伝説
アシュリータがこの世界を去ってから数年後、多くの困難を伴ったが王政は廃止され、神官だったエリクは異例の早さで神官長となった。
王族たちは貴族の地位にとどまったものの、政治には関与しなくなった。その代わり、人々の推薦によって選ばれた人たちが政治を行うようになった。
エリクは、フリンツから、今は失われてしまった聖玉の存在を神話として残すよう依頼されていた。
「父は、僕を……王族の存続を守りたかったんだろうな」
そうフリンツはエリクに言った。
エリクは、長い時の中で、自分たちの中にも先住民族の血が流れているだろうことをフリンツに話した。彼は頷いていた。
〈王族の祖先はもともと侵略者であり、神官たちの祖先と共にこの地にやってきた。巫女と伝説の妖魔は、祖先を同じくする不思議な力を持つ先住民族であった。侵略者であった王族はこれらを支配下に置いた。巫女の一族は光を司るため光玉を用い、その紋章はイラクサであった。妖魔の一族は闇を司るため闇玉を用い、月と星を紋章とした。聖玉とは、それぞれが受け継いできた、この光玉と闇玉のことである〉
「ねぇ、おばあちゃん。あそこに変な生き物がいたよ」
小さな女の子が、祖母と北の森の近くの街道を歩いていた。
「もしかしたら、それは使い魔かもしれないね」
「使い魔って何?」
「昔々、この森には魔族と呼ばれる種族がいたんだよ。今もひっそり暮らしていて、時々、人間の世界をのぞいているのさ」
女の子は怯えた目で北の森を見つめた。
「怖がることなんてないさ。この国の国旗にイラクサとバイサイファルの剣と、月と星の紋章があるだろ? 月と星は魔族の紋だったのだよ。魔族はこの国を裏から守っているんだと、私は小さい頃に、近所のファルサおばさんから教えてもらったの」
それを聞いて、女の子は少し安心したようだった。
「そう……じゃあ、素敵ね」
女の子は一度だけふり返ってみた。
北の森はただ静かにそこにあり、少女はにっこり微笑んだ。




