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4話~化け物

 眩しい陽射しとやかましい目覚ましの音で目が覚める。


 眠い目を擦り、洗面所で顔を洗い歯を磨きながら、リビングに向かいテレビをつけるとニュース番組が放送されていた。


 テレビでは昨日、公園で出現した穴について報道されており、その穴は昨日の場所以外に三か所、各地方に同時に出現したらしい。


 政府は昨日の間にその穴付近を立ち入り禁止にし、科学者、研究者を集め、現在調査中とのことだ。


 ニュース番組では、出演しているキャストが様々な議論を重ねていた。


 テロか、それとも宇宙人の仕業か?宇宙人の仕業ならその宇宙人は友好的か、それとも敵対的なのか?敵対的なら、自衛隊はどう動くかなどの議論をしていた。


「へぇー、あの穴、結構な大ごとになってるんだな」


 俺は歯を磨きながら、呑気に見ていると、家の外から救急車、パトカーがサイレンを鳴らしながら、近所を通り過ぎていった。


 俺は事件か何かだと思っていたが、救急車、パトカーのサイレンの数が尋常ではなかった。


 数十台の規模のサイレン音が聞こえてくる。


 これは単なる事件ではないなんて思っていると、テレビで速報のニュースが流れた。


 内容は穴から人、化け物が出現、その者たちはイグニス帝国と名乗り、周辺にいた科学者、研究者、政府関係の人などに襲いかかっており、穴周辺にいる住民は直ちに所定の避難所へ避難しろとの報道がされていた。


 速報が終わると緊急ニュース番組が始まり、避難指示が始まった。


 スマホからも避難のアラームが鳴り響き、俺は急いで歯を磨き、必要最低限のものを持ち、外に出た。


 外ではテレビやスマホの避難指示を見ただろうと思われる人たちが外に溢れかえっていた。


 やばい、朝飯食うの忘れてた。


 次、いつ食えるか分からない俺は急いで家に戻ろうとすると誰かが俺の腕をつかんできた。


 振り返るとそこには雪がいた。


「‥‥‥大地。どこに行くの?避難指示は聞いたでしょ」


「いや、ちょっと朝飯を取りに行こうと‥‥‥」


「グォォォォォーーー!」


 俺は雪に事情を話そうとした途端、聞き覚えのある雄叫びが聞こえてきた。


「今のは何だ?」


 俺は雄叫びが聞こえた方に視線の先を向けると昨日の公園の穴の中にいた牛の化け物がいた。


 化け物は血のついたこん棒を持ち、鼻息を荒らしながら、こちらを見つめ、佇んでいた。


 俺と雪含めて、避難しようとしていた人たちは、誰も一言も声を出さず、動けずに、ただただ化け物を見つめていた。


 化け物はこちらに向かって動き出す。


「‥‥‥大地」


 雪は俺の袖を掴む。


「安心しろ。きっと大丈夫だ」


 俺は恐怖心を押し殺して、雪を落ち着かせようとする。


「何だこれ!?作りもんにしてはよくできてるな!おい、お前ら写真撮ってくれ!」


 大声が響き渡る。


 よく近所にたむろしている不良達の姿があった。


 あいつらは昔、雪にちょっかいをかけていたところを俺がフルボッコにしたことがあるが、それでも俺の目に入らないところで色々と悪さをしている奴らだ。


 不良達は化け物に笑いながら近づいていく。


 化け物の視線は不良達に向く。


「おぉー!近づくにつれ、よくできてるな!」


 一人の不良が化け物にさらに近づいていく。


「グォォォォォーーー!」


 化け物が吠えた。


 不良はその声を聞いて、ビクッと驚き、動きを止める。


 それを見ていた他の不良達は動きを止めた不良を笑い始め、笑われた不良は怒りからか肩を震わせ、化け物を睨みつける。


「な、何だよ!ビビらせやがって!よくも恥をかかせてくれたな!ぶっ殺す!」


 不良は怒りを化け物にぶつけようと拳を振りかぶる。


 不良が化け物に近づいた瞬間、化け物はこん棒を薙ぎ払い、不良は真横の壁にめり込む勢いで、吹っ飛ばされた。


 化け物は動かなくなった不良を見て笑っているように見えた。


 笑っていた不良達の顔はどんどん青ざめていき、動かなくなった仲間を助けようとゆっくり近づいていく。


 近づいてくる不良たちに化け物は動かなかった。


 不良たちは動かなくなった仲間のそばまで近づくとそのまま肩に担ぎ化け物から離れるように走り出す。


「グォォォォォーーーーーー!!!!!」


 化け物は今の出来事でリミッターが外れたかのように咆哮をあげると、逃げている不良、周囲にいる人たちに襲いかかる。


 悲鳴をあげる人、逃げ惑う人、尻込みして周りに助けを求める人。


 咆哮をあげながら人を襲う化け物。


 なんであいつは笑ってるような表情をしてるんだ?


 襲うことを楽しんでいるのか?


 俺はただ呆然と化け物を見つめることしかできなかった。


「大地!」


 そんな俺を正気に戻してくれたのが雪の声だった。


「‥‥‥大地。‥‥‥早く逃げよう?」


 隣にいた涙目の雪が俺を促してくる。


「あぁ。そうだな」


「キャー!」


 逃げようとした時後ろから女の子の悲鳴が聞こえてしまった。


 視線を向けると化け物が尻込みしている女の子の前でこん棒を振りかぶろうとしていた。


 これは見逃せない。


「雪、先に逃げてろ」


「嫌!大地と一緒に逃げるの!」


 こういう時の雪はいうことを聞かない。


「黙って言うことを聞け!直ぐに追いかけるから!約束だ!」


 俺は雪の返事を待たずに女の子に向かい駆け出す!


「大地!」


 背後から雪の声が聞こえる。


 大地は振り返らず、視線を化け物に向けていた。


 化け物は女の子に近づいていくとニヤニヤとしているように見えた。


 逃げることもできずにただ、泣いていた女の子に化け物をがこん棒を振りかぶる。


 俺は背を向けている化け物に向かって、横っ腹に思いっきり蹴りをかます。


「グ、グォォ!?」


 化け物は急な後ろからの不意打ちに対応できずにたじろぐが、そう簡単には倒れてくれない。


 俺は女の子と化け物の間に立ち「お前の相手は俺だ!牛野郎!」と挑発し、俺に標的を変えさせる。


 化け物はこん棒を俺に向かって振りかぶる。


 俺はこん棒の軌道を読み、最小限で回避し、隙ができた化け物に拳、蹴りを叩き込む。


 こいつの攻撃速度はたいして早くない、これなら攻撃を避けながら、一方的に攻撃できるな。


 化け物は怯み、一歩、また一歩と後ろに下げさせ、女の子と化け物の距離を離していく。


 だいぶ離れたぐらいであろうか、女の子の母親らしき人が女の子を抱え、逃げていくのが見えた。


 よし、もう大丈夫そうだ、さてこいつからどう逃げるか。


「グォォォォォォォォーーーーーーーー!」


 今までで一番、大きい咆哮が鳴り響く。


 化け物は手からこん棒を放すと、化け物から赤い湯気のようなものが立ち始める。


 何をする気だ?


 全身に赤い湯気が覆い尽くした瞬間、忽然と俺から姿を消し、背後から突撃してきた。


 俺は咄嗟に左腕でガードしようとしたが、防ぎきれずに家の外壁に吹き飛んだ。


「痛ってぇ!一体何なんだよ!?消えるとかありかよ!?」


 俺は頭から血を流しながら、折れたであろう左腕を右腕で抑えながらフラフラな状態で立ち上がる。


「グォォォォォ!」


 化け物はこちらに再び突進してくる。


「やばいな、もう動けねぇ」


 今の攻撃だけでこれだ、次はやばい。


「はぁ、雪の約束守らないと雪に怒られるし、あと少しだ!頑張れ俺!」


 俺は自分に言い聞きかせ、奮い立たせる。


「グォォォォォーーーーーーー!」


 化け物は脇目も振らずこちらに向かってくる。


「考えろ、考えろ」


 ……。


「駄目だ。いい案がでねぇ。相手が早すぎる。避けることも無理、カウンターも無理。万事休すか」


 俺は勘で何とかするしかないと考えを決めた時、風を切るような音が響いた。


 すると化け物は大地の横の壁に突撃した。


 化け物はそこから動かず埋もれている。


 化け物の眉間には何かが突き刺さっていた。


「何だ?助かったのか?」


 俺は呟くと、力を失い、その場で倒れ、意識は暗闇に落ちていった。


読んでいただきありがとうございます。

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