翌日
2
次の日、アーファは目を醒ました。
真新しい白い服を纏い、腹には疵の痕すらなかった。
痛みはなくなっていた。
「……どうしたのかしら?」
周りを見回す。誰も居ない。
不意に、泣き声がした。赤子の泣く声だ。
横を見ると、ベッドの上に、おくるみに包まれた赤子の姿があった。
アーファはじっと見つめた。
……可愛い。
愛くるしい赤子の顔は紅潮し、何かを求めるように手を突き出している。目はまだ開いておらず、小さな身体は生命力を放っていた。
アーファは思わず抱き上げた。
すると、赤子は泣き止んだ。
……私の赤ちゃんなのかしら……?
それにしても、腹に違和感がない。何もかも取り除かれたようだ。
「出産の疲れは取れた?」
突然の声に、アーファは固まった。
「何を驚いているの。姉の声を忘れた?」
「フェネルお姉様……」
そこに居たのは、この国の第一王位継承者である、姉のフェネルであった。
フェネルは近づいてきて、ベッドの端に腰を下ろす。
「昨日は大変だったわね。――調子はどう?」
「……良好、です」
アーファは控えめに言った。良好も何も、何ら異変がなかったからだ。
「貴女、腹を割かれたのよ」
「え? お腹を?」
「そう。その赤子を取り出すために、ね。でも、貴女の傷はみるみる癒えていった。赤子は無事に産まれ、貴女も何の傷も残さなかった……」
しかし、フェネルの顔は冴えない。アーファは不思議に思った。
「お姉様……。私、どうすれば……」
フェネルの顔が、姉の表情から、気品に満ちた美貌に戻り、女王の片鱗を見せた。
「アーファ、あなたは追放される。明日までは食事も運ばせるわ。旅の準備も整えさせる。こんなことは言いたくないのだけれど、貴女は――」
フェネルが立ち上がった。そこには一国を背負う女王の気品が纏われていた。
「アーファ、貴女をこの国から追放します」
アーファは言われた言葉を飲み込めなかった。