プロローグ
「囚人No.8090402 何か言い残したことはないか」
ある分けがない。私は人生を完膚なきまでに桜花したんだ。
この手にあいつらの血が滴り落ちる私にとっての人生は最高だった。
斬首刑がなくなった今日死刑というものは薬品を使うもので殺した人間は殺された人間よりも安らかな死を迎えることができる。
落ちていく点滴を眺めながら意識が徐々に薄れていき感覚すらあやふやとなっていく。
あぁ死ぬんだなそう漆黒の死を望んだのに
「なんでこんなに白いんだ」
まぶしいくらいの白白白
部屋一式が白で覆われていて輝きすら放っている。
「なーんてつまらない人生なのかしら?」
真っ白の服に身を包んだ金髪ツインテールの少女が何かに座っているような体制をとりながら足をばたつかせていた。可愛い…金髪ツインテールとか反則すぎるだろ。
「その残念な脳もたいがいね。あら?あなたのことよ?そこのあ・な・た」
少女が指さすのは間違いなく自分で後ろに誰かがいるのかとも思ったがそうでは無いらしい。
「なんの嫌がらせだ。」
「あら、ずいぶんなご挨拶ね。」
「当たり前だろ。さっさと死なせりゃいいんだよ。死んでほしいんだろ?」
座っていた何かから腰を下ろし少女が近寄ってくる足音は全くなくて、覗き込まれた瞳も何処か現実のものとは思えなかった。
「いいわ。私から貴方にプレゼントをあげる。」
「はぁ?いらないし」
「もらっておきなさい?つまらない人生で残念な貴方に神様からのギフトよ。」
「ほっとけ。」
「きっと貴方は感謝するに違いないわ。」
「いらないって」
人の言うことも聞かないで少女は額にデコピンをした。
そんなに強いデコピンじゃないハズなのに私の意識はあっという間にとんで気付いたら見覚えのあるベットの上だった。
『もう一度人生やり直しなさないな?それで、もっと面白い人生を私に見せて頂戴!あなたの人生はあまりにつまらなすぎるわ。これじゃぁ私からのギフトが台無しよ。』
「待てっ」
そう手をのばした先には何もなく、まるで空をつかむように拳だけが握られた。激しい息切れを抑えるためにゆっくり深呼吸をすると心配そうな声が聞こえた。
「大丈夫?また悪い夢をみたの?」
母の姿だった。まだ若い丁度私くらいの年齢だろうか。
困惑する頭で周りを見渡すと部屋の隅々まで見覚えがあった。懐かしいラベンダーの匂いに昔使っていたぬいぐるみどれも覚えている。
「お母さん」
「大丈夫よ。大丈夫」
悪い夢が多かった私によくそうしてくれたな。暖かなこの気持ちをいつ私はなくしてしまったんだろうか。なにも感じない私になったのはいつからだっただろうか。
「大丈夫。ありがとう。」
その言葉を聞くと安心したように母はキッチンに向かっていく。どうやら今調理中だったようだ。
ベットから降りようと足を下すとずっと小さくなった自分の足に驚き覚えのある洗面台まで走って向かった。
感情がなくなったといってもこれは流石に驚く。
鏡に映るのは小さくなった自分なんだから。
「んなこと望んでないんだよ」
鏡に映る少女がすべからく嫌な表情を浮かべ言う姿は他から見たらさぞ滑稽だろう。
右に左にくるくると跳ねる寝ぐせを一つ一つ落ち着かせながら先程あった金髪の少女に悪態をつく。何がギフトだ。天寿をまっとう出来なかった年寄りなら喜びそうだけど私はそうじゃない。自分のしたいことをしきって、満足してようやく死ねるって思ったのに。
私は大事な人間なんて誰一人いないし、逮捕される前に全財産も使い切った。復習も成し遂げてようやく死ねるって思ったのに。
これは何の嫌がらせだろうか?
人生やり直しを強制するなんてあんまりだ。