泣き声
8
「これはこれは、このような辺境に、どうぞいらっしゃいました」
司会の男が近づいてくる。
男は司会とは思えぬほど質素な格好をしている。質素な出で立ちで溶け込みたいのか、それとも元からそのような心持ちの男なのか。
「……どうも。本日は、立ち寄ってしまい……」
アーファが言葉を選んでいると、
「良いんですよ。ここは、科学を信望する者の集まりですから」
司会の男の言葉に、アーファはふと隣の老婆を見た。目が頷いている。
「どうやら貴女は〝言霊〟の祝福を受けているようだ。しかも、かなり特殊な」
司会の男がにこりと笑う。好感が持てる中年の男だった。
「私は……。私はこれから何処へ向かえばいいのでしょうか?」
アーファは思い切って訊いてみた。男には頼れる何かがあった。
「貴女の道は決まっている。それをどうこうすることは出来ません」
司会の男は踵を返して前方に戻っていこうとした。
そのとき、初めて赤子が声を出して泣いた。
――「ほぎゃあ」
赤子の声を聴いたとき、司会の男の足取りが泊まった。
そのまま止まって、ブツブツと呟き続ける。
「……そうか……運命は……我々をも……この日が……」
司会の男が振り返った。
「太古からの数式の謎が、その赤子の泣き声に含まれていました。既に我々に影響を――」
そう朗らかに話す男の旨に、風を切る音と共に、弓矢が突き刺さっていた。