ほどよく働くのが一番
ハンバーガーを売り切ってしまった僕達は、その日の晩に打ち上げ会として、ダスティ、カルロ、ハルト、アイラで食堂に集まっていた。
今日も夜の食堂は賑わっているが、打ち上げ会のお陰か僕は仕事を免除。従業員として働くことなく堂々と席に座っている。
「はい、フルーツジュース五つ」
すると、ウエイトレスであるレティがフルーツジュースを運んできてくれる。
こういう打ち上げでは酒を呑みたいものであるが、生憎と僕らは未成年。前世のように厳しく取り絞められているわけではないが、控えなければならない。
「はい、お兄ちゃんの分」
「うん、ありがとう」
「あーあ、お兄ちゃん達だけ楽しそうでいいな。私も屋台やってみたかった」
杯を持ってきたレティが羨ましそうな声を漏らす。
男だけでなくアイラも参加したことにより、レティは疎外感を覚えてしまったのだろう。
さすがにアイラにも似たようなことを言われたので、レティがどういう言葉を欲しいか、何をしたいかもわかる。
「……じゃあ、今度はレティも手伝ってみる」
「やるやる! 今度私にハンバーガーの作り方教えてね!」
僕が頼むと、レティは嬉しそうに笑って他の客の注文を取りに行った。
これから屋台をやる時に、毎回アイラに付き合ってもらえるわけじゃないだろうからな。いずれにせよ、ある程度軌道に乗ったらレティにも頼む予定だったし問題ない。
「まあ、とりあえず飲み物は揃ったし先に乾杯だけするか!」
「トーリ、お願いね!」
「ええ、僕?」
「トーリが発案した料理なのだから仕切るのは当然だ」
ハルトが眼鏡を指で持ち上げながら言うと、カルロも同意とばかりに頷く。
まあ、僕が言い出しっぺだしそうか。
「それじゃあ、ハンバーガー屋台出店と完売を祝して乾杯」
「「乾杯!」」
僕の音頭を合図に全員でフルーツジュースの杯をぶつけ合う。
まずは乾杯の一杯とばかりにごくごくと喉を鳴らして飲む。
「ぷはぁ、まさか昼前に売り切れるとはな!」
ダスティがややオヤジ臭い動作で杯を叩きつけた。
「様子を見に行こうと思ったら、長蛇の列が出きていた上に完売だもんね」
「皆、俺の野菜の美味さに感動したのだろう」
皆ではないが野菜を好むエルフには好評だった。中にはパテを抜いて、レタスの増量を頼む猛者もいた程
だ。
「んなわけねえだろ、俺のパンだろ」
「ハンバーガーの要は肉。だから、俺のお陰」
ハルトがそう言い出したからだろう。ダスティやカルロが張り合うように言い合う。
この話は何度も繰り返されてきているが全てが平行線だ。
皆、それぞれの食材に自信と誇りを持っているからな。だからこそ、あのような美味しいハンバーガーができたのだろうと思う。
「はいはい、その話は聞き飽きたわよ。何度も言うけど、最初に発案してくれたトーリのお陰よ」
「それもそうだな。一番の功労者はトーリに譲ってやるぜ。んで、俺が二番な」
「違う! 王様レタスとブーケレタスの相性を発案した俺が二番だ!」
「パテの黄金比を作り出した俺だよ」
一番という席がなくなれば、次は二番という席で争い合う。
仲裁してすぐの口論に思わずアイラも呆れ気味だ。
「どうして、一番や二番に拘るのかしら? 皆のお陰でいいじゃない」
「男の子は見栄を張りたい生き物だから」
年頃の男の子として譲れないものがあるんだよ。
女心のわかるアイラであるが、さすがに男心まではわからないようだ。
とはいえ、こうしてハンバーガーがたくさん売れてくれてよかった。
これなら継続的に屋台を出してお金を稼ぐこともできる。お金はダスティやカルロ、ハルト、アイラにも分配することになるが、数時間で銀貨十枚くらいを売り上げることができたのだ。
これならコツコツ営業すれば、高くて手が届かなかった氷の魔道具を買うこともできるかもしれないな。
今のうちに頑張って、暑い夏には氷の魔道具で涼しくいきたいものだ。
「まあ、いいわ。ダスティ達なんて放っておいて料理を頼みましょう」
「そうだね。売り上げた金がたくさんあるし」
「あっ、でも結局はトーリの家にお金が入るじゃない! 次は打ち上げで食べるならうちの宿屋にしてよね!」
「はいはい、わかったよ」
まずは自分達へのご褒美として、ここにいる友達とハンバーガーの完成と完売を祝って楽しもうじゃないか。
人生はほどよく働いて、楽しむのが一番いいのだから。
これにて一章分は終わりです。