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2 レストランで走り回るなんてあんまりだ

「透ー、なんでそんなに嫌なんだよ?」


「そうだよ!とーちゃん写真大好きだったじゃん」


「今日絶対変だって」


こいつらとこんなに仲良かったっけ?

心配される言葉に私は呆然とそんなことを考えていた。当時の私は今日この日をどうやって過ごしていたのだろうか?

渡されたサプライズのピンクのヒラヒラの洋服に羞恥プレイだと思わんばかりの自己紹介そして父の趣味で無理矢理とられた写真。どれもが未来の私の最も苦手とすることで当時の私はどうやってこれを耐え抜いたんだろうか?

未だに道行く人に見られる注目の的のこの服に恥ずかしくなり裾をつかみ下を向いた。


「ほら皆!食事にいくわよー!」


大樹の母が声をかけると茜に手をつながれ親同士が話しているところまで連れていかれる。

ちょっとまて!?私も行くのか!?この格好で!?!?

困惑しながら茜をみるとさも当然だというように手は握られたままで私は逃げ道を失った。


「ハンバーグがいいね!」


「俺カレーライスとった!」


「じゃぁ俺唐揚げっ!」


子供たちが大声で自分の好物を叫びまるで出されるメニューが一品しかないように独占していった。いや、沢山あるだろ…かぶっても


「とーちゃんはどうするの?半分こする?」


普通に嫌だろそれ。恋人じゃあるまいし何が悲しくて女同士で半分こせにゃならんのだ。


「私もハンバーグにする」


そういうと茜は凄く嫌な顔をした。まるで自分のハンバーグが取られてしまうかの表情で今にも泣き出しそうだった。


「ハンバーグは茜ちゃんのものなのー。とーちゃんはダメー」


ダメダメ周期の2歳児かっ。別に店には大量にハンバーグあるんだからそこはいいだろ。


「透、お前やっぱ変!」


「なんで?」


「だっていっつもお前ら半分こしてたじゃん!茜がハンバーグでお前がオムライスって決まってたじゃん」


「だよなー、茜と喧嘩した?」


「してないよ。たまには沢山食べたかっただけ」


児童は面倒だ。

本気でそう思う。

結局私はオムライスを注文させられるはめになり、ばかばかしくも何故かオムライスの上で自慢げにたっている旗をさっさと下した。旗とか餓鬼か。いや…がきだけど…


「旗は最後まで残さなきゃダメだろ」


そういいながら未だに変だ変だと言いながら啓介が見る視線を無視しながらソースやオムライスを綺麗に半分にしてから食べ始めた。ようやく四分の一を食べ終わるころに視線を感じ隣をみると隣にいた茜はすっかり自分の分を食べ終わったらしく私が食べ終わるのを待っていた。

慌てて口に頬張り半分食べ終わり茜と皿を交換した瞬間、私は半分というのはやはりろくでもないものだと後悔した。茜のぐちゃぐちゃになったハンバーグの半分を渡されもう本気で児童が嫌になった。


「とーちゃんあーんしてあげる!あーん」


ぐちゃぐちゃなミンチに戻ったハンバーグをスプーンですくい私に押し付けてくる茜。全くの悪意なく善意で食べさせてくれるっていうのは分かるけど限界だ。


「茜ちゃん、ハンバーグ美味しかった?」


「うん」


「じゃぁ茜ちゃんにあーんしてあげるよ!もっとたっくさん食べてほしいし」


茜のスプーンをひったくり茜に食べさせると茜の幸せそうな顔で一難さったと安堵した。

さて問題はこのミンチになったハンバーグだ…残すか否か…

親の顔を見るといつも通り残すことは許さないっていう視線を投げかけられる。『じゃぁこのミンチ食べてみろ!』そう心の中で叫ぶがそんなことは叶わないって分かっている。

ぐちゃぐちゃになった料理を目の前にうんざりした表情の私を啓介だけでなく大樹 茜 までもがおかしいと心配そうに眺めていることに気付き私は慌ててハンバーグを口に突っ込んだ。

正直味は記憶したくもない。ぐちゃぐちゃのハンバーグにベタベタとソースがついたごはんみるだけで吐き気がするのにそれを食べた私に私は賞賛したい。


「美味しいよね!ね!?」


笑顔で同意を求める茜への答えはYesしか残されていない。

未だ口にのこるミンチを水だ流し込みようやく口を開くことができた。


「オムライスも美味しかったでしょ?」


「うん!!」


大満足の笑顔だった。

子供ってこんなもんなのかなぁ…自分がした料理への仕打ちは食事中のマナーの一貫のようで平気でぐちゃぐちゃにするし平気で遊ぶ。自分に子供がいなくて本当に良かったと安堵する。


あの後すっかりごはんに飽きた大樹と啓介は自分の食べ物を投げながら走り回り遊んでたし、茜はハンバーグのソースがまだついているその手でベタベタとメニューを触っていた。これは見たことさえ後悔した。しばらくメニューを開けなさそうだ…触りたくない。

こんなにカオスな現実がとなりで繰り広げられているというのに、そんな中親たちはなにをしているのかというと…全く通常運転だった。正直に飽きれた親だ。

他の客から冷ややかな視線を浴びせられている現実はもう慣れっこのようできっと誰かが注意したら注意した側が後悔することになりそうだ。

無惨に食べ散らかされた皿を見ると店員さんに同情する。この惨劇を片付けるのはきっと店員さんなんだから。

子供たちはすっかり食べ終わり暇をもてあましているが、親同士の会話は弾んでいるらしくまだまだ時間がかかりそうだ。暇すぎる…スマホがあれば何時間でもつぶせたが今はなにもないし、できるとするとこのナプキンで遊ぶことくらいだろうか?時間がたつにつれ走り回る大樹や啓介の気持ちが分かってきた。とにかく暇なのだ。

結局なにもすることが見つからず私は眠ることにした。睡眠というのは誰にも迷惑をかけずに遊ぶ最高の方法だと思ったからだ。それに私たちも遊ぼうと言い出しそうな茜から逃げるいい手段だからだ。


目を閉じながら今まで自分がこういう状況をどうみていたのか考えた。

ファミレスで走り回る子供を今までは本気で苛立ったし親だけでなく店員も注意しない現状に足でもかけてやろうかと何度思ったことだろう。

何故しなかったかというと

店員は注意して客ともめたくないし、安月給でそこまでする意味がないというのも分かるし

親は普段こういう子供を見てるんだからたまには休憩したいっていうのも分かる

だから飽きれるばかりで何もできなかった。

まぁ一番大きいのは子供を言葉で注意したら親が烈火のごとく怒り狂うだろうし行動で注意したら傷害罪で告訴されかねないということなんだけど。

理解できなかった走り回っていた子供の気持ちが今は何故かすごくよくわかる。

『話に夢中になって何で僕らをみてくれないの?』

『話長いよ!もう飽きちゃった』

そんなところだろう。怒られるのを覚悟で注目を引こうと走り回っているというのもあるだろうし飽きてしまったからもうここから出たいという気持ちもあるのだ。

時間の感覚があまりないこの子供たちには親にとっての数十分が延々にも感じるのだろう。


面白いことを思いついた。

私も退屈だし少し子供に手助けをしてあげよう。


「茜ちゃん茜ちゃん!お母さんたち話に夢中だし新しいもの注文しちゃわない?」


私と茜が内緒話をしていることをすかさずキャッチした大樹と啓介が走り回っていたのをやめテーブルに戻ってきた。


「二人だけでずるいぞ」


「そーだそーだ!なにしてんだよ!」


人数が多ければ多いほど効果がある。

正直こんなことをされたら親は騒がれるのとは比にならないくらい慌てるだろう。


「怒られるかもしれないけど、勇気ある?」


勇気という言葉は男の子には特別なサインだ。その一言にビビるようなら男がすたるといっても過言でない。ヒーローにあこがれるこの子達なら絶対乗ってくるだろう。


「なんだよ!言えよ」


案の定怒られるという後悔よりその場の楽しみを優先してくれた。


「ここにあるメニューで食べたいものある?」


「ポテトたべたい!」


「私ケーキ!!」


「俺まだごはん食べたい」


ポテトとケーキはさておきごはん??

謎の注文を不思議と思いながら私は近くにあったボタンを押した。


「じゃぁ店員さんにそのメニューを言おう!」


「そんなことが面白いことなのか?」


「お前やっぱ変じゃね?」


「とーちゃん新しい遊びなの?」


「そうそう!新しい遊び!」


きっとこのことを両親は周囲の親に責められるだろう。

お宅の子が変なことをいうからうちの子が真似するようになったでしょ!?

そんなところだろうか?

だけど知ったことじゃない。怒られたら言い返すだけの自信があるし、自分たちの話に夢中になって子供を放置したことを後悔させてあげる。

軽快なベルに呼ばれ店員がやってくると先程打ち合わせた通り子供たちは思い思いに自分がたべたい物を注文した。店員が慌てて親に目くばせをし、店員がきてようやく押されたベルに気付いた親は慌てて料理をキャンセルした。そして楽しみのベルを没収した。


「子供が悪戯で押してしまったみたいです。」


「では注文は。」


「ありませんので。」


大樹の母親が慌てて店員にそういうと息子の大樹にこのファミレスへきて初めて注意をした。泣きながら注意される大樹はちょっと不敏だけどこれでようやくこのファミレスに静けさが戻るだろう。店員さんも内心ほっとしていることに違いない。

結局子供は親に注意されるしかないのだ。

啓介 茜そして私の母も同じように私に注意したが私は大声で泣いてやった。これは子供の特権だよね。


「お母さんたちが話に夢中でつまんなかったのー!!大樹も啓介もあんなに騒いでたのになんで気付いてくれないの?さっき近くのおばさんが怒りそうな顔してたよー!!」


大声で泣きながらそう言うとどの親も心当たりがあたのか子供を注意することをやめた。そして近くにいた何の罪もないおばさんは気まずそうにレジに向かって行ってしまった。ごめんよ…

内心舌をだしている私が泣くのを見ながら啓介の親がようやくファミレスをでる決意をしたようだ。


「そろそろ、でましょうか。」


その言葉を待っていたといわんばかりに親たちが賛同し、自分の荷物と子供をつれレストランをでた。片付けは…案の定されなかった。

私が客や店員ならこういうだろう。

『子供を教育してから出直してこい』

ってね。

なんで自分らの親世代を教育してるのかいまいち微妙な心境だけど、本当に迷惑だということは実体験で痛いほど分かっているから。これで少しは気にしてくれるといいんだけど…まぁそうはならないだろうな。


すっかり怒られたことを忘れた子供達はレストランから美味しかったと大満足しながらスキップした。その様子でファミレスでこんなに喜ぶのは子供のうちだけだなと大人視点でどうしても見てしまう。私からするとファミレスって親子ずれの煩い場所っていうイメージだったから誰かの付き合いでもない限り立ち寄ることすらない場所で、行ったときはだいたい嫌な思いで帰るところだから。こんなにはしゃげる子供が正直羨ましい。

『あー疲れた』

そう内心言いながらとぼとぼと歩く私をすっかり機嫌の直った大樹が励ました。


「もう気にすんなって」


『お前のせいだ!お前が気にしろよ!』と大声で叫びたかったが、子供相手にそんなことを言えるわけもなく笑顔でありがとうと答えた。


「やっぱお前今日変!」


ありがとうと答えて変だといわれることはかなり侵害だが、疲れ切った私はもう切り返すこともなく『そうかもね』と面倒くさそうに答えた。


ようやくお勤め終わりとなるようだ。

今度は各々の車に乗っていくようで母に連れられ私も自分の家の車へ向かった。


「ほら、バイバイしなさい。」


母にいわれ視線のあげると未だ心配そうに大樹 啓介 茜が送る視線と目が合い、笑顔で手を振りった。ようやくこの児童たちと別れることが出来たのはもう日が沈んだころだった。


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