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7 人生は長い長いゲームだ。って長すぎるだろ!

煩い…

本当に煩い…

ここは珍獣猛獣の溜まり場なんじゃないかとさえ私に錯覚させる。

まともに席に座っているのは数人。一応私と茜はそうだ。

あとは走り回っていたり…

物を投げたり投げられたリ…

初登校となり泣き叫ぶ子もいたり…

あぁまだ下駄箱で母との別れを惜しむ子供もいるようだ。

そういった混沌とした教室だった。

おしゃべりをするなんて当然のことで教師は一体何をしているのかといえば、今は教室にはおらず下駄箱で別れを惜しむ子を一生懸命母からひっぺがしていた。

あまりに酷い惨状の小学一年生という生きものにこれから一年続く光景を思うと頭痛がした。


「帰っていいかな…」


「えっ!?!?」


ただでさえ子供は苦手で大嫌いな私だ。

こんな子供の悪い一面をどっと見せられては帰りたくもなるだろう。いくら帰りに『クロと会う』という楽しみが待っていても耐えられそうにない。出直せばいいだけの話だしここにいて得るものはなにもない。

違うな。帰れないんだった。帰ったところで祖父母がいるんだった。

そうか…祖父母がいるのか…

つくづく私にも居場所がないと思ってしまう。

過去の私もいつもそうだった。学校にも家にも居場所がなくて逃げる場所がなく耐えるばかりの日々を悶々と過ごしていた。

もしどこかに居場所があればあんなことには…起こってしまった未来は私自身に形成された性格はどうにもならないと分かっているのに自分らしくもない希望的観測をしてしまう。


「帰っちゃうの?」


隣に座っていた女の子が無視されたと思ったのだろう恐る恐る聞きなおした。

だれだろう?見覚えがなかった。

私の学年は1年から6年までの間一クラスだったためクラス替えなどは存在しない。

殺した相手だということは分かっているが名前さえ分からない。

年齢により容姿が大きく異って相手を探すのに苦労した経験を思い出す。歳をとって顔つきが変わったように幼児化しても誰が誰かなんてさっぱり分からないもので目の前の女の子が誰か分からなかった。


「えっと…」


「梓だよ!」


梓という名前に聞き覚えはあった。でもそれだけだ。卒業写真にあったというそれだけだ。

容姿が変わったから分からないというのも言い訳でこのクラスの大半は正直未来でも顔の判別がつかない。

何故かって?いじめられていたからだ。

一人か二人にいじめられるならまだしも学校全体としていじめられていたら、いちいち個人の顔なんて覚えられるわけがない。

5年間も毎日顔を合わせていて何故覚えられないのかとそう思う人もいるだろう。

でも想像してもらいたい。会社で数年間一緒だった同期の顔や同僚の顔を引退してから覚えているだろうか?ろくに話さない相手の顔まで覚えているだろうか?

きっと影が薄いやつの一人くらいいるだろうがその人物の顔がどんなだったか覚えているだろうか?

私もそれだ。

別に話もしない同じようないじめをする不特定多数の人間を一々覚えてはいない。

流石に中心となり酷いいじめをしてきた相手は覚えているが、遠巻きにいじめに加担した人間まで覚えてはいない。

そう皆、皆ノーフェイス。

憎悪だけが増えていき名前に対する悪意だけが積もっていくが、顔や人格なんかは知りようがない。

梓はおそらくそのノーフェイスの一人だろう。


「梓ちゃん。帰らないよ、大丈夫。つまらないなぁって思っただけだから」


「そうだね。先生もどっかいっちゃったし退屈だよね。」


ノーフェースに対するふつふつと湧き上がる憎悪を押し殺し自分の意識を反らそうと横に座っている梓の机を見た。どうやらおえかきをしていたようだ。

新しい学習帖がもう色鉛筆でぐちゃぐちゃになっている。

『懐かしい…子供って絶対太陽かくよなぁ。』

梓の学習帖にもでかでかと太陽が描かれていたのを見て心理学の授業を思い出した。

太陽の位置や色によって家庭環境や自己認識が分かるというものだ。

梓の場合はというと…なんで七色の太陽なんだろうか?赤でぐるぐる塗りつぶした後に黄色やオレンジだけでなく緑や青や紫と全ての色をつかって太陽を書いていた。

そして下の人間を押しつぶすほどの大きな太陽でかつど真ん中。自己評価高いし中心にあるということは両親の調和はとれてるんだ。


「絵上手だねー。」


「ほんとう!?ありがとう!私ね、絵描くの大好きなんだぁ!」


はい、ここどう返せばいいか分からない。

『あっそ』じゃだめだし『凄いねぇ』もなんか違うし…人間の心理は分かってもコミュ力不足が小学一年生になった今でも苦労する結果になるなんて。


「そうなんだね!こことここの人はお父さんとお母さん?」


困ったから違う話題に反らすことにした。

そして真っ黒に塗りつぶされた人型を指した。両親のバランスはとれてるのに抑圧とかあるのかな?と思わせるサインだった。

そして真ん中には誰もいない。大人の視点からみると少し怖い絵だ。

幸せな家庭の場合は両親と子供が仲良く手をつないでいたりするものだけど、この絵は違う。


「うんそう!」


「梓ちゃんは描かないの?」


「私はいいの…」


「とーちゃん!」


ナイスタイミングだ茜!!

この梓という人間の家庭環境が怖すぎて気になりもう話進められなかった。


「梓ちゃん!絵見せてくれてありがとう!」


慌てて梓にお礼をいうと梓は先程少し影を落とした表用を切り替え笑顔をつくった。

子供だ子供だと思っていたけれど、こういう姿を見ると子供だって個人なんだなぁと思ってしまう。

子供には子供の考えや世界があって周りの目を気にしながら生きてるんだなぁと。

そう思うのは私が同じ年齢になったからだろうか?


「とーちゃん、あの子は?」


「梓ちゃんだって」


「ふーん。それより大樹そろそろ止めないと!」


茜が姉御肌っていうのは初めて知った。

第三者の視点で見ているせいかここ二日新しい発見が多いように感じる。

例えば先程の梓が絵が得意で家庭環境に問題をかかえているなんて知らなかったし、茜がこんなに委員長的性格だったということも初めて知った。というか興味すらなかった。

本人にいったら調子に乗りそうだから決して責任感が強い委員長っぽいとは言いたくはないが、何かとそういうところが垣間見える。

今までいかに自分のことでいっぱいで他人の目を向けていなかったのか実感していく。

当たり前のことだけれど、自分の世界があるように他人には他人の世界があるんだよね。今まで私はその他人の世界を尊重できていただろうか。

出来ていた自信は全くない。


「茜、ほっとこう。大樹はいつものことだから」


「だめだよ!怒られちゃう!!」


『そんなに注意したいのなら一人ですればいい』

『私は大樹が起こられたところでなんの関係もないしどうでもいい』

私の心がそう茜に言っているし、これから距離をとろうとしている人間に親切にするのはあまりにばかげているように感じた。

そういった直感や心の叫びを聞きながら茜にそのまま言って断ろうと口まで開いたというのに、私は何故かそんな行動は取れなかった。

逆に気付いたら茜よりも先に私が大樹に声をかけてしまっていた。


「だーいき?そろそろやめようか。」


「とーちゃん?」


「透?」


「先生戻ってきたら大樹は怒られるだろうなぁ…いいの?」


「なっ」


「とーちゃんどうしちゃったの?」


「へへ。実はほっとこうかとも思ったんだけどね。大樹に注意したところできっと聞かないだろうし無駄だとも思ったんだけどね。」


「無駄ってなんだよ!」


注意したのがあまりに予想外だったらしい。

大樹が走り回って落としたものを茜が拾い集めているのを見ながら同じように見ろと指さした。


「大樹がやったんだよ?拾わないの?」


「やっぱお前昨日から変!前は一緒に走り回ってたくせに!」


大樹が殴ろうと右ストレートを仕掛けるが男だとはいえ小学生に負けるつもりはない。

だって私殺人者だよ?

受け止められた拳に驚きながら大樹は変だ変だと繰返した。


「私も手伝うからさ」


優しくなだめるように言うと大樹のすっかり沸騰した怒りは何とか納まったらしい。

最後にもう一度『変だー』と叫んだがこれは負け惜しみに近いなと笑ってしまった。


あれた教室の片付けがようやく終わろうとしていたころ先生が帰ってきて両手をたたいて注目を集めようとした。


「席ついてー」


それがどうにも私にはドッグトレーナーが犬にたいして『ハイ、オスワリ』といっている光景と重なってしまう。まぁこの惨状をみると犬の方が賢いのは明らかなんだが。

先生は何度も何度も両手を叩いては座りなさいと繰返し、最終的にいうことを聞かなかった数人をとっつ構えて座らせた。

だが子供がそんなに大人しく座るわけも言うことを聞くわけもなく、子供vs教師の戦いは結局1時間近く続いた。ある程度のところで妥協して無視しないから余計に子供達は面白くなってしまったようだ。

そうこうしてようやく授業かと思ったら今度は挨拶の仕方ときた。

もう意識が飛びそうだ。

先生のあとに続いて「おはようございます」から「さようなら」までを繰返しいう。

逆にそれを知らずにどうやって生きてきたのだ!?と聞きたくなる授業だ。

続いてでてくるのが「トイレ」についてやりかたとかの授業。もう『ファ?』といいたくなることばかりで本気で帰ってもいいかと聞きたくなってしまう。

神様もなにもこんな幼少期に戻さなくてもせめて中学生とかにしてくれれば良かったのにと本気で思ってしまう。

殆ど教師の話なんて聞いておらず、教師の会話の代わりに自分の今後について考えた。

殺人を犯してはいけないと制限をされた私はどうすれば殺人に至らないのだろうか?と。

誰も味方がいなかった私にとって唯一他人から逃げる手段だったものが暴力や殺人だった。

暴力にうったえれば誰もいじめてきはしなかったし、殺してしまえばと思えば人間付き合いも楽だった。そういうことが出来ると考えると多少のことは許容範囲になったのに、それが今は出来ないとなると根本から考えなければならない。


【回避案】

1.登校拒否

2.暴力

3.…友達作り?


1は私の家庭では許されないだろうし、2かな。ジャイアンも力が強かったからだれにもいじめられない分けだし。フォースと共にあれとも言う。

それに誰かに暴力をふるう前提でなくとも、今日みたいに誰かに殴られそうになったときに防ぐ手段は必要だろう。それは少なくとも武力行使のいじめには立ち向かえるということだ。

3はそもそも必要としていないし、小学校で友達が多い明るいキャラは私には無理だ。いずれ切れる縁だし別に友人は重要でもないから今私に必要なのは2だろうな。


私はやり直し人生で神様につけられた制限(殺人)のために、まず自分がそこに至った原因となるいじめを回避しなければいけない。

なんでこんな面倒なことを私がしなきゃならないんだとは思うけれど、ストーリーでいうと前世?では一般的にバッドエンドだった私がハッピーエンドをもし迎えられるというなら攻略しがいがあるってものだ。

これはゲームだゲーム…

意志も憎悪も捨ててゲームをハッピーエンドに進めればいいだけだ。

人生っていう長い長いゲームかぁ。

飽きないといいけれど。

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