ハンバーガー完売
申し訳ないです! 32、はじめての売上を投稿しました。先にそちらを読んでもらえますと繋がります。
「どうやら料理ができたみたいね」
砂漠の民が去ると、隣の屋台のお姉さんが声をかけてきた。
「ええ、できたわ! さぁ、うちのハンバーガーを買ってちょうだい!」
それを待ってましたとばかりにアイラがハンバーガーの包みを持って応じる。
「いいよ。いくらだい?」
「銅貨四枚よ」
「銅貨四枚!? サンドイッチにしては高くない?」
「うちはただのサンドイッチじゃないの。さぁ、約束通り銅貨四枚ちょうだい!」
「仕方ないね。これで美味しくなかったら文句つけるからね」
ちょっと悔しそうに銅貨を渡してくるお姉さんと、にんまりとした笑顔で受け取るアイラ。
女性達の攻防が少し怖い。
しかし、これは味の感想を聞くいい機会だ。初めて買ってくれた砂漠の民は、フードで表情がよく見えなかったからな。感謝してくれたことから美味しかったのだと思うけど、明確な反応を見たい。
宿の客である皆から絶賛されたハンバーガーであるが、お姉さんはどうであろうか?
「へえ、結構美味しそうね。それじゃあ、早速――」
僕とアイラは見つめる中、お姉さんは包みを解いてハンバーガーを口にした。
「えっ?」
目を見開き、思わず漏れ出たかのような言葉。
「どう? 味は?」
「す、すごく、美味しい!」
お姉さんの心底驚いての感想に、アイラは嬉しそうに笑った。
「どうよ、うちのハンバーガーは!」
「サンドイッチなんて言って悪かったわね。ハンバーガー、すごく美味しいよ。これほどの味なら銅貨四枚してもおかしくはないね」
どうやらうちのハンバーガーは、お姉さんが認めるに相応しい味だったようだ。
サンドイッチではなく、きちんとハンバーガーと名前を口にしてくれた。
この変化にはアイラも大喜びで、僕も嬉しかった。
やった。僕達のハンバーガーは屋台でも通用するようだ。
「おっ、いたぜ! トーリだ!」
アイラと共に喜んでいると、ラルフがこちらを目指してやってきた。
その後ろにはいつものようにシークとヘルミナもいるが、見慣れない男女もいる。
「トーリ! ハンバーガーを食べにきたわよ!」
「ありがとう、ヘルミナ。後ろの人達は友達?」
「ええ、私達と同じ冒険者仲間。トーリのハンバーガーを食べさせたくて連れてきたの」
そう言って、ヘルミナが後ろにいる冒険者仲間を指さす。
狼の獣人男性、女性エルフ、人間の男性という面子。どうやら冒険者仲間をわざわざ連れてきてくれたようだ。
宿屋でだって朝食を食べられるだろうに嬉しいことだ。前世と違ってインターネットなどというものは普及していないこの世界では、口コミこそが最大の宣伝ツールだからな。
本当にありがたい。
「朝早くから連れてきやがって本当に美味いんだろうな?」
獣人が腕を組みながらどこかかったるそうに言う。
まあ、これだけ朝早くに連れられればそう思ってしまうのも無理はないだろう。
「大丈夫だって、俺が保証してやるからさ!」
「えー、ラルフに保証されてもね?」
「ラルフって、肉があれば何でも美味い美味い言うもんな」
「そんなことねえよ!」
すまん、ラルフ。僕の中でのラルフのイメージもそんな感じだ。
だけど、ここで言えば不利になるだけなので余計なことは言わないようにした。
「はいはい、私が保証するから食べてみて! 今日は奢るから!」
「……ヘルミナが、そこまで言うなら食ってやるよ」
ヘルミナがどこか上目遣いで言うと、獣人の男性は仏頂面ながらも頷いた。
ヘルミナはちゃらんぽらんのラルフやシークよりも、しっかりしているし信頼もあるのだろう。
「じゃ、そういうことでトーリ、私達の分も合わせてハンバーガー六人分!」
「わかった! でも、一気にたくさん作れないから二人分だけ待ってもらえる?」
屋台のお姉さんにハンバーガーを渡してから、パテを仕込んで焼いていたが一気に四つしか焼くことができない。
さっき作った余りが二つあるが、どうせなら出来立てを食べてもらいたいので僕とアイラの昼食に回すことにした。
「じゃあ、ラルフとシークの分を後にしといて」
「わかった」
「「おい!?」」
ラルフとシークが綺麗に声を揃えて突っ込んでくるが、僕はそれを無視して準備。
蒸し焼きされたパテにしっかりと火が通っていることを確認すると、アイラが準備してくれたパンの上に次々と乗せていく。
そこからは同じようにアイラが見事にトッピングしていき、最後に僕がソースをかけてパンで挟む。
それらを持ちやすいように包んでやると完成だ。
「はい、ハンバーガー四つで銅貨十六枚です」
「ええ、ちょっと高い!? で、でも、これだけ美味しければそうよね……」
僕が値段を告げると、想像よりも高かったからかヘルミナは驚いた。
そして、少し苦しそうにしながら財布から銀貨と銅貨を取り出す。
さすがに初日から新規のお客さんを連れてきてくれたのに、これではちょっと冷たいかな。
「でも、今回は新しいお客さんを三人連れてきてくれたから、銅貨三枚分引いて、十三枚にしとくよ」
「今度十人友達を連れてくるから八枚にならない?」
ヘルミナはハッと表情を変えてさらなる値引きを持ちかけてきた。
「おいおい、奢るとか言いながら値引きを持ちかけるのかよ」
「今は節約しないとダメなの。そんな恥とか外聞に構ってる場合じゃないわ!」
思わず獣人が呆れるが、ヘルミナは気にしない。
さすがは冒険者パーティーの財政を担っているだけあってか、必死というか交渉が巧みだな。
新規の顧客を十人も連れてくるというのは、後々のことを考えるとかなりデカい。ましてや、こちらはまだオープンして初日目。
パン料理としながら銅貨四枚という少し気の強い価格設定。今はとにかく味を知ってもらって値段に相応しい美味しさだと認識してもらわないといけない。
ラルフであれば、本当に連れてこられるか怪しいところであるが、誰からも人気のあるヘルミナならば十分あり得るな。
「いいよ、宿屋のお客を使うのは無しだけどね」
「ちぇー、トーリってばしっかりしてるわね。交渉成立よ」
ヘルミナから銅貨を八枚受け取り、アイラが包んだハンバーガーを渡す。
これでは儲けがあまりないが、先行投資として捉えるといいだろう。
僕がラルフとシークの分のパテの準備に入る中、ヘルミナがハンバーガーを連れてきた冒険者仲間に渡した。
「さあ、食べてみて!」
「おう」
ヘルミナが勧めると意外にも獣人の男性が一番に食べてくれた。
鋭い牙を剥き出しにしながら豪快に一口。
エルフと人間の男性がまじまじと見守る中、獣人が吠えた。
「う、うめぇ!」
「ね? ほら、言ったでしょ?」
「ああ、なんだこの肉。めちゃくちゃジューシーじゃねえか!」
驚きながらもガツガツとハンバーガーを食べ進める獣人。
先程までの仏頂面が嘘のように吹き飛んでおり、夢中で食べている。
「お、本当だ。美味いな!」
「レタスのシャキシャキ感がすごい。野菜が上手く扱えてる」
続いて男性とエルフの言葉。
特にエルフさんはハルトが選定してきれた王様レタスとブーケレタスのコンボを気に入ってくれたようだ。
「うがぁ、美味そうだ。トーリ、俺達の分も早く作ってくれー」
「朝から何も食べてねえから腹が減ってるんだ」
満足げにそれを眺めていると、目の前でラルフとシークがゾンビのように呻く。
目の前で美味しそうに食べる中、お預けを食らうのは辛いのだろうな。
「もうちょっと待っててね。今、焼いている途中だから」
「あら、初日にしては人気なのね。売れなくて寂しそうにしているトーリを私が慰めてあげようと思ったのに」
「いやいや、あのような美味な料理が食べられるのだ。本来なら行列ができていなければおかしいくらいだよ」
「……っ!」
ラルフとシークを宥めながら必死になってパテを焼いていると、今度はナタリアやミハエル、ウルガスがやってきてくれた。
どうやら三人も約束した通り、ハンバーガーを食べにきてくれたらしい。
さらに三人分のハンバーガーの注文が加わり、ヘルミナが連れてきてくれた冒険者達もお代わり。さらには宿屋に泊まってくれているドワーフやエルフなんかも来てくれてあっという間に大所帯に。
見目麗しいナタリアやミハエル、大柄なウルガスといった存在感のある面子が視線を集め、さらに並んだ先にある屋台に興味を持った人が一人、二人とやってきて並んでくれる。
僕はパテを焼く作業に忙殺されることになる。嬉しい悲鳴というわけだ。
まさかこんなにもお客がやってくるとは思わなかった。
「ハンバーガーに合うジュースはどう? スッキリとした酸味のあるジュースはハンバーガーとの相性もいいよ!」
さらには隣で屋台をやっているお姉さんも、うちに便乗してジュースを売りつけ始めた。
ハンバーガーを手に入れたラルフとシーク、ヘルミナは見事に作戦にハマって購入。
屋台のお姉さんが茶目っ気のある笑顔を浮かべる。まったく、商売上手な人だよ。
「アイラ、盛り付けお願い」
「うん!」
パテを焼き上げると、即座にパンの上に乗せて後はアイラに任せる。
そして、完成させたものから順にアイラがお金と交換。
その間に僕は一秒を惜しむように、次のパテを再びフライパンに投入。
アイラはハンバーガーを渡し終わると、待っている次の客に世間話を振って時間を繋いでくれる。
本当にアイラに手伝いを頼んでよかった。僕一人だったら絶対に回らなくってパンクしていた。料理をしながら受け渡し、精算、接客などをこなすのはかなり難しい。
手伝いを申し出てくれたアイラには感謝だ。
「トーリ、ハンバーガー五人分追加よ!」
「わ、わかった!」
今日は売ることよりも知ってもらうことに専念しようと思っていた僕達だが、宿のお客さんの力もあってか、お昼を迎える前にハンバーガー五十食を完売することになったのであった。
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