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聖玉と巫女の物語  作者: ともるん
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地下書庫①

 ここは、神官詰め所の北側にある行商人のための控え室。机と三脚椅子が二つしかない小さな部屋に、ウェルギンとフリンツは向かい合って座っていた。小窓からは、神殿の内庭が見え、平時には、そこにある丸井戸で水を汲む神官見習いがいたかもしれないが、今は静まりかえっていた。


 たった今、フリンツはウェルギンから巫女捜索の詳細について聞かせてもらった。

「では、アシュリータ……巫女は今もどこかに幽閉されていて、その手がかりはつかめていないと?」

「ええ、そうです」

 フリンツは深くため息をついて落胆を隠さなかった。


「……それで、さっき言ったお願いとは?」

「ここの地下書庫のことです」

「地下書庫? 神殿の?」

 ウェルギンは魔王についての話をした。


「伝説の魔王……聞いたことがあるけど、僕も詳しくは知らないな。神殿の地下書庫へ行けば何かわかるかもしれないの?」

「確証はありません。ただ、じっとしていられなくて。私一人では入室できないので」

「わかった。僕と同行なら大丈夫だろう」

「ありがとうございます」


 しかし、ウェルギンには一つ気になることがあった。

「あの、王はこの事はご存知なのですか?」

 フリンツは苦笑した。

「神殿に行く、とは伝えたよ。出してもらえなかったからね」

 どうやら、監視がつけられていたようだ。


「今も神殿の外で見張ってるよ。ここから勝手にどこかに行かないように」

「そうでしたか。でも、どうして行商服を?」

「以前もちょくちょく非公式で神殿に来ていたことがあって。今日もお忍びのつもりで来たからさ。門兵がその時と同じ人だったから助かったよ」

「だからですか。いや、門兵なら行商人の顔を覚えているはずだから」

「持ち物検査もしなかったしね」

 フリンツは服の下を意味あり気にたたいた。


「神殿の地下書庫かぁ。城からも行けるんだけどね」

「えっ……」

「公にはされてないんだけど、城から神殿の地下書庫へ直に通じる地下通路があるんだ」

「……!」

「まぁ、今はほとんど使われていないんだけどね。昔、いざという時の避難に使ったんじゃないかな。城にはほとんどの写本があるから、わざわざ神殿の地下書庫に行かなくてもいいしね」


 ウェルギンには初耳だった。城と神殿が、地下書庫でつながっている……。


「それと、これはまだ非公式なんだけど」

「……」

「地下書庫は移築される予定なんだ。父上が神官に話してるのを聞いたんだ」

「移築先は?」

「今度は地上になるらしいよ。それで、もっとたくさんの人が見られるようにする、みたいな事を言ってた」

「それは、素晴らしいですね」

「うん。だいたい、今の地下書庫は古いらしいからね。昔、戦乱の世には書物を戦火から守るためにそうしたのかもしれないけど、暗いしね。じゃあ、そろそろ書庫に行きましょうか」

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