ポテトフライ
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トーリの両親である、アベルやシエラの過去、宿を開くきっかけなど、二万文字程度の加筆がされております。WEBで読んだ人も楽しめてオススメです。
ユウナ達がやってきてすぐにドドガルがやってきたので、同じように四階へと案内。
それが終わると僕の役割は彼女達にハンバーガーを作ることだ。
食堂の方を母さんとレティに任せて、僕は厨房で調理にとりかかる。
父さんは父さんで昼食作りを行っている模様。ユウナ達から貰った食材を利用して、調理を進めている。
朝に挽いた分のミンチは朝食のまかないとして使用したので、今からミンチ肉を挽き直しだ。
しかし、悲嘆に暮れることはない。
何故ならば今の僕にはミートチョッパーという、神器があるのだから。
ハンバーガーのパテ用に仕入れていた、エイグファングの肉とブラックバッファローの肉を適当にカットして、ミートチョッパーに入れる。
後はそれをハンドルでグルグルと回すだけ。それだけであれ程の苦労と労力も必要なく、肉がミンチ状になっていく。
「トーリ君、何だいその道具は!?」
ニュルニュルと出てくるミンチ肉を眺めながらハンドルを回していると、受け取り口に身を乗り出しているミハエルがいた。
いつの間にやってきたののだろうか。まったく気配を感じなかった。
ミハエルはどこか興奮した顔つきでミートチョッパーを眺めている。
「これは楽にミンチ肉を作るための道具でミートチョッパーっていうんだ」
「……ミートチョッパー?」
「肉を入れて、こうやってハンドルを回すだけで挽き肉になるんだ」
ミートチョッパーの性能を示すように肉を追加で入れてハンドルを回すと、ミンチとなった肉が出てくる。
すると、ミハエルは驚愕の表情で押し出されるミンチ肉を見つめる。
「なっ! 肉が一瞬でこんなにも細かく……っ! こんな道具、数々の調理道具を集めている僕でも見たことないのだが!?」
「うん、なかったから、こういう便利な物ができないか頼んで作ってもらったんだ」
「つ、作った……トーリ君、それを僕にも使わせてくれないか?」
「今は調理中だ。たとえ、ミハエルでもそんな用で厨房に入れるわけにはいかねえ」
ミハエルがおずおずと言いながら厨房に入ろうとするので、調理作業をしている父さんに注意された。
今は昼食時であり、ここには料理人や従業員しか入れない場所。たとえ、ミハエルの頼みでも、今厨房に上げてやることは難しい。
「くっ、そうだった。厨房は料理人にとっての聖域! 僕としたことがそんなことも忘れるくらい興奮するだなんて!」
どうやら今の行動は食道楽貴族であるミハエルにとって、許されないもののようだった。
厨房の外でかなり悔いている様子。
ミハエルはひとしきり唸った後、居住まいを整えて頭を下げる。
「トーリ殿、アベル殿。僕の非礼をここに謝罪する」
「あはは、休憩時間になったら後で触らしてあげるから」
「おお、感謝する!」
そう言うと、ミハエルは爽やかな笑みを浮かべてテーブルに着く。そこには既にいつもの孤児達がいて、今日もバッチリとミハエル専用席を取っておいてくれたようだ。
貴族なのに素直に謝ったり、誰にでも分け隔てなく接していたり。本当にミハエルは変わっているな。
なんて思いながら、僕は引き続きハンドルを回してミンチ肉を作っていく。
喋りながらハンドルを回しているだけで、既にボウルの半分を満たすほどのミンチ肉が完成してしまった。恐ろしいスピードだ。
四人分のハンバーガーであれば、これくらいの量で十分なのだが、ドドガルの要望は食べ応えのあるハンバーガーだ。
つまり大きなバーガーを作る必要があるので、これくらいの量ではまだ足りない。
僕は追加で肉をカットしてミートチョッパーに入れて、グルグルとハンドルを回し続ける。
その作業をひたすら続けて、ボウルが溢れ満杯になるくらいのミンチを作る。
それをこねると通常サイズのパテが三つと、それよりも三倍の大きさのパテが一つ出来上がった。
ビッグサイズの方は調味料の量がいつもと違うので、いつも通りの味にできているか不安であるが自分を信じるしかない。
いつものように熱したフライパンの上に通常のパテを三つ。そして、ビッグサイズはもう一つのフライパンを占領して焼いていく。
まるで巨大な肉の塊を焼いているかのようだ。蓋をしていても脂の音がよく聞こえてくる。
これだけ大きいサイズなので、中まで火が通るのに少し時間がかかるだろう。
それぞれのパテを焼いている間に、挟むべきチーズやトマトをスライスし、王様レタスやブーケレタスを食べやすいサイズにむしっていく。
そして、最後に必要なのが……
「おい、トーリ。パン持ってきてやったぜ!」
ちょうどタイミングよく、ビッグバーガーに必要なパンをダスティが持ってきてくれたようだ。
「おお、ちゃんと完成させてくれたんだね」
「バカ野郎。今朝、急に頼みにきやがってギリギリだったっつうの」
ドドガルさんを満足させるためにビッグバーガーを作ることを考えていた僕であるが、さすがに大きなパンを用意することはできない。
適当な食パンや大き目のパンで代用とする案も考えられたが、ドドガルさんが望んでいるのはハンバーガー。
彼が僕の期待に応えてくれたように、こちらも期待に応えるべきだと思ったのだ。
だから、ダスティには悪いが急ピッチで大きなパンを作ってもらったのである。
ダスティは厨房の傍にやってくると、抱えていた木箱を開ける。
「ほらよ。念のために大きさを変えて作ったから合いそうなのを使ってくれ」
「ありがとう、助かるよ」
箱の中には普段のパンよりも二倍、三倍も大きいパンが入っていた。それだけでなく、普通のサイズのパンもある。
本当に焼き上がったばかりなのだろう。木箱からは温かく、香ばしい麦の匂いがする。
うん、ちょうど焼いているパテの大きさとばっちり合いそうだ。
「おい、トーリ。火加減だ大丈夫なのか?」
「あっ、ヤバい。悪いけど、支払いは今度でいい?」
感謝の気持ちと支払いをしたいところであるが、今はハンバーグを焼いている最中だ。流暢にそんなことはいてられない。
「しょうがねえな。その代わり、今度ハンバーグパンの味見をしてくれ。お前の意見も聞いておきてえからよ」
「わかった!」
ダスティの力になることを了承して、僕は持ってきてくれた木箱を持って厨房に戻る。
それからすぐに火加減を見ながら、焼いているハンバーグを確認。
ユウナたちに作る通常サイズのものは焼けていたので、トレーに移す。
ドドガル用のビックサイズはヘラで何とかひっくり返す。やはり、フライパン一個占領する大きさだけあって、まだ中まで熱は通り切っていないよう。
なので、そちらの火を見つつ、もうひと品を先に作ることにする。
そのひと品とは、今朝ユウナたちが持ってきてくれたジャガイモを使った料理。
ハンバーガーの相棒としても有名なポテトフライだ。
「父さん、ジャガイモ薄切りにしてくれた?」
「ああ、お前の言う通り、さっき薄く切って水にさらしておいたぞ」
父さんの指し示す流し台を見ると、そこには薄切りにされたジャガイモがボウルで水にさらされていた。
ジャガイモを水でさらす理由は二つある。
一つはジャガイモの変色を防ぐため。ジャガイモを切って放置していると中に含まれている成分が変化して紫やピンク色になってしまうのだ。
食べることに問題はないけど、変色したポテトを食べるのは嫌だからな。
二つ目の理由は、くっつかないようにするためだ。ジャガイモに含まれるでんぷん質を流すことで、ジャガイモ同士がくっ付いたり、煮崩れすることができる。
とはいえ、水に晒し過ぎると栄養などもなくなるので要注意だ。
ボウルからカットしたジャガイモを取り出すと、布の上に置いて水気をとる。
水気が残っていると脂が跳ねるし、カリッとしないからな。しっかりと水気はとる。
フライパンの中にたっぷりと油を入れ、そこにジャガイモを入れていく。
しばらく見守っていると、脂の揚がる音がし始めた。
ジュワジュワとしたいい音に惹かれたのか、父さんが覗きにくる。
「何だ? ジャガイモを揚げてるのか?」
「うん、これもきっといけるよ」
「ふーん」
離れていったけどかなり気にしているのだろう。調理を進めながらもしきりに視線をやっている。
とはいえ、ジャガイモがポテトになるまでまだ時間がかかるので試食させてあげることはできない。
この状態で下手に触ってしまうとジャガイモが折れてしまうので、これは放置。
じーっと待っていると、ビッグハンバーグの方が先に火が通ったようだ。
ビッグハンバーグを取り出して、ダスティから貰ったパンの上に乗せる。
サイズがサイズだけにそれだけで一苦労。その上に肉汁を利用した特製ソースをかけて、
いつもより大きく切ったトマトやチーズ、王様レタスやブーケレタスを乗せてパンで蓋をし、ユウナ達の分も作りあげれば完成だ。
「よし、できた」
「うおっ、こいつはまたバカデカいもんを作ったな」
「まあね。ドドガルへのお礼だから」
さすがにこのサイズは作るのも大変だから、そう安々と作ったりはしない。
今回はドドガルが予想以上にいいものを作ってくれたから特別にだ。
にしても、こうして見るとデカいな。普段のハンバーガーが隣にあるものだから余計に大きさが際立つ。
フライパンと同じくらいのサイズはあるな。
これなら健啖家なドドガルでも、食べ応えがないとは言わないだろう。
「ああ、あそこに俺の夢がっ! 男の夢が詰まった食い物がある!」
「ちょっと恥ずかしいから止めてよ!」
「厨房に入ったらアベルさんにどやされるぞ」
僕がお皿に乗せたビッグバーグの出来栄えに満足していると、受け取り口ではラルフが身を乗り出して、ヘルミナとシークが必死にそれを止めているところであった。
ハンバーグが大好きなラルフの前で、これを見せびらかせていると何をするかわからないな。
僕はラルフの視界から逃れるように、ユウナ達のハンバーガーとドドガルのビッグバーガーを持って四階に上がった。
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