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Cafe Shelly

Cafe Shelly 父の背中

作者: 日向ひなた

「お父さん、じゃま。どいて」

 朝。中学生の息子の友樹は、忙しく学校に行く準備をしている。

「あぁ、すまん」

 私はそう言って、アイロンを掛ける手を止めて少し脇に移動する。

「お父さん、給食費どこー」

「あ、それがあったのか。ちょっと待ってろ」

 小学生の娘の友香も学校に行く前でバタバタと動いている。友香に言われて、給食費の準備をするが手持ちの現金がない。

「おい、お金すこしあるか?」

「なによ、銀行から下ろしてこなかったの? 私もそんなに手持ちがないのよ。いくらいるの?」

「あぁ、二千三百円だ。二千円あればいいけど」

 妻のあかりは出社前のお化粧タイム。鏡の前で姿を化かしている最中だ。スーツに身を包み、いかにもキャリアウーマンという姿になっている。

 家族がみんな忙しく朝の準備をしている最中、私は朝食の片付けやアイロン掛け、その他家族から言われた用事を淡々とこなす。これが我が家の朝の風景となっている。

 三年前、務めていた工場が倒産の危機に陥りやむなくリストラされた私。その後、うつにもなり再就職もできなくなり、しばらくは療養生活を送っていた。うつは一年程で回復したが、その後は家のことをやるのが私の仕事となっていた。

 いわゆる専業主夫。家のことはすべて私がやっている。

 幸い、うちの妻のあかりは一流企業と呼ばれるところで係長という役職でそれなりにバリバリ働いてくれているため、家族を養うくらいの稼ぎはある。聞けば、次の人事異動で課長に昇進する見込みだそうだ。

 それに比べて今の私の身分は人には自慢できるものではない。それが不満なのか、中学生の息子の友樹は私を見るとムッとした表情を浮かべている。

「今度の参観、くんなよな」

 妻が忙しい分、学校行事にはいろいろと私が参加している。他の親は、当然のごとく母親が参加しているのだが。おかげで、同級生の保護者や先生たちとは仲良くなった。が、それが友樹には許せないらしい。

「そうはいかない。学校の行事は参加しないと」

 友樹にそう言うが、それ以上強くは言えない。そのやりとりを小学生の娘の友香も見ている。その影響か、友香も私に対して不満を漏らすことが多い。

「お父さん、あまり買い物に出ないでね。友香のお父さん、スーパーで見たよっていつも言われるんだから。お父さん、仕事は何してるのって聞かれるのが嫌なんだよ」

 確かに、子どもたちからすると昼間から近所で見かけるお父さんなんて珍しいからな。

 そんな感じで毎朝を迎え、そして毎日を過ごす日々。自分って一体なんなんだろう。よくそう思う。

 なんだか自分に価値がないような気がして、どうしようもないって感じがするし。それを思い始めると、またうつになりそうな気がして。

 いかんいかん。今は目の前のことに集中しないと。そう思って、今日も家事に専念する。

 まぁ、おかげで洗濯も掃除も、そして料理も他の女性に負けないくらいの腕前になったことは確かだが。もともと凝り性の性格だから、やり始めるととことんやってしまうもんなぁ。

 そんなある日、事件が起こった。

「えっ、友樹がケンカですか?」

 学校からかかってきた電話に、私は驚いた。友樹は家では強ぶっているが、元来おとなしい性格でケンカなどするような子ではない。

 正義感と責任感が強く、また裏方の仕事をコツコツとやるタイプ。周りからは真面目だと評価されることが多い。その友樹が学校でケンカしたとは。私は急いで学校へと向かった。

 行った先は進路指導室。そこには三人の生徒と対峙する形で友樹が座っていた。

「先生、この度はご迷惑をおかけしました。でも、一体何があったんですか?」

「はい、実に言いにくいのですが…」

 先生は口ごもっている。

 そのとき、ガラリと進路指導室のドアが開いた。そこには三人の母親の姿があった。今回、友樹の喧嘩の相手となった子どもの親たちだ。

 その出で立ちは、いわゆるマダムと呼んでもいいようなスタイル。派手な指輪に高価そうなスーツ、そして真っ赤な口紅。うちの妻のあかりも、スーツを着たり口紅をしたりするが、そのスタイルとは一線を画している。

「まぁ、どうしてうちの子がこんなことになったんですか。あなた、お子さんにどういう教育をしているの?」

 いきなり私につっかかる一人のお母さん。この人、確か県議会議員の奥さんだったな。

「そもそも、何が原因なんですか?」

 別のお母さんが先生に詰め寄る。こっちの奥さんは社長夫人だったはずだ。

「友樹くんが突然、三人につかみかかってきたんです。理由を聞くんですけど、なかなか口を開いてくれなくて」

「まぁ、野蛮なこと」

 嫌みたらしい口調でそういうのは、大学教授の奥さんだ。三人とも、旦那さんがそれなりに名声のある職についてる。

 それに対して私は無職の身。格好もやぶれかかったジーンズに薄汚れたシャツ。どうしても気おくれしてしまう。

「こいつらが、馬鹿にしたんだ」

 友樹がボソリとそうつぶやいた。

「そんな理由でケンカをしたのか!?そんな堪え性のない人間だとは思わなかった。早くみんなに謝りなさい」

 私は慌てて友樹を叱りつけた。

 だが、友樹はふてくされた顔をして黙ったまま。このままでは長期化しそうだ。

 そこで私は慌てて三人のこどもに、いや、子どもを通して三人の親にこう謝った。

「この度は友樹が申し訳ないことをしました。親の私が代わって謝らせて頂きます。本当に申し訳ありませんでした」

 私は深々と頭を下げた。

「まったく、父親なのに仕事もしないでどういう教育をしているのかしら。そんなんだから、子どもがちゃんと育たないのよ」

 どの親が私にそう言ったのかはわからない。私は頭を下げたままだったから。

 正直腹が立った。だが、私が働いていないという事実は変わらない。これについては反論できないんだから。

「お父さん、そんなにしなくても…」

 先生のほうがオロオロしている。が、ここは私が一歩引いたほうが丸くおさまるのだから。

 結局、多少不満顔ではあったが三人の母親はこどもを連れて帰ってしまった。

「友樹、帰るぞ」

 だが、友樹は椅子を乱暴にはねのけて、一人でさっさと進路指導室を出て行ってしまった。反抗期の息子は扱いが難しいな。

 その事件以来、友樹はますます私を避けるようになった。というより、親として見なくなってきたと言ったほうがいいかもしれない。

「どけよ」

「じゃま」

「あっちいけ」

 友樹から出てくる言葉はこんなものばかりになった。こちらの呼びかけに対しては返事もしないし。用事があるときにはあかりを通じてしか言ってこないし。さて、どうしたものか。

「なぁ、友樹のことはどうしたらいいと思う?」

 夜、寝る前に布団の中から天井を見上げながらあかりに相談してみた。あかりは寝る前のスキンケアとやらで忙しく手を動かしている。

「そういう時期なのよ。でも、言いたくはないけれどあなたが世間一般の父親とは違う生活を送っていることに不満ではあるみたいね」

 あかりはやんわりとした口調でそう言う。つまり、働いていない父親に対しての不満というわけだ。それは自分でも重々承知している。

 が、今更再就職というわけにもいかない。正確に言えば、どこも雇ってはくれないだろう。

 あかりは私がうつにかかっていたことを知っているので、私に対しての言葉もプレッシャーをかけないようにしてくれている。うつはほぼ治ったとはいえ、またいつ心が折れるかわからない状況だからな。

「そういえばさ、面白い話を聞いたんだけど」

 あかりがベッドに入ってくるときにそんなことを言い出した。

「面白い話って?」

「私のところで出入りしている文具屋さんから聞いたんだけど。魔法のコーヒーを飲ませてくれる喫茶店があるんだって」

「なんだよ、その魔法のコーヒーって?」

「これがね、飲んだ人が望むものの味がするんだって。そのコーヒーとそこのマスターのおかげで、いろんな人が悩みを解決することができているんだって」

「飲んだ人が望むものの味がするコーヒー? なんだか胡散臭いなぁ」

「それがね、うちの佐倉課長もそのことを知っていたの。今でも時々足を運んでいるみたい」

「へぇ、魔法のコーヒーねぇ」

 話としてはまだ信じられないが、興味はある。

「その喫茶店、どこにあるんだ?」

「えっと、どこだっけな。明日また場所を聞いてメールするね。それじゃ、おやすみ」

 そう言ってあかりは眠りについた。逆に私はあかりの言葉で目が輝いてしまった。

 自分が望むものの味って、どんなふうになるんだろう。そもそも、私は何を望んでいるのだろう。いつしか、そのことで頭がいっぱいになってしまった。

 そして翌日、少し寝不足ながらもいつも通りに家事を進める。すると、あかりからメールが入った。

「ここが喫茶店の場所です」

 地図が添付してある。あ、この通りか。こんなところにそんな喫茶店があったんだ。

 あ、なるほど、ビルの二階か。だから今まで気づかなかったのか。地図に示された通りはときどき通っていたが、そんな喫茶店があるとは知らなかった。

 これから特にやることもないし。早速足を運んでみるとするか。なんだか久々に目的のある外出をするな。このところ、気分転換の散歩ばかりして目的はこれといってなかったからな。

 空は秋晴れ、気温も暑くも寒くもないといった感じで気持いい。なんだか嬉しいことが起こりそうな感じがするな。

 妻が送ってくれた地図を頼りに、だいたいの位置を探ってはいたが。

 おっ、ここか。ビルの入口に黒板に書かれた看板がある。

『あなたが見せたいものってなんですか?』

 黒板にそんな文字が。

 あなたが見せたいもの。一体誰に?

 このとき、ふと息子の友樹の顔が浮かんだ。私は友樹に父親として何を見せたいのだろう? 子どもは親の背中を見て育つというが、私は友樹にそんな背中を見せられているのだろうか?

 いや、見せられてはいない。こんな働きもしない父親の姿は誰にも見せたくないだろう。そう思うと、少し足取りが重たくなった。

 その足を引きずりながら二階へと上がる。

カラン、コロン、カラン

 ドアを開くと、心地よいカウベルの音。同時に店内から女性の可愛らしい声で「いらっしゃいませ」と。少し遅れて、男性の渋い声で「いらっしゃいませ」が聞こえてくる。

 店内に足を踏み入れた瞬間、コーヒーの香りとクッキーの甘い香りが私のからだを包み込む。なんだか異空間に来たような感じがするな。

 店内はそんなに広くない。窓際に半円型のテーブルと四つの席。店の真ん中に三人がけの丸テーブル席。そしてカウンターに四つの席。

 まだお昼前ということで、お客さんは窓際に二人の女性がいるだけだ。私は一人なので、カウンター席に座ることにした。

「いらっしゃいませ。こちらは初めてですか?」

 かわいらしい女性店員がお冷を持ってきて私にそう尋ねた。

「えぇ、妻から魔法のコーヒーを出してくれる喫茶店があると聞いたもので。自分が望むものの味がするコーヒーと聞いてきたんですけど」

「シェリー・ブレンドのことですね。確かに、飲んだ人が望むものの味がするコーヒーなんですよ」

 どうやら店員が言うくらいだから本当なのだろう。

「じゃぁ、それをください」

「かしこまりました」

 なかなか明るくて可愛らしい店員だな。すると今度はカウンターの中からお店のマスターが私に声をかけてきた。

「奥さんからのご紹介ですか?」

「えぇ、なんでも妻の会社で取引のある文具屋さんからこのお店のことを聞いたらしくて。さらに、妻の上司もこのお店に時々足を運んでいると聞いたもので。なんだか面白そうだなと思いまして」

「ははは、それは光栄です」

「でも、望んだものの味がするなんて、なんだか想像がつかないんですけど」

「なにはともあれ、体験してみてください」

 そう言ってマスターはコーヒーを入れ始めた。それと入れ替わりに、先ほどの女性店員が私に話しかけてきた。

「シェリー・ブレンドを飲んだら、ぜひ感想を聞かせてくださいね」

「はい、そうさせていただきます」

「ところで、今日はお仕事はお休みですか?」

「いえ、実は私は専業主夫をやっていて…」

 そう答えるのには少し気が引けた。が、その店員の反応は意外なものであった。

「まぁ、それってとってもステキ。今の男性の最先端を行っていますね」

 今までは専業主夫というものに引け目を感じていたのだが。その言葉はおせじかもしれないが、言われて悪い気はしない。

「へぇ、お客さん専業主夫なんですか。それは尊敬するなぁ」

 マスターもそんな言葉を言う。けれど、どうしても息子の友樹のことが頭をよぎる。

「そう言ってくれるのはありがたいんですが。子どもにはそれが今ひとつウケが悪いみたいで。なにせ父親が働いていないわけですからね」

「なるほど。はい、シェリー・ブレンドおまたせしました」

 マスターがカウンター越しにコーヒーを渡してくれた。

「ありがとうございます。では早速いただきます」

 コーヒーを手に持つ。コーヒーは一時期凝ったことがあったので、その香りを嗅いだだけでもどんな味かは想像できる。

 なかなか香りのいいコーヒーだ。けれど、そのもう一歩奥に何か潜んでいる。直感的にそう感じた。

 コーヒーを口にする。うん、こいつはなかなかいける。その一口目の印象が頭をよぎるやいなや、別の映像が浮かんできた。

 厳しさ。一言で言えばそうなる。

 男として、父としての厳しさを子どもに見せたい。甘いだけの父親になりたくない。自分の背中でそれを語ってみたい。次々とそんな言葉が頭に浮かんでくる。

 もっと父親らしさを。一言で言えばそういうことか。

「いかがでしたか?」

 マスターのその言葉で、私は我に返った。

「あ、えぇ、美味しかったです」

 とっさにそう答えはしたものの、美味しいというものを超えた体験をした気がした。

「何か見えましたか?」

 続けて質問してきたマスターの言葉に、私は思わず口からこう答えた。

「えぇ、厳しさを味わいました」

「厳しさですか。これは今までにない答えですね。よかったら具体的に教えていただけないでしょうか?」

 自分でもどうしてその言葉が出てきたのかわからなかった。しかし、口の方からぽつりぽつりと言葉が飛び出す。

「父親としての厳しさを子どもに見せないといけない。そのことが感じられたんです。いわゆる、父の背中を見て育つ。そんな親にならないといけない。そんなことが頭に浮かんできたんです」

「父の背中を見て育つ、か。これって言葉で言うよりもとても難しいことですよね」

「はい。今それを痛感しているんです。先ほど言ったとおり、私は専業主夫をやっています。そのせいで、中学生の子どもからは父親としては軽くみられている。そう感じているんです」

「なるほど、子どもから軽くみられている、ということですか」

「はい。だからこそ、そんな子どもに親として厳しさを見せないといけない。そう思っているんでしょうね」

「なるほど、それが…えっと、お名前をお聞きしていませんでしたね」

「私ですか? 斎藤和夫といいます」

「和夫さん、ですね。お子さんに厳しさを背中で見せてあげたい。それが和夫さんが望んでいることなんですね」

「どうやらそうらしいですね。私もここに来るまでははっきりとは自覚していませんでしたが。そのことをずっと思っていたみたいです。今回それがはっきりしましたよ。いやぁ、魔法のコーヒーってあるんだな」

 私はまだ半分ほど入っているコーヒーカップを眺めながら、不思議な体験を振り返った。

「私、そんなお父さんを尊敬するけどな」

 女性店員が私とマスターの会話に割って入った。

「そんな、お世辞を言わないでください」

 私は苦笑いしてそう言う。

「お世辞じゃありませんよ。そもそも、世の中の女性の主婦がやっている仕事を男性はそんなに評価していないんじゃないですか? 私も主婦として家庭の仕事をした上で、この喫茶店の仕事もやっているんですけど。結構大変なんですよ。なかなか夫の協力も思ったほど得られないし」

 そう言って店員さんはマスターの方をじろりと見る。

「マイ、私はちゃんと言われた仕事はしてるだろう」

 え、この二人ってどういう関係? きょとんとしている私に、マスターがこう説明してくれた。

「すいません。実は私達夫婦なんです。歳の差があるからそうは見えないでしょう」

 いやいや、これには正直驚いた。マスターはどう見ても私より上の四十代半ば。マスターがマイと呼んでいた店員さんは二十代じゃないかな。

「主婦って大変なのは和夫さんならわかってくれますよねー」

「え、えぇ、私も自分がこうなるまで、こんなに大変だとは思っていませんでしたからね」

「ほらぁ、だからもっといろいろと手伝ってよね」

「はいはい、なんだか私、悪者になってません?」

「いえいえ、言われたことをちゃんとするだけでもありがたいですよ。我が家では子どもたちに手伝いをさせたいんですけど、なにしろ息子は反抗期だし。それに乗じて娘も言うことを聞かないし。どうしたらいいんでしょうね」

 ふぅっとため息。

 自分の理想はわかった。でも、そうなるための手段が思いつかない。

「主夫である私を子どもたちは尊敬するってことはあり得るんでしょうか…」

 私はボソリとそんな言葉をつぶやいた。一瞬間をおいて、マスターがこんな質問をしてきた。

「和夫さんが尊敬している人っていますか?」

「えっ、尊敬している人ですか?」

 マスターに言われて考えてしまった。尊敬する人、といってもすぐに頭に思い浮かばない。歴史上の人物、坂本龍馬や織田信長、果ては聖徳太子まで思い浮かべてみたがどれもピンと来ない。

 もっと身近な人でいないか。元会社の上司は尊敬どころか軽蔑に値するし。最近の有名人も、どれもなんだかなぁという感じ。

 このとき私はのどが乾いてきた気がしたので、何気なくシェリー・ブレンドに手を伸ばしてそれを口に含んだ。その瞬間、一人の人物が頭に浮かんできた。

「父さん!?」

 思わず口に出してしまった。私の父親だ。

「どうやらシェリー・ブレンドはその答えが和夫さんのお父さんだって教えてくれたみたいですね」

 私の言葉を聞いてか、マスターはにこりと笑ってそう言った。この答えには自分も驚いている。が、なぜだかそれがわかって安心した気持ちにもなった。

「和夫さんのお父さんってどんな人だったんですか?」

 マイさんがそう聞いてくる。私は自分の父を今一度頭に思い描いて見た。

「私の父は…そうですね、一言でいえばガンコかな。自分の意見を絶対的にしようとするんです。おかげで母はよく愚痴をこぼしていますが。けれど、その言葉って大きな間違いはないんですよね」

 私は父を思い出しながらそう言葉にした。

「そんなお父さんのどんなところを尊敬しているんですか?」

「どんなところ…」

 改めて父のどんなところを尊敬しているかを考えてみた。けれど、これといったところが出てこない。かといって、軽蔑するようなところもない。なんなんだろう、父の尊敬するところって。

 私が思い悩んでいると、マスターがこんなことを口にした。

「そう言われると、私も父は尊敬しているかな」

「私も、お父さんはなんだか好きだな。高校生の頃はちょっと嫌いだった時もあるけど」

 マイさんも続けてそう口にした。

「父親って、そんな存在なんでしょうかね」

 私がボソリとそう言う。

「そんな存在かもしれませんねぇ」

 マスターが私の言葉に共感してくれた。

「私はホントどうしても嫌いな時があったな。でも今はどうして好きなんだろう?」

「思春期ってやつだからじゃないかな」

「マスターの答えって、なんか論理的じゃないなぁ」

「おいおい、私がどれだけ思春期の子どもたちの悩みを聞いてきたと思っているんだよ」

「それってどういう意味ですか?」

 マスターとマイさんのやりとりを聞いてふと疑問が湧いてきた。その疑問にはマイさんがこう答えてくれた。

「マスターはこの喫茶店を始める前は、駅裏の学園高校で学校の先生をやっていたんですよ。そこでスクールカウンセラーもやってたから、たくさんの子どもの悩み、親の悩みを聞いてきたんです。どっちかというと、親の悩みのほうが多かったよね」

「そうだなぁ。反抗期や不登校、家庭内暴力や万引きなんかもあったけど。子どもとは関係ない、夫婦の話とかまで聞いてきたなぁ」

 マスターは少し遠い目をして、昔を思い出すようにそう話してくれた。

「じゃぁ、私みたいな悩みも?」

「まぁ似たようなのはあったかな。けれど、専業主夫をやっている方は初めてですよ」

「では、私はどうすればいいんでしょうか。

 どうすれば子どもたちにもっと尊敬される存在になれるんでしょうか?」

「和夫さんはどうすればいいと思います?」

 マスターに質問返しされて、私はうぅんと考えこんでしまった。さっきのマイさんの話みたいに、その時期だからと思って放っておくのもひとつの手かもしれない。

 けれど、私の心がそれを許さない。何か行動を起こさないと。でもそれが思いつかない。

 私が思い悩んでいると、マスターからこんな言葉が投げかけられた。

「和夫さんのお父さんって、何してました?」

「私の父、ですか?」

 そう言われてもう一度考えてみた。

 私の父は特に何か偉業を成し遂げたわけでもない。ごく普通のサラリーマンとして定年退職まで勤め、その後は再就職先を見つけてほそぼそと仕事を行い、今は完全に隠居をして地域活動のボランティアに勤しんでいる。歴史上の人物と比較をすれば、なんてことはない人生を送っているだけだ。

 なのに、なぜ父を尊敬するのか。

「一生懸命、だったな」

 ふとそんな言葉を口にした。

 そう、父は一生懸命だった。仕事をするにしても、遊びにしても、そして私たちと一緒にいる時も。まじめ、というのとはちょっと違う。何かに対してとことんまでやろうとする。今思えばそんな父だったのは間違いない。

「和夫さんのお父さんは一生懸命だったんですね。私のお父さんはどっちかというと逆だなぁ。でも、ちゃらんぽらんってわけじゃなく、しっかりと遊ぶときは遊んでるもん。おやじバンドなんて結成して、音楽を楽しんでますよ」

「マイさんのお父さんはバンドをやっているんですか。なんかかっこいいですね。私は楽器は弾けませんが、そういうのはあこがれますね」

「でしょ。だからなんとなく憎めないのよね」

 マイさんは笑顔でそう答えた。

「でも、そんなお父さんの姿が一生懸命なのがいいんでしょう?」

 私は言いながら思った。どんなことでもいい。一生懸命に取り組めばそれは必ず子どもに届くんだ。

 なんだか答えが見えてきた。そんな気がした。けれど、何に一生懸命になればいいんだろうか?

 このとき、マスターがまた私にこんな質問をしてきた。

「和夫さん、今やっていて楽しいことってなんですか?」

 唐突な質問で私はとまどってしまった。が、直ぐに頭にひらめいたのはこの答えだ。

「私、家事をやっている時が一番楽しいですね。掃除の工夫や洗濯をいかに効率よくやるか、そして料理も工夫次第で安くて美味しい物もつくれるし」

「私、そんなコツが知りたいなぁ。ねぇ、和夫さんってブログとかしないんですか?」

「えっ、ブログですか?」

 そんなこと、考えもしなかった。

「男性がそういうの書くのってめずらしいですよね。ぜひ和夫さんがやっている工夫とかを紹介して欲しいなぁ」

 なるほど、そういったニーズもあるのか。

「でも、ブログとかやったことないんですよね」

「以外に簡単ですよ。パソコンはお使いになりますか?」

「えぇ、一応ありますが、インターネットを見るくらいしか使っていませんが」

「それなら大丈夫です。私もパソコン音痴でしたが、ブログだけは続けられていますから」

 そういってマスターはノートパソコンを取り出して私に見せてくれた。それはカフェ・シェリーのマスターのブログで、日々思った言葉をいろいろと書き綴られていた。さらに、いろんな方からコメントも寄せられている。

「どうやったらそれができるんですか?」

「メールアドレスはお持ちですよね?だったら、ここからこうやって…」

 マスターはブログの登録の方法をその場で教えてくれた。うん、これなら私にもできそうだ。早速ブログを始めてみようかな。そんな気になってきた。

「ありがとうございます。そうか、男性の目線で主婦業のコツを紹介するか。

 そう思うだけで、頭の中にはいろいろなアイデアが渦巻き始めた。

「和夫さん、今どんなことを書こうか、そのネタがいろいろと思い浮かんでいるでしょう?」

「えっ、どうしてそれがわかるんですか?」

「目線が上の方を向いて、笑顔になっていましたからね。こういうときは、未来のことを考えているときですよ」

 なるほど、そういうものなのか。なんかこのカフェ・シェリーに来ていろいろと元気をもらったな。よし、一生懸命やってみよう。

 私は家に帰って、早速マスターから教えてもらった通りブログを開設してみた。

「タイトル、かぁ…」

 ちょっと悩んで、こんなタイトルを付けてみた。

「カズちゃんの主夫の知恵袋」

 この歳になって、自分のことをカズちゃんなんて呼ぶのもなんだが。まぁ愛称があったほうがウケがいいかなと思って。

 そして早速一回目のブログを記載。これがかなり悩んでしまった。

 やはり自己紹介をするべきなのだろうか。それとも、いきなり伝えたい本題を入れるべきだろうか。

 パソコンの前で悩みすぎて、気がついたら洗濯物の取り込みも晩ご飯の準備もすっかり忘れていたくらいだ。結局今日は手抜き料理になってしまったが、それでも子どもたちや妻のあかりは文句をいう事もなくいつものように食べてくれた。その日の夜もブログの記事に悩んで、寝る前にようやく完成。結局、自己紹介を一つの記事にして、もう一つは早速今夜の手抜き料理についての記事を記載した。

 そして翌日。いつものように家族を送り出し、ひと通りの家事も終わって自分のブログを確認した。そこで驚くことが起きていた。なんと、昨日の手抜き料理に対してコメントがついていたのだ。

「できれば写真も入れてください、か」

 なるほど、そういえばブログって結構写真を入れることが多いよな。よし、写真を撮ってみるか。今日は掃除の工夫を書いてみよう。

 こうして私のブログ生活がスタートした。コメントは最初の一つだけだったが、徐々に見てくれる人の数が増えている。初日は十五人程度だったのに、一週間経った今では百人くらい。なんかうれしいな。

 すると、今度は別の人からこんなコメントが入ってきた。

「料理とか掃除とか洗濯のコツ、とても役に立っています。ところでフェイスブックはやっていないのですか?」

 フェイスブック、聞いたことがあるな。早速調べて登録をしてみた。そしてコメントにこんな言葉を返してみた。

「フェイスブック始めてみました。でもよく使い方がわからないのですが、よろしくお願いします」

 すると、その日のうちに友達申請が三十人くらいきてしまった。その多くが女性。これにはびっくりした。

 もう少し使えるようにならないと、と思いフェイスブックの本を買ってきて早速いろいろと設定。なるほど、こうするとブログとも連動するのか。なになに、ツイッターとも関連付けられるのか。

 ということで、私には一気に見知らぬ友達が増えてしまった。なんだかうれしいな。

「あなた、なんだか最近楽しそうね」

 ある晩のこと、妻のあかりが私にそう言ってきた。

「あぁ、最近始めたブログのおかげで友だちが増えてね。あと、フェイスブックやツイッターからもいろいろとコメントをもらうようになって。一気に交友関係が広がった感じがするよ」

「へぇ、あなたいつの間にそんなことやってたの? フェイスブックなら私もやっているけど。ねぇ、友だち申請してもいい?」

「もちろん」

「じゃぁ早速」

 あかりはスマートフォンを取り出して、早速私に友達申請を。私は夜はなるべく使わないようにしているパソコンを取り出してその申請を待った。

 私が夜パソコンを使わないのは、家族との時間を大切にしたいと思っているから。今もあかりとの会話を楽しみたくて、あえてパソコンは取り出さないようにしていた。

「お、きたきた。じゃぁ承認っと」

「へぇ、どれどれ。あなた、なかなかおもしろそうなこと書いてるじゃない。明日職場で時間があるとき、早速読んでみるね」

 なんだかあかりとの距離も一気に縮まった感じがする。自分のことを表に出すってこういう効果があるんだ。

 自分の可能性が広がっていく。そんな気がした。その翌日、予想もしなかったことが起きた。

「あなた、すごい人からコメントもらっているわね」

 仕事から帰ってくるなり、あかりがただいまも言わずに興奮してそんなことを言ってきた。

「えっ、すごい人?」

 なんのことだかよくわからない。

「ほら、この人よ」

 あかりはスマートフォンの画面を私に見せた。名前は記憶しているが、この人が何者なのかまでは知らない。

 確かに最近、ブログに対してのコメントが多くなってきた。私は一つ一つに丁寧にお礼の意味を込めて返信をしているが、正直相手がどんな人なのかということまでは確認していない。

「この人、テレビによくコメンテーターとかで出てる教育評論家の人よ。最近よく出てるわよ。知らない?」

 私はテレビはあまり見ないからなぁ。私ってそんなすごい人から直々にコメントをもらっていたのか。

「ほら、今夜ちょうどこの人がレギュラーで出てる番組があるわよ」

 そう言われるとさすがに私も興味が湧いてくる。晩御飯の片付けを早めに済ませ、夜に珍しく私はテレビの前に座った。もちろん、あかりも一緒だ。

 また、この番組は人気が高いらしく息子の友樹も一緒に見ることに。といっても、会話は一言もないが。そのときの番組の内容がいまどきの男性、という内容だった。

「やっぱりね、男も育児や家事に積極的にかかわらないと。これからはお嫁に行く、なんて言葉はなくなってむしろお婿に行くっていう方が増えていくと思うわよ」

 太った女性タレントがそんな発言をしていた。すると私にコメントを寄せてくれていた教育評論家がこんなことを言い出した。

「あのね、今は男性が主夫をやってもいい時代になったんじゃないかな。女性が外で働いて男性が家のことをする、なんていうのはもう当たり前になってきてもおかしくないと思うんだよ。私ね、一人すごい人を知っているんですよ」

「へぇ、どんなひとでっか?」

 司会役のお笑いタレントが話の続きを促した。

「ブログで知ったカズちゃんって人なんだけど。いわゆるスーパー主夫だね。料理から洗濯から掃除から、いろんな工夫をしているんですよ。徹底してここまで家のことを工夫しているのはすばらしいですよ」

 あかりが私の方を向いて目を丸くしている。このカズちゃんとは私のことだからだ。私も驚きだ。

 そういえばコメントで、近々機会があったらカズちゃんのことを紹介させてもらいますねってあったけど。私は気軽に、ぜひお願いしますねって返していたが。まさかテレビで紹介されるとは。

 息子の友樹はそのカズちゃんがまさか私だとは知らないようで、特に何の反応もなかった。だが、寝る前に一言こんなセリフを言ってくれた。

「世の中にはお父さんみたいな人もいるんだな」

 その言葉、どんな気持ちで言ったのかはわからないが。なんとなく息子に自分のやっていることを認めてもらえたような気持ちになり、妙にうれしかった。

 そして翌日、さらにとんでもないことが起きていた。

「うそっ…」

 昨日番組で紹介されるまで、私のブログのアクセス数は一日多くても200件程度であった。が、その数が一気に増えたのだ。

 なんとその数3000件。コメントの数も今までは日に一、二件あるかないかのレベルだったのに、ここも一気に書きこまれていた。さらにフェイスブックでの友達申請も一気に増えた。

 マスコミ効果はとても絶大。おかげでこの日はコメントの返信やフェイスブックの処理で一日が終わってしまうという始末。そんな中、もちろんブログもアップした。

 この日はどちらかといえば、見ていただいた方へのお礼という内容になってしまったが。そんな中でも、簡単にできるおかずを紹介してみた。またそれが評判がよかったみたいで、たくさんのコメントをいただいた。

 そんな感じでトントン拍子に私はインターネット上では「カリスマ主夫」なんて呼ばれるようになっていた。その噂を聞きつけて、地元の新聞社が取材にも来た。さらにラジオ番組への出演依頼まで。そして驚いたことに、私に講演の依頼まできてしまった。

 男女共同参画という面から、私がやっていることを多くの男性に知ってほしいということなのだ。そんなこんなで、私という存在があっという間に世間に知れ渡ることになった。私としては、家の仕事が滞るのが嫌なのであまり外に出るのは好きではないのだが。

 だが妻のあかりのこの言葉に救われた。

「あなたを必要としている人がこれだけいるってことなんだから。そのお役に立たないのはもったいないことなのよ。必要な人に必要な情報を届けるのが大事じゃない?」

 確かにあかりの言うとおりだ。私はすべてのオファーに対して、意を決して断らないように引き受けた。そんな気持ちをブログにも載せたものだから、さらに共感者が増えたようだ。

 だが、そんな私を子どもたちはどう見ているのだろうか?その点だけが気になっていた。

 ある日の朝食の時。私は子どもたちに思い切って今の自分の姿をどう思うのか聞いてみることにした。

「なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 黙々と朝ごはんを食べる友樹と友香に対してこう切り出した。妻のあかりももちろんそこにいる。

「お父さんが今いろいろなところに出ているのは知っているよな。これ、どう思う?」

「私はすごくいいことだと思うのよね。こんなお父さんが世の中にいてもいいと思うし」

 第一声は妻のあかりである。実はこれ、打ち合わせ済みのことなのだ。あかりが何かを言ってくれれば、子どもたちも発言しやすいだろうということからだ。

 すると案の定、友香が先に口を開いた。

「私ね、学校でも先生から言われたの。友香ちゃんのお父さんってすごいんだねって。なんだかうれしかったな」

 その言葉を聞いて少しホッとした。だが問題は友樹の方だ。

 友樹はあかりや友香の声にピクリとも反応しない。ただ黙々と朝ごはんを食べている。やはり私のことを認めていないのだろうか。だが、ご飯を食べ終わったときに友樹がボソリとこう言った。

「いいんじゃない。ごちそうさま」

 その言い方は投げやりなものではなく、私の気持ちをほっとさせるような言い方であった。

「そうか、お父さんはこれでいいか。ありがとう」

 思わず泣きそうになったのをぐっとこらえた。

「そうですか、そんなことがありましたか。はい、シェリー・ブレンドです」

 その日、私は久しぶりにカフェ・シェリーに足を運んだ。思えばここで私の人生の転機が訪れた。マスターにブログを勧められ、書き始めたのがきっかけで今のようになった。

「この前載っていた残り野菜を使ったレシピ、あれ役に立ちましたよ」

 マイさんがそう話しかけてきてくれた。こうやってみなさんのお役に立てているということがとても嬉しく感じる。

「和夫さん、というより今はカズちゃんの方がいいですかね。お子さんたち、カズちゃんのことをどう見てくれていると思いましたか?」

 マスターの言葉に改めて朝の出来事を思い出した。友香は間違いなく自慢できるお父さんだと感じてくれているようだ。問題は友樹。いいんじゃない、という言葉は私を認めてくれたのだと感じたが。あらためてどういうことなのだろうと思い直してみた。

「息子は私のことを本当に認めてくれているんでしょうか?ちょっと不安なんですよね」

「大丈夫ですよ。それより、今度は何に出演するんですか?」

「えぇ、ラジオにゲストとして出ることに」

 それからしばらく、私はいろいろと質問攻めにあったが悪い気はしなかった。

 そして気分よく家に帰ると、珍しくすぐに友樹が早い時間に帰ってきた。

「友樹、今日は早かったな」

「テスト前だから」

「あぁ、そうか」

「ねぇ、お父さん」

 その言葉にドキッとした。友樹の方から「お父さん」なんて呼ばれるのはいつ以来だろう。

「な、なんだ?」

 ドキドキしながら友樹に声をかける。

「お父さんは今の自分に満足しているの?」

 真剣な目付きで私を見てそう言う。まさか、そんな質問が出てくるとは。だが私はここで胸を張ってこう言った。

「もちろん。世間一般では男は外に働きに行くものだといわれているけれど、今お父さんがやっている家のことも立派な仕事だ。それを徹底して工夫しているからこそ、お父さんは多くの人から認められているんだぞ」

「そっか、そうなんだ。あのね、今日友達から言われたんだ。お前のお父さんってすごいなって。ボク、嬉しかったんだ。今までお父さんのことを馬鹿にしていたやつらがいたから」

 このときはじめて気づいた。友樹が喧嘩をしたときに「こいつらが馬鹿にしたんだ」という言葉。これは友樹に対してではなく私に対してだったんだ。親を馬鹿にされて、友樹は相手に殴りかかったんだ。そこに気づいた時、私の目は潤んでいた。

 その日以来、友樹は私に少しずつ心を開いてくれるようになった。今までは私が料理や選択をしていても知らんぷりだったのに、

「何か手伝おうか」

と言ってくれるようになってきた。また、私がちょっとした料理のコツを教えると

「これ、おもしろいね」

と反応してくれるようになった。

 家の中が徐々に明るくなってきた。妻のあかりは相変わらず仕事で忙しく飛び回っているが、行く先々で私のことを自慢してくれているらしい。娘の友香もお父さんが作ったのと言って、遠足のお弁当を自慢したとか。また、私のブログもずっと好調でたくさんの人が見てコメントをくれる。

 カリスマ主夫なんて、ちょっともてはやされてしまったが。私自身、何か変わったわけではない。いや、変わったかもしれないな。

 前に比べると、自信を持っていろんなことを行えるようになったし。なにより、父の背中を見せることができている。その実感が湧いている。

「お父さん、今度ボクが夕飯つくっていい?」

 友樹のこの言葉。私としては感動的だった。

「いいぞ。何が作りたいんだ?」

 私は幸せをかみしめながらそう答える。うん、私がやってきたことは間違いじゃなかったんだな。思わず心から笑顔があふれてきた。


<父の背中 完>

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