集会。
6
室内は光に満ちていた。
意外と広く、室内には既に四十人ほどの村人が集まってきていた。
皆、何か世間話でもしていた。
アーファは乳母車を押しながら周りを見回した。
――特に危険な人物はいなさそうね。
老婆が隣にずっと居てくれているのも心強かった。
「ところで嬢ちゃん。その赤子は名前は何と言うんだい?」
アーファは一瞬、答に戸惑った。そういえば名付けていない。
「まだ……。名付けていません」
「そうかい。名前は重要だよ? 下手に重い名前なんてつけたら、プレッシャーで潰れちまうこともあるしね。よく考えてからお付け」
名前か……。何にするか考えてもいなかった。というか、子供を産む予定もなかった。或る日、突然腹が膨れて、気がついたら現れていた。
「お前の名前は何にしようか?」
アーファは赤子を覗き込んだ。
赤子は周りの様子をキョロキョロと見回している。
――そういえば、この子、一切ものを口にしていない。しようとさえしない。
流石に大丈夫だろうかと考えようとしたところだった。
「皆様、今日もこの講義においで下さって、有り難う御座います。それでは、皆様に今日も色々と覚えて帰って頂きましょう」
声が前方から響いた。
皆の話し声がぴたりとやんだ。
「あれは、村長だよ」
老婆が小声で伝えてきた。
「これから何を聴くんです?」
アーファの問いに、老婆が、
「……まあ、聴いてりゃわかるさ」
とだけ答えて、前を向いた。
「お集まりいただいた村民の皆様、それでは先日の復習です。物事は〝声音〟と〝共鳴〟に左右される、といったお話をしましたね」
村長はとくに講壇で話しているわけではないので姿は見えないが、声からして五十代ほどであった。大きく通りの良い声だ。
村長の声だけ響いている。皆、押し黙って聴いている。
「――と、おや、今日は新しいお客様がいらっしゃるようだ」
村長の声と共に、村民皆が一斉にアーファの姿を振り返った。