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3 子供なのに家具店につれていかれるなんてあんまりだ

ようやく今日のお勤めが終わると思ったのにこの日の私はかなりのハードスケジュールのようだ。

車に乗ったメンバーを見るとカオスとしか言いようがなかった。

両親とその祖父母。

未来の自分の感情があふれて吐きそうになる。今朝はまだ平気だったがこの狭い空間に祖父母が全て揃うという環境は私には無理だ。なぜかと言うとこの中に殺した人間が三人もいるからだ。この小さな体に納まりきらない殺意をどうすればいいのだろうか。

両端を祖父母に挟まれ気持ちが悪くなってきて目を閉じると殺したハズの祖母が自分の方へと誘導して膝枕した。

耐えられなかった。

本当に耐えられなかった。


「気持ち悪い…」


そう口をおさえると祖母はさっと自分の膝をどかし袋をさがした。袋が見つからなかったらしく父が慌てて路上駐車すると私は車から飛び出し路上に吐瀉した。

路上にそんなことするなんて酔っぱらいくらいだと思っていたのに未だに脳内をグルグル回る殺意に気持ち悪さは納まることがなかった。


「車酔いなんてしたことなかったのに…食べすぎちゃった?」


後追いしてきた母が背中をさすりながら尋ねたが私はその問いに答えることは出来なかった。小学一年生の口から殺意なんて言葉が出たら殺到するだろう。


「もう少しで目的地につくからそこまで頑張ろう?」


頑張れないからここで吐いたというのに、母は車でまつ祖父母の様子が気になるようだ。母以外誰一人降りそうにない状況は子供なんて心配していないという内心を表しているようだった。やっぱりこんな小さい頃からそういう人間たちだったのか…私が小さい頃だったらもっとまともな人達だったんじゃないかと期待していたのに。何を期待していたのだろう。

数分間うずくまり胃袋も空っぽになると気持ち悪さをこらえながら車に戻った。


「お母さん、助席に乗りたい。」


「案内できないでしょ?」


「今度は我慢できないかもしれないけど良い?」


今度は祖父母に吐瀉すると言われ母はかなり嫌そうな顔をしながら苦渋の決断をしたようだ。私は助席に母は先程座って位置に座ることになった。

祖父母に何故私が後ろに来ないのか?と何度も尋ねられる母には申し訳ないけれど、私は知ってる。小さい頃からなんどもこうして祖父母が集まるときは必ず真ん中に座らされていた。そして絶対祖父母の機嫌をとらされるんだ。それを両親はバックミラーで確認するだけで私の苦労は知りもしなかった。そして未来に反抗した私に言うんだよ。

『おじいちゃんおばあちゃんを孫が好きなのは当然でしょ?』

とね。両親の普通は祖父母と孫の仲良しというものでこの車内はまさに両親にとっての理想だろう。これから同じ状態が私が限界を迎えて反抗するまで長年続くであろう未来を考えると今から逃げ出したくなる。


ようやく車が止まり、着いた場所は大手ショッピングモールだった。

そのショッピングモールの何処に向かうのかというと子供の関心がある玩具屋ではなく子供は絶対興味のないような家具の店に一同向かっていった。本当に子供というのは不敏なもので『私興味ないから』といい一人別行動が絶対に許されない。まぁ使えるお金がないからどこかでお茶を飲むことも出来ないんだけど…

嫌々ついてきた家具屋に入って早々に祖父母は『好きなものを買ってあげるよ』そう言った。机と椅子の家具屋に入って好きなものと言われても本当にどれもいらない。

今まで自分で購入した机といえば1000円程度の簡易的な机だったし、椅子についても同じだ。正直座れればそれでいいし、ものさえ置ければそれでいい程度にしか関心がなかった。こういうものに趣味がある人間なら喜んでついてきただろうが今も昔も私には全く興味ない。高額の表記がされている机を眺めながらこんな価格で机や椅子を買う人の気が知れないと思った。そして大人の私にさえ興味がないものを子供になった私が興味をしめす分けもない。

家族がぞろぞろと向かった先は形状的に長年使えなさそうな子供向けのデスクが並ぶ場所だった。どうやら彼らは勉強机を買ってくれるらしい。だが正直に言おう。将来使えるものならまだしもこんな子供向けのもの本気でいらない。もう子供なんだからダンボールでもくりぬいてそれでいいわとさえ言いたくなる。


そしていらないというのにはもう一つ理由があった。こうやって買い与えてくれたものが理由に私は何度も遠距離に住む彼らの下に呼び出されることに未来なるのだ。

そのたび1週間にわたる苦痛が続くことを考えると今不要だと言えばすむんじゃないかと淡い期待をしてしまう。


『祖父母の家に行くことを楽しみにしている子供もいるのに何がそんなに嫌なのか?』


そう聞く人もいるけれど私の祖父母はきっと誰も耐えられないだろう。

母方の祖父母は自営業の仕事を小さい頃の私にも手伝わせるし、その祖父は殴る蹴るといったパワハラスメントを繰返していた。母も祖母も傷が耐えなかったのを私は知っている。そしてそれは私も例外ではなくて母がいない間は代わりに私が暴力を振るわれる。そしてそういう時の祖母は息をころして見ているんだ。止めること?ないない。

父側の祖父母はそう考えると少しましだけど、それでも神経質で作法に煩い躾三昧の一週間コースは勘弁してほしい。豪華特典として少しでも間違えればたたかれるし、絶えずしつけがなっていないことや悪口を長々と聞かされる。


さて問題です。

あなたはそんな祖父母に一週間かけて会いたいと思いますか?

私は御免です。


今日着ているこの服も今から買うであろう机も全て呼び出されるための道具だと考えると見るのさえうんざりする。

それに好きなものをと言いつつ絶対買うのは私が選んだものでは無い。今祖母が見ている机がいい例だ。興味もないキャラクターが派手派手と机のあちこちにあしらわれて、このアニメに興味があるのかと尋ねてきている。もしここで興味がないなんて言ったら、どういうものに興味があるのか聞くまで聞かれ続けるだろう。

なにもかもが面倒だ。もう話すことさえも面倒だな。

子供の特権を乱用し展示された椅子にすわる。父側の祖父母も流石に人前では注意しないだろう。なんせプライドが高いから。注意しそうな両親は遠くの机を見ているし今はやりたい放題なのだ。

やりたい放題か…

さっき好きなもの買ってくれるって言ったよね?

残念ながらこの時代はまだ民事不介入で家族内暴力は合法で法的に訴える方法はないけれど、できないならやり方を変えようか。

子供用の椅子から元気よく飛び降り家具屋の中を見渡し、そしてようやく目的の人物を見つけた。


「ねぇ、おじさん」


60代といったところだろうか?エプロンの店員が目立つ中この人だけ服装も違うしまず間違いないだろう。


「なんだい?」


「こーんなに沢山家具があるのに値段ってどうやって決めてるの?」


「そうだね、家具の形とか使っている木の種類とかで決めてるかな?」


輸入家具では決めないだろうと思いはしたが子供むけの返事に大きく頷きながら周囲の家具を見渡した。


「じゃぁ、叔父さんがもし一番高くつけるなら?」


「高くかい?」


「うん!それが一番叔父さんにとっていいものでしょ?」


「まぁ…そうだね。」


子供相手だからまともに取り合わない可能性が非常に高いけれど、もし答えてくれるなら自分で探さなくて済む。


「実はね、この二階にも家具があってそこに隠してあるんだ。」


口に指をあて秘密の合図をする店主は階段の上を指してこっそり教えてくれた。

確かに高額の物は奥まったセキュリティが高い場所に置くものだけれど二階かぁ。


「そうなんだ!?見に行ってもいい?」


「え?いいよ?でもあまり子供に興味があるデザインじゃ」


店主の言葉を背中で聞きながら私は二階への階段を上がった。

凄く頑張って上がった。なんせ足の長さが今までの半分だから階段は凄く高く感じるし一段のぼるのにも腿あげクラス。ようやく2階までついたころには疲れ切っていたが不思議と息切れはしていなかった。


店主が話していた通り二階の家具は一階のものと比較出来ないくらい素人目でもいいものが揃っていた。先程とはことなり一品一品に触れないように慎重になりながら値段を見ていきようやく目当ての物を見つけた。


「ん?なんで透がここにいるんだ?」


父に見つかってしまった。うわーどうしよう…どう切り抜けよう。

父にこの机が欲しいだなんて言ったら値段をみてやめなさいと言われるのはまず間違いないしそんなことになったらあの将来何の価値もなくなる学習机を選ぶ羽目になってしまう。


「駄目だった?」


「傷つけたらどうするんだ。下の商品を見ていなさい。」


そう言いながら父に捕まり連れられるように結局また一階に戻ってきた。災難だ。またあの家具を話すときに登らなきゃいけないなんて…

心配してたという祖父母が寄ってきた。父は早々に私を祖父母に預けてまたどこかへ行ってしまった。


「急にいなくなったら心配するでしょう。」


「さぁ一緒に机さがしましょうね。」


この時はまだ本心だっただろう笑顔が私には歪んで見えたのはきっと未来に起こる出来事を知っているからだろう。


「私、欲しいものあった!」


「あったの?どれが欲しい?」


「二階なんだけどいい?」


「もちろんよ!いっしょに行きましょうか!」


お父さんが置いていったんだからね?

下で母と一緒に家具を探す父の姿を確認して私はこっそりと祖父母をつれて二階に行くことにした。

再び登るはめになった高い高い階段を必死に登りながらわずか数分でまたここに戻ってきた。

そして。


「この木のおっきいやつが欲しい。」


流石に驚いたのか祖父母は言葉を失くしていた。

驚くことも無理はないだろう。だってこの机の値段は三桁だから。ただの三桁じゃない。万の三桁なんだから。

どうやって見つけたのかと唖然とする祖父母にもう一押しした。


「私これが欲しい」


「と…透ちゃんにはまだ早いわよ」


「そうだな。透には下にいっぱいいいものがあったな。」


「ダメなの?」


今後の苦労に対する報酬にするにはそのくらい妥当だろう。この人たちからもらえる報酬は15までだからあと10年もない。それまでに今後苦労するだろう分だけ…いや待てよ?毎度ねだられたら流石に来るなと言ってもらえるか?

ようは困らせればいいんだな。


「ダメじゃないけれど、まだこの机は透ちゃんには早いのよ。」


「ほらアニメの絵も書いてないし、つまらないだろう」


「おじいちゃん おばあちゃんはさっき見てた机使いたい?」


わけないわな。アニメと一切縁がない人間がアニキャラばかりの机だ。

きっと祖母は『可愛いし使いたい』というだろうから、祖母の言葉を私は待った。そして『本当に?』と聞き返すのだ。


「子供はこんな机じゃなくて下にあった机を喜ぶもんだ」


まさかの祖母ではなく祖父が口を開いた。押し付けてきたか。

この人ならやりかねないな。


「じゃぁ、いらない。私は下の机いらないし。」


そう趣味をおしつけられるのは御免だ。押し付けて自己満足に浸りたいだけでしょ?ハラスメントをやる人間はプライドが高いからこういう馬鹿にされた態度が一番腹立つのを私は知ってるんだよ。


「ごめんね。無理言って。」


今にも沸点にたっしそうな祖父に私は残念そうに言った。

それはもう残念そうな感じにだ。


「でも私本当に下の机ならいらないし、今日は帰ろうよ。」


そう買う気がないなら帰ろう!時間の無駄だ。

腹立たし気に階段を降りようとする私を見ながら祖父は真っ赤にした顔で家具の手前にあった紙を抜いた。

祖父は怒ると冷静な判断が出来ない。昔からそうだよね。そして祖母は祖父の意向に一切口答えしない。それも昔から。

怒りのあまり私を置いて下に向かった祖父を祖母は私をおいて追いかけた。

ほら、子供をのこしていく。

こういう片鱗に昔の私は気付かなかっただろうけど、今は違う。要所要所に見え隠れする本心が手に取るように分かってしまう。

私がようやく下に降りられたのは会計をする寸前だった。お金を払おうとする母や父側の祖父母に祖父が頷こうとするところだった。


「あれれ?おじいちゃんが買ってくれるんじゃなかったの?」


子供にもどった彼は私の良い参考だ。

とにかく子供らしくとぼけることが大事!

そうすると、ほら案の定祖父は母や父側の祖父母の提案を無視してさっさとお金を出してしまった。なんでそんな大金を持っているのかって?だって今はバブルだから。


未だ顔を赤くした祖父の隣で私は来たときとは違うワクワク感で足を揺らした。

きっといま悪い顔をしているだろうし、この行動はすぐに注意されてやめることになるだろうけれどそれでもいい。

ようやく分かった。

私は復讐する機会をたっぷりもらえたのだ。

うざったく こにくたらしく

そんな絶対会いたくもないという孫に私はなってやる!


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