4 祖父母と寝させるなんてあんまりだ
夕方から夜に差し掛かり日が最後の光を名残惜しそうに残す頃ようやく家に到着した。
先程いた家具屋から家までの距離はさほど遠くはなかったが、それでも不思議と子供の私にとって流れる時間は今までと違っていてとてもとても長い時間に感じた。
車窓から流れる景色はどれもとても懐かしく昔の記憶をかき立てていた。
未来ではなくなってしまったお店もまだ新しい建物としてここに存在している。
未来ここは廃屋の街になり果てていた。
別に大げさな表現というわけではない。
飲食店や用品店が並ぶ通りはシャッター街になっていたし、街の中心に聳え立つ大きな駅は廃線と未来なる。
唯一残っているのが市役所や警察署そして郵便局だったが、今と比べられない程古びていて建物の老朽化を見ると塗りなおしなど手を入れた様子もない。
この街は今が全盛期なのだ。
そういう街を見ながら帰ってきて自分の家を見て改めて思う。
この家もまた新しい姿だ。
未来に貸家として人に貸してしまうこの家は、借手がひどく荒らしてしまい雑草ばかりの土地だった。
家としての価値がほとんどなくなってしまってからは更地になってしまい私がいた未来ではもうこの家は無い。
玄関前にある紅葉の木もないし、もう少し先に飼うことになる当時飼っていたペットの小屋もない。
時というものはひどく残酷なものだ。
過去を後悔したことがない私でも過去に戻ってしまうとそう考えさせられる。
家具屋での一件で祖父に少しでも仕返しができて楽しかったはずが、車からそうした風景をみているうちにテンションはもう下がりきってしまった。
ふと思う。祖父母はいつまでいるのかと。
遠方に祖父母はそう長くはいないというのは分かっているが、ただでさえも昔に戻って耐えがたい中祖父母と共にいるなんて考えただけでもぞっとする。
「おじいちゃんおばあちゃんはいつまでいるの?」
尋ねたとき母の表情を見ると今まで私はこの質問をしたことがなかったらしい。なんで急にそんなことを聞くんだと言う言葉が表情に表れていた。
「もう少しいてくれるみたいよ」
何とか母は『帰って欲しくない』と言う言葉に変換したようで前向きに捉えたようだ。なだめるように話しているからおそらくそういうことだ。
「もう少しって?」
「それはまだ聞いてないけど…」
先ほど前向きに捉えたはずの母は手に持っていた皿をぎゅっと握った。皿を落としてしまわなかったのは幸いだ。
結局母に怪訝そうな顔をさせるだけで明確な答えは返ってこなかった。
1週間はいないだろうけれど2 3日は確実にいるということだろう。
このメンバーで2 3日…私が耐えられるだろうか…
本当に怪しいところだ。
もしこの時期に殺めてしまえばどうなる?
1.当然のことながら両親はなく
2.これまた当然両親に恨まれる
3.少年院にはいる?否、この時期の小学一年生なら厳重注意で済むだろうな
4.この場所で住まなくて良くなる
5.祖父母に未来永劫悩まされなくて済む
うわっ!凄く良い考えな気がしてきた!
事故に見せかければ子供の悪戯で済むしまぁ一度警察に行くことにはなるだろうけれど、罪は容認される。そして何よりこの場から離れられるということは今回の私の破滅ルートは完全に回避されるのだ。まぁ…最初に破滅ルート序章は経験するが仕方ない。
にしても問題だ。四人を一気にとなるとかなり手間がかかる。
どうすればこの祖父母との生活を回避できるのかと考えていたら苦痛だった夕食もあっという間に終わった。
いつの間にか満たされたお腹をかかえ眠くなってきた頃問題が発生した。
未来のことを考えるよりももっと直近に大変な問題が発生した。
私のベッドがないのだ。
なぜ勉強机を買ったのにベットがないのか…
机ならいくらでも替えが効くのにベットこそ最重要アイテムじゃないのか?
私はどこに寝るんだろうか?
恐る恐る祖父母の方を見ると『今日は一緒に寝ましょうね』といった顔をしてニヤニヤ笑っていた。
『外で寝ていいですか?』
というかここにソファーがあるから毛布か何か持ってくれば寝れるだろうし、もうここで寝てしまいたい。
だがそれが許されるわけもなく、さっさと連れていかれそうになる。
苦渋の決断だった。
「お母さんと寝る」
このままここで寝落ちすれば勝手に運ばれてしまうだろうし、祖父母と一緒に寝るのは死んでも嫌だ。言葉通り死んでもだ。
「でもせっかくおじいちゃんおばあちゃんが来ているんだから一緒に寝たら?」
「お母さんと寝る」
「わがまま言わないの」
「いやーーーーーッ」
どっちがわがままなんだろうか?
祖父母や母のわがままに私は単に付き合わされているだけじゃないか。
結局嫌だ嫌だと泣きわめく私に耐えかねて両親は私が母と同じベッドに眠るのを待ってから祖父母のベッドに運ぶことにしたらしい。
絶対にそうだ。父が『嫌だと言うんだから今日は諦めたら良い』とあっさり認めたから、おそらく翌朝には祖父母のベッドにいることに違いない。
どちらにしても誰かが近くにいては寝れないんだ。
眠れない夜の遊びとしてここはおとなしく騙されてみることにした。
結果?
分かっているだろうけれど予想通りだった。
私が静かに寝入るように息をひそめたのを狙って父は私を運ぼうとした。
「いやだ!!!」
「最初からおとなしく下で寝ていればいいんだ」
「いやだ!!!」
父が無理に連れて行こうとするのを私は全身で拒絶した。それはそれはとても大きな声で。
ここまでくると自分の演技も子役さながらなんじゃないかとさえ思えてくる。
記憶がある限り泣いたことさえない私にとっては心に病をかかえた人間になった気分だ。
繰り返されるその押し問答でとうとう祖父母の方が諦めたらしい。
「もういいわよ。そんなに嫌がっているのにかわいそう。」
「でも」
「それに明日になったら気も変わるでしょう。」
残念ながら明日になっても気は変わらないんだな。
その晩ようやく終わった祖父母のもとに運ばれる恐怖に打ち勝ち両親と同じベッドに落ち着いた。だがやはり人が近くにいては眠れず毛布ごとベッドの下に落ちてやっと眠りにつくことができた。