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子連れ王女と誓言  作者: rare
1/8

~唯、この子を護るために~

処女懐胎を果たした王女アーファは、しかし、産んだ日が悪く、国を追われる身となる。

赤子連れでただひたすら存在意義を見出すために、アーファは旅を続けていく。

見聞を広め、強くなると同時に、違和感も覚え出すアーファだったが、旅を続けていく以外に方法はなかった……。

               1

 そこは静謐な王国。名はアレツという。

 周りは森林に囲まれ、総人口十万人ほどの中規模国家は、今夜もただひたすら時間が流れていこうとしていた。

 森の生き物も静まりかえり、山からは遠吠え一つ聞こえず、ただ、王国の住人区は普段の賑わいとは違い、森の生き物同様、今宵は戸締まりをしっかりとして密やかに過ごしていた。

 それも何も、今夜は――。


 静謐なはずの王国の城中の片隅。

 そこは「産廟」と呼ばれ、普段は王族であろうと滅多に近寄る者はいなかった。

「きゃああああああ!」

 一室から、若い女の悲鳴が沸き起こった。絶叫だった。

「苦しい、痛い、苦しい!」

 その部屋は産廟の最奥に位置し、聖なる出産をするための、男子禁制の場であった。

 部屋の中には、ゆうに大の大人が四人は横になれそうなベッドと、壁に掛けられた複数のランタン、それと医療器具と覚しきものがそちらこちらに配備されている。

 ベッドの上には、一人の可憐な少女が身を捩っていた。周りには複数の侍女が困り果てている様子だった。

 少女の腹は大きい。明らかに出産間近である。

「王女はまだ男を知らないのですよ?」

 侍女の一人が叫び声をあげた。

「判っています! しかし、これは明らかに妊娠しており、出産間近です!」

侍女の中の一人の女性が断言した。どうやら医者らしい。服装がほかの侍女とは違い、小綺麗にまとめられている。

 その他の侍女がしていることといえば、神に祈ったり、ただ嘆いていたり、中には失神している者までいた。

「アーファ王女様! 大丈夫ですか!」

 医者は、ベッドの上でもがき苦しむ少女――アーシャに向かって叫びかけた。

「お願い、どうにか……。〝コレ〟をどうにかして!」

 アーファは両の手で空中をもがきながら、涙とよだれを絶え間なく流している。

「王女がまだ男を知らぬことだけは、確かなんですね!」

 泣き伏せっている侍女に対し、女医は問いかけた。

「……はい……! 四六時中、我々の監視のあるところで、不可能で御座います! 況してや、こんな日に――」

「王女、失礼!」

 女医は、王女の下半身から衣服を取り除き、陰唇を確かめた。

――性行の経緯はない。確かに、王女は男を知らぬ。しかし、これでは……。

「お願い、早く取り除いてぇ!」

 大きな腹を揺らしながら、アーファは苦悶の声を挙げ続けた。

「おやめ下さい!」

 侍女の一人が、女医の腕に縋り付いた。

 女医は手を薙ぎ払った。

「どうしてです! 王女がこんなにも苦しんでおられる! 侍女としても医師としても、放っておけは――」

「だからこそ、で御座います! こんな日に――よりによってこんな禍々しい日に出産など! これは神の恵みではありません! 第一、ほんの数日前、王女の腹は膨らんでもいなかったではないですか!」

 侍女の言葉通り、アーファの腹は、ほんの数日前は同じ年頃――十五の少女と変わらぬ、平坦なものだった。

 泣き続けながら、侍女は女医に詰め寄る。

「お願いします、お願いします。王女はこの子供を産めたとしても、王国追放は免れませぬ。せめて王女だけを生かす方法を――」

「ここまで膨らんでは不可能だ! どちらにしても、このままでは両方死ぬ!」

「ならばいっそ――」

 続きの声を聞く前に、女医は詰め寄る侍女を弾き飛ばし、メスを握った。

「王女様。必ず私めがお助け致します。――手伝える侍女はいるか! せめて手術器具の用意ぐらい手伝え!」

 女医はアーファの衣服をすべて取り払った。まだ未熟な乳房が露わになり、その胸よりも歪に膨れ上がった腹を見つめた。

「切開して取り出す。王女も子供もどちらも生かす。文句は言わせない。すべての責はすべて私が負う。生かせる命を消したら、私は今後、医者を名乗れない」

 女医は再び怒鳴った。

「布、水、湯、道具類、すべて集めろ! この夜の言い伝えなぞ、すべて迷信だ! だれが数千年も前の言葉を信じる! とにかく救え!」

 女医の叱咤をうけた侍女は、また一人、また一人と立ち上がり、蹌踉めきつつも動き始めた。

 その中でも老齢の侍女は、いまだに食い下がっていた。

「どうか、どうか、安らかなるうちに――」

「黙れ!」

 女医は老女を殴り飛ばすと、アーファに向かって宣言した。

「助けますよ、王女様。必ず、母子ともども」

「……嬉しいわ……」

 一言呟き、アーファは気を失った。

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