はじめての売り上げ
申し訳ないです! こちらが最新話でした。こちらをお読みになってから33話を楽しみください。
僕達が準備に取り掛かる頃。立ち並ぶ屋台街では、朝食を求めてうろつく街の人や旅人、冒険者なんかが姿を見せ始めた。
既に他の屋台の人は完成させた料理を見せながら、威勢のいい声を張り上げて客を呼び込んでいる。
隣で果物のジュースを売っているお姉さんも、ぼちぼちとやってくるお客さんを相手にジュースを売っていた。
そんな中だが、僕は焦ることなくじっくりと作業する。
炎で熱したフライパンの上に油を垂らす。その上にパテを四枚乗せると、漏れ出した肉汁と油の弾ける音がした。
火を強火にしながら、それぞれのパテの表面をしっかりと焼き上げる。
その頃にはパテから肉の焼けるいい匂いが漂い始め、通りを歩く人からチラホラと視線がやってくるようになった。
表面に火が通ったら火を弱めて、フライパンに蓋をしてじっくり蒸し焼きに。
待っている間に、レタスを仕分けしているアイラの隣に移動して、ハルトが届けてくれたトマトやチーズをスライスしていく。
そうやって人通りの食材が用意できた頃、パテであるハンバーグがしっかりと焼き上がった。
「はい、パン!」
フライパンを火からあげると、アイラが待っていたかのように台に四つのパンを置いてくれたので、僕はそこにハンバーグを乗せいていく。
僕が刷毛で特性ソースを塗ると、アイラが次々とスライスチーズとトマト、王様レタスとブーケレタスを手際よく乗せる。
そして、最後にブーケレタスの上にもう一度ソースを塗ると、アイラがパンで蓋をした。
「「できた!」」
僕とアイラが屋台で初めて作ったハンバーガーだ。
「この間、食べたのと変わらないよね?」
「うん、ちゃんとできてるはずだよ」
宿の厨房では何度も作った料理であるが、違う環境で作ったものとなると少し不安になるものだ。
「なぁ、そのサンドイッチみたいなのいくらだ?」
完成したハンバーガーの味見でもしようかと思っていると、屋台の前に一人の男性が現れた。
「サンドイッチじゃなくて、ハンバーガー!」
「はんばーがー? 名前なんてなんでもいい。いくらだ?」
「銅貨四枚です」
僕が値段を答えると、男性はあからさまに顔をしかめた。
「銅貨四枚? 肉と野菜をパンで挟んだだけだろう? 少し高くないか?」
男性の言う通り、屋台街で食べる普通のサンドイッチであれば、銅貨二枚から三枚くらいの範囲が相場だ。
「何よ! うちの料理に――」
強気に言い返そうとするアイラを僕は手で静止させる。
「うちのハンバーガーは普通のサンドイッチとは違いますから。その値段に見合った味を提供できると思いますよ?」
僕らのハンバーガーはそれを遥かに超える手間や、選び抜かれた食材を使っている。
というか、ぶっちゃけこれぐらい払ってもらわないと全く儲けにならないのだ。
「チッ、銅貨四枚ならいらねえよ」
一歩も引く気はないと視線を合わせると、男性は舌打ちをして歩き去ってしまった。
「なによ、食べてもないのに判断して……」
「まあ、食べてもらわないことには味の良さもわかってくれないだろうしね」
食べてもらわないことには銅貨四枚の価値があることを理解してもらえない。今までとは違った見慣れない料理であれば、なおさらだろうな。
「……すいません」
「「うわっ!」」
過ぎ去った男性の背中を見ながら話していると、忽然と目の前に第三者が現れた。
違う方向を見ていたとはいえ、全然気づかなかった。
驚きながら視線を前にやると、そこには黒いフードを深く被っている男性が現れた。
肌は浅黒いが、それとは対照的に思えるような綺麗な銀髪。目元はスッと切れ長で翡翠色に瞳。手首や首には金色の装飾品が巻き付けられていた。
この独特な特徴を持つのは、ここより遥か西に位置する、砂漠の国の民だ。
彼らは日に焼けた肌と、派手な装飾をしている。
東に位置するルベラまでやってくる人は中々少ないので、こうして見かけるのは割と稀少だ。
僕達がまじまじと見つめる中、砂漠の民はその浅黒い肌をした指をハンバーガーに向けて、
「……これ、なんです?」
少したどたどしい言葉であるが、声自体は若い青年のよう。
「ハンバーガーですよ」
「……いくら?」
「銅貨四枚です」
「……買います。ください」
僕が銅貨四枚と告げても、砂漠の民の男性は文句を言うことなく了承した。
そのことに驚きながら、僕は完成したばかりのハンバーガーダスティに貰った紙袋で包む。
そして、差し出された銅貨四枚とハンバーガーを交換した。
さて、初めてハンバーガーを買ってもらえた客であるが、味の方も気に入ってもらえるだろうか。
砂漠の民は、包みを開けるとどこか戸惑ったような素振り。食べ方に自信がないのだろうか?
「そのまま食べたら大丈夫よ!」
アイラが手で動作をしながら言うと、砂漠の民はハンバーガーを口にした。
僕とアイラが反応を見守ると、砂漠の民は呑み込んでから固まった。
美味しいのか? 美味しくなかったのか? フードで表情を隠しているので、まったくわからない。
僕とアイラが首を傾げると、固まっていた砂漠の民は急に速度を上げて食べ進めた。
ガツガツと豪快に口を開けてハンバーガーを食べていく。
そして、あっという間に食べ終わると、指を奇妙な形に組んで頭を下げた。
砂漠の民なりの感謝なのだろうか? わからないが、僕とアイラはそれに応えるように一礼。
それが終わると砂漠の民は速足で去っていった。
僕の手の中には、屋台で初めて売り上げた銅貨が四枚。
我が店での初めての売り上げだ。
「初めて売れたわね」
「うん」
知り合いでもない客に初めて買ってもらえた。そのことが嬉しかった。