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ハンモックを作ろう

 

 受付を母さんと交代した僕は、中庭に植えられてある木を見て思う。


「この木を利用したらハンモックが作れるのではないだろうか?」


 中庭の端っこにある木々は、外から無暗に建物が見えることを防ぐためなのか等間隔で木が植えられている。


 それはちょうど人が寝転がれるくらいの幅で、ハンモックでも吊るせば優雅な昼寝が楽しめそうであっ

た。


 木々も太くて丈夫そうだし、これはハンモックを作るべきではないだろうか。


 天啓のような閃きを得た僕は、すぐさま行動に移した。


 宿屋に戻って階段を上がり、四階の物置となっている部屋へと入る。


「……確か、この辺に物を縛るためのロープがあったはず……あった」


 十分な長さのロープだな。これだけの長さがあれば全部ロープだけのハンモックだって作れてしまえそうだが、さすがにそこまでの知識と技量はない。


 僕は精々簡易的なハンモックを作れるくらいだ。


 友人の家にハンモックがあってそのお洒落さから、自分の自宅で過去に作ったことがある。だから、簡単な物なら僕は作れる。


 寝転がる部分は古い布にしてしまえばいい。だけど、そんな大きな布はないから古くなったカーテンを使うことにしよう。


 大きい布であれば何でもいいのだ。確かこれは最後にきちんと洗ったはずだし、問題ないな。


 ロープと古いカーテンを持ち出した僕は、早速と一階へと移動する。


「トーリ、そんな古いカーテンとロープを持ち出してどうするの?」


「ちょっとハンモックを作る」


「はぁ? はんもっく?」


 疑問の声を上げる母さんをスルーして、中庭へと出た。


 それからロープを適度な長さで結び、端っこが解けないように丸く結ぶ。


 そのロープを木に巻き付けて伸ばし、先端で円を作る。


 そこに古いカーテンの端を通してロープを引っ張ると、ギューッと締まる。


 これで固定されたカーテンに巻きつけられたロープを引っ張ると硬く固定される仕組みになるのだ。


 後はそれを反対側の木でやるだけ。ロープの結び目をいじって、ハンモックの高さを調節してやると完成だ。


 中庭の端っこにお洒落なハンモックが出来上がった。


 空中に浮かんでいるハンモックに足を乗せて、そのまま僕は寝転がる。


 最初は少し不安定だったが、すぐに安定するようになった。


 僕の身体がカーテンとロープに支えられて宙を浮かぶ。自分の身体を受け止めるような感触がとても心地いい。


 空を見上げると青々とした葉っぱと、青い空が広がっていた。


「うーん、木陰の下でハンモックを作って寝転がるのは最高だな」


 前世の会社で寝泊まりするのなら椅子や床で寝るのではなく、ハンモックでも吊るして眠れば良かった。なんてことを本気で思ってしまうくらいだ。


 そんな事を考えていると、入り口の方からガシャガシャと金属同士が擦れる音がした。


 この音は間違いない。ウルガスが帰ってきたのだろう。


 チラリと入り口の方を見ると、玄関に入ろうとしたウルガスがこちらに視線を向けているところだった。


 ウルガスはじーっと僕を見つめる。いや、正確には僕の下にあるハンモックを。


 害はないとわかっているのだが、全身鎧姿のウルガスにマジマジと見られると少し怖いな。


 ウルガスはしばらく無言でこちらを見ると、ゆっくりと寄ってきた。


「どうしたのウルガス?」


「…………」


 僕が尋ねるがウルガスは何も反応しない。


 それを怪訝に思っていると、ウルガスがハンモックに乗っている僕の身体を軽く手で押した。


 ハンモックの上に乗っている僕は、手で押されることによって左右に揺れる。


 勿論、手で軽く押されたくらいでは落っこちやしないし、千切れもしない。


 意外とロープというのは頑丈にできているのだ。


 ウルガスはそのまま僕を二度三度揺らす。それからゆっくりと手を離して、今度は自分を指さした。


「えっと、ウルガスも乗りたいの?」


「…………」


 僕がそう言うと、ウルガスはコクリコクリと兜を上下に振る。


 いつもよりも頷く回数が多いし、速いな。


 兜越しで素顔は見ることができないが、どことなく仕草から興奮しているように思える。


 これが中身女性であれば可愛いのだが、むさ苦しいおっさんという場合もあるので複雑だな。


 まあ、それはおいておいて。


「うーん、さすがに全身鎧を着たままだと厳しいかな。ほら、そういう鎧とかって、かなり重いでしょ?」


「――っ!?」


 僕が無理であることを述べると、ウルガスはショックを受けたように固まる。


 意外とショックを受けているんだな。そんなに乗ってみたかったのだろうか。


「うーん、鎧を脱げば大丈夫だと思うけど……」


 チラリと視線を向けながら言ってみるも、ウルガスは激しく首を左右に振って否定する。


 何故だかわからないけど鎧は絶対に外したくないと。


 丈夫なロープで作っても、さすがに全身鎧の重さは厳しいな。ロープはいけても庭に植えてある木が心配だ。下手したら折れるかもしれない。


「部屋の中で鎧を脱げるなら、ウルガスの部屋に作ろうか?」


 僕が提案してみると、ウルガスは喜ぶように首をブンブンと縦に振る。


 それなら問題ないな。室内には服を引っかけるためのフックとか打ち込まれた釘なんかがいくつかあるはずだ。


 恒久的に使うのは負担がかかってマズいが、ちょっとの間使うくらいなら問題ないだろう。


「それじゃあ用具をとってくるから先に部屋に行って待ってて」


 僕はウルガスにそう言って玄関をくぐる。その前に釘を刺しておこう。


「ウルガス、木が折れるから乗っちゃダメだよ」


「――っ!?」


 僕が振り返って忠告すると、慌ててハンモックから離れるウルガスがいた。


 今、乗ろうとしたな?


 僕がじっとりとした視線を向けると、ウルガスはカクカクとした足取りで二階へと上がっていった。


 どうやら意外とお茶目な部分もあるようだ。


 ウルガスの新たな側面に驚きつつも、僕は四階の物置に向かった。




 ◆



「ウルガス、入っていい?」


 先程と同じように古いカーテンとロープを持ち出した僕は、ウルガスの部屋をノックする。


 すると、中でガシャガシャと音が鳴り、扉の鍵が開けられた。


 扉が空いて隙間から兜が出てくる。


 おお、扉の隙間から兜が出てくると怖いな。真夜中とかだと思わず叫んでしまいそうだ。


 ウルガスは僕の姿を確認すると、扉を開けて中へと促してくれる。


「お邪魔しまーす」


 ここが自分の家が所有する部屋であるとわかっていても、思わず言ってしまう。


 他の客が部屋にいる状態で入ったことは何度もあるが、地味にウルガスが部屋にいる状態で入るのは初めてだな。いない時に掃除は何度もしたことがあるけど。


 ウルガスが泊っている部屋は一人部屋にしては少し広め。家具は基本である机、椅子、タンス、クローゼット、洗面台、暖炉と一般的なものだ。


 長期滞在客なら私物を入れたりするのだが、ウルガスはほとんどそれをしない。


 代わりに室内には鎧の手入れ道具や予備の兜、ナイフや剣といったものが多く置かれているため生活感は一応あるな。


 タンスやクローゼットの上に所々小物や花が置かれているのが可愛らしいな。


 さと、ハンモックであるがどこにかけようか。とはいっても、ロープをかけるフックが今のところ右側と窓の上にしかないので、そこにかけるしかないな。


「窓の上にあるフックと右側の壁にあるフックを使って、斜めにかけようと思うけどいいかな? ちょっとタンスをずらさないとダメだけど」


 そう言うとウルガスは即座に移動して、設置されているタンスを持ち上げてこちらを見る。


 これはどこまでずらせばいいと問うているのだろうか? というか物が入っているタンスはかなり重いはずだけど……まあ、今はそんな事はどうでもいいか。


「ここら辺までずらせば大丈夫かな」


 僕が指さしてあげると、ウルガスはこくりと頷いてからタンスを置いた。


 それが終わると、僕は早速ハンモックの制作にかかる。


 とはいってもさっきと同じことをやるだけで、さほど時間もかからないが、ウルガスは僕が作る様は興味深そうにしていた。


 ウルガスも覚えておけば野外で丈夫な木を見つけた時に作れるかもしれない。そう思って僕は作り方を説明し、ウルガスに手伝ってもらいながらもハンモックを作った。


 想定よりも少し時間はかかったものの、室内ハンモックが完成だ。


 ウルガスがワクワクとしている中、強度を確かめるために僕が一度寝転がってみる。


 うん、問題なく寝転がれるな。僕よりも身体が大きいウルガスでも、さすがフックが抜けたり、壁が剥がれたりはしない……と思う。


「うん、これなら大丈夫だよ。簡易的なものだから飛び乗ったり、重い物を他に乗せたり無茶な使い方はしないでね」


 僕が飛び降りて念を押すように言うと、ウルガスは頷く。


 その様子はどこか玩具を与えられた子供のようで可愛らしかった。


 それからウルガスはどこかソワソワした様子で、ハンモックと僕に視線をやる。


 さすがに意味を察せない僕ではない。


「ああ、僕がいると鎧を脱げないもんね。じゃあ、僕は部屋から出るから」


 そう言って背中を向けると、ウルガスがちょんちょんと肩を叩いてきた。


 思わず振り返るとウルガスの大きな手があり、そこには小さな革袋が乗っていた。


 疑問に思いつつも手に取って中を見ると、そこにはいくつもの金貨と銀貨が入っていた。


「これ全部くれるの?」


 僕が尋ねると、ウルガスはそうだとばかりに頷く。


 働いた対価にお金を貰えるのは嬉しいけど、ロープと古いカーテンを使った簡易ハンモックだけでこれは貰い過ぎだ。


「さすがにこれは多いよ」


「…………」


 僕が金額が多い事を指摘すると、ウルガスは困ったような雰囲気を出す。


 それからウルガスは部屋に置いてあった紙とペンを手に取り、勢いよく書き殴った。


 それからウルガスは僕に見えるように紙を見せてくる。


『知識は財産。トーリの教えてくれた物は凄く有用だ。外でも簡易的な寝所を作ることができる素晴らしいもの』


 つまり、僕のハンモックはそれほど外で生きる人にとっては凄い知識ということなのだろうか? とはいっても、僕からすれば前世の物をそのまま再現しただけなので、ウルガスから称賛されるような人物じゃない。


「材料費と人件費で銀貨三枚。まあ、これでも多く取り過ぎているけどね」


 銀貨三枚を取りながら笑うと、ウルガスは明らかに戸惑った様子を見せる。


 それから金貨を何枚も持って、もっともっととジェスチャーしてくる。


「いいよ。これくらいで。その代わり、ウルガスがハンモックの良さを皆にも勧めてあげて」


 それでも僕が遠慮すると、ウルガスは納得したのかゆっくりと頷いた。


「それじゃあ、また何かあったら言ってね」


 そうやって僕は今度こそ部屋を退出。


 すると中から鎧を外すような音が部屋からした。僕は興味本位から覗きたくなったが、止めておいた。


 お客のプライバシーを守るのも重要だし、どうせならウルガスの意思で見せてほしいからね。


 さて、僕も中庭に設置したハンモックで優雅にお昼寝と行きますか。


「…………」


 その後、中庭へと戻ると僕の作ったハンモックの上でレミリアとかいう女性客が眠りこけていた。




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『魔物喰らいの冒険者』

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