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聖玉と巫女の物語  作者: ともるん
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ウェルギン

 巫女が住むのは、代々「巫女の館」と呼ばれる屋敷であり、森の中に建てられていた。禊を行う洞窟は、巫女の館の近く、同じ森の中にある。城郭の西側全体が広大な森となっており、それは神殿の西にあるため「西の森」と呼ばれていた。巫女の館と禊の洞窟付近以外は誰でも自由に出入りができた。


 巫女候補だった時は、まだ城下町である東の居住区に住んでいた。そこから神殿に通って修練していたが、次代の巫女に決まってから、町娘から選ばれた侍女のエルダと共に「巫女の館」へ移ってきた。


 古い佇まいであったが、ひっそりとした森の中の、手入れの行き届いた庭に囲まれた心安らぐ場所だった。アシュリータは今、紺色の戦闘服を脱ぎ、簡素な生成りの室内着を着ていた。ここ、巫女の館では、基本的に白と生成り色の物しか着用できない。


「何か変わった事はなかった? エルダ」

「アシュリータ様がお戻りになられて良かったですわ。ちょうど、ウェルギン様からお便りが届きまして、数日中にこちらにお出でになるそうです」

「お兄様が?」

「ええ。神殿への報告が終わったら、こちらへ寄られるそうです」

「そう」


 ウェルギンはアシュリータの十一歳上の兄で、両親を早く亡くした為、彼が親代わりとなって彼女を育ててくれた。今は薬売りとして各国を巡っている。他国もカインデル同様、城郭都市とそれ以外の村や町で構成されているところが多く、それぞれ他国の者は城郭の中へは入れなかったが、それ以外の村や町には他国の物品を売買する場所があった。商売をする者は人数は制限されているものの、通行証があれば自由に行き来ができた。


 はじめは、巫女に選ばれた妹の傍にいたいと思い、騎士に志願したウェルギンであったが、当時の神官長であったゾイタルにより、神殿公認の行商人に任命された。数は少なく、神殿で栽培している薬草やそこから調合した薬などを他国で売っている。年のほとんどを他国に行商に行き、冬の間はカインデルを拠点に周辺の村や町をまわっていた。


 行商とは名目で、本当の目的は地方視察であった。そこで得た様々な情報を中央の神殿に報告している。王と、神殿上層部と本人しか知らない事であり、家族にも知らせてはいけない決まりになっている。しかし、アシュリータは巫女であり、兄が何も言わなくても薄々気付いていた。


「ただいま戻りました。報告をしたいのですが」

 大きな薬箱を背負い、緑青色の行商服を着たウェルギンがそう言って頭巾をとると、神殿の門兵は扉を開けて彼を中へ促した。神殿の出入りは厳しく制限されており、通常は王族と神官および見習い、巫女とその候補たち、そこで学ぶ者たち、神殿公認の行商人のみが自由に出入りできる。

 

騎士は事前に許可をとり、武装を解除しないと入れない。一般人も申請すれば許可証をもらえる。門前で武器の持ち込みを検査され、大丈夫なら、神殿内を見学できる。


 信仰的な特色だけでなく、学術的な機能を有しており、適性が認められれば、国民は身分を問わず、ここで学問や医術を学べ、免状をもらった後は、国内のどの村や町でも教師や治療師として働けた。


 神殿の石造りの建物は、外から見えないように木の塀でぐるりと囲まれていた。

 塀の内側には、様々な植物が植えられており、花の季節は特に美しい庭となった。

 

 ウェルギンは石段を数段のぼり、大きな扉を開けて、神殿内部へと入った。

 入るとすぐに大広間があり、ここは時に大きな儀式を行なったりする場所であった。


 広間の左手奥には、神官たちの詰め所があり、そこで執務を行なっている。神官たちは通常、交替で望楼に詰めるほか、神殿内で栽培された薬草からさまざまな薬を調合したり、占いや医術も学んでいた。見習いの時は学問全般を学ぶが、しだいに適性によって、医学、薬学、呪術、天文学など専門に分かれていった。教師や治療師の育成を行ったりもする。


 ウェルギンはまず、詰め所でほとんど空になった薬箱と注文書と売り上げのお金を渡し、賃金を受け取った。次回、ここでまた、重くなった薬箱を受け取る。


「カイサル神官長がお待ちです」

 詰め所でそう言われ、ウェルギンは神官長執務室へ向かった。神殿公認の行商人は神官長に報告する義務があった。他の行商人に会う機会も少なく、また自分以外の者も同じ特命を受けているのかわからなかったし、知る事は禁じられていた。

 

 広間の右手奥には、巫女候補たちの修練所があった。

 神官長の執務室は広間を横切って一番奥にある。

 そこへ行くまでに何人かの顔見知りの神官と会った。彼らはみな、違う色の神官服を着ていた。

 神官服には何種類かの色の違いがあり、白は神官長を筆頭に、年配の神官や神官長補佐までが着られる色で、その他の神官たちは紺色を着用していた。見習いは藍色であった。


「ウェルギンです。報告にあがりました」

「入れ」

 執務室にはカイサル神官長が大きな机に座って仕事をしていた。

「まぁ、座れ」

 ウェルギンは促されるまま、カイサルの机の前の椅子に座った。


「ご苦労であった。周辺国の様子は?」

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