子と一緒にいた老執事が立っていた。
「私はセドリック皇子付の執事、セバスチャンと申します」
そう言って老執事は深々と一礼した。
「すまないが、今から少し話せないか?」
俺は了承して、老執事を部屋に入れてやった。
「今回の件、皇子が君の指定奴隷を奪い取る形になってしまった……これはその事に対する、お詫びの品だ」
そう言うとテーブルの上に革袋をドンっと置いた。
中には何枚もの帝国金貨が入っていた。
かなりずっしりと重い。
「これから、セシルはどうなってしまうのです」
俺は老執事に尋ねた。
「あのお嬢さんは、セドリック皇子の65番目の妻として、ハーレムに組み入れられるだろう」
「……。」
「なにも悪いことばかりでは無い、皇子の妻の一人として、彼女は何も不自由しない生活を手に入れるだろう。食事も、住居も、帝都の一級品が用意される。
……あえて言わせて貰うならば、君のような下級貴族の指定奴隷として一生を過ごすより、遥かに快適な生活だ」
確かにその通りだ、全くの事実だろう。
だが……
「なぜわざわざこんな事を、セドリック皇子はアリシア王女を捜索に来たのでは無いのですか」
俺がそう訪ねると、老執事は淡々と、
「アリシア王女……アリシア王女か。そうだな、王女がさっさと捕まって、皇子の65番目の妻になっておれば、我らもこんな所まで来る必要は無かった。あのセシルとかいう少女も、皇子に見初められる事は無かっただろう」
「……っ」
アリーシャが少し顔を歪め、唇を噛んでいるのが見えた。
「この行為はな、ハーレム集めであると同時に、皇子流のアリシア王女への当て付け行為でもあるのだ。皇子はアリシア王女が使っていた部屋を自分の部屋にしている、そして王女が使っていたそのベッドで、あの少女を犯すのだ」
ーーーーー
老執事は去り、金貨袋が残された。
帝国金貨は各国でも高レートで取引されている。
これだけあれば、相当な額だ。
「セシルさんは、アリシア王女の身代わりなのね……」
アリーシャがポツリと言った。
「アリシア王女の部屋か……捜索場所が絞れたな」
と、俺。
「金貨袋貰ったのに……行くつもりなの?」
「それはそれ、これはこれだ」
「……セシルさんは、ハーレムに入る事を、望むかも知れないわよ」
「それは会って直接本人に聞いてみるさ……少なくとも俺には『助けて』と、言った」
アリーシャは静かに俺の顔を見つめ、
「たったそれだけで、あなたは……」
それから意を決したように、
「分かった、私も手伝う。アリシア王女の部屋へ向かうのなら、いい方法があるから……」
それから二人でしばらく、作戦を練った。