料理開始
金曜まで連続更新します。
「あった! ここね!」
木札に書いてある地点にたどり着いたアイラと僕は、早速とばかりにそこに屋台を設置。
周囲では僕達と同じように屋台を置いて、営業の準備をし始める人々がいた。
空白の場所が次々と埋まっていき、屋台が立ち並んで賑わっていく。
まるで今から祭りでも始まるんじゃないかと思えるもので、その一員でもある僕達もワクワクした。
「おはよう、今日はよろしくね!」
アイラと一緒に荷解きをしていると、僕達の隣に威勢のいい声を上げる女性がやってきた。
一人しかいないようだが、この女性も隣で屋台を開くようだ。
返事の挨拶を返すと、アイラが興味深そうに尋ねる。
「お姉さんは何を売るんですか?」
「私はジュースよ。今朝仕入れた果物を絞って樽に入れてきたから、後はコップに注ぐだけ。だから、一人でも簡単に回せるのよ」
お姉さんの屋台を見てみれば、樽やコップ、果物などが置かれていた。
置かれている果物は、フルーツジュースを美味しく見せるためにオブジェ的な役割なのだろう。
にしても、既に樽に入れたジュースをコップに注ぐだけとは便利だ。屋台での商売に慣れを感じる。
「そっちは何を売るの? 一応、割り振られたからには同じジュースとかじゃないと思うけど」
そう、市で割り振られるのには料理の種類の管理もある。通りにやたらとジュースばかり売ってるような屋台が並ばないように、売る料理の種類によって割り振られるのだ。
とはいっても、同じ種類を売る屋台が多ければどうしても重なってしまうが、基本的には重ならない。
多分、僕達の隣や前に同じようなパン料理は重ならないだろう。
「私達はハンバーガーを売るわ!」
「はんばーがー? なにそれ?」
やっぱり、そうなりますよね。
疑問符を浮かべる女性にアイラが説明する。
「ああ、要はサンドイッチね」
「違うわ! ハンバーガーよ!」
アイラ的に、そこはどうしても譲れないようだ。
まあ、ハンバーガーという名前が浸透してくれれば、うちの屋台の料理を求めてくれることになるからな。宣伝として悪くない。
「仕込みが終わったら声をかけてね。私がサンドイッチを買ってあげるから」
ムキになって訂正させるアイラをくすりと笑い、女性は自分の屋台の準備に戻る。
「トーリ、ハンバーガーの準備よ! あの人にハンバーガーを認めさせてやるんだから!」
「いや、ハルトとダスティが材料を持ってきてくれないと無理だよ」
残りの野菜とパンはそれぞれ二人が持ってきてくれる約束だ。店を抜け出したタイミングで持ってくると言っていたのだが、一体いつなのだろうか。
「おお! トーリ、ここにいたのか! 焼き立てのパンを持ってきてやったぜ!」
そんなことを思っていると、ちょうどダスティが大きな箱を持ってきてくれた。
「ちゃんと僕達の場所を見つけてくれたんだね」
「いや、すぐに見つけられなかったから市に行って聞いたんだ。ハンバーガーって、言えばここだって教えてくれたぜ?」
「ははは、アイラの言葉が印象に残ったみたいだね」
アイラのお陰でスムーズに合流できて助かった。
ダスティから箱を受け取った僕は、早速それを開封して確かめる。
箱の中は仕切りで区切られており、ハンバーガーのパンがびっしりと詰まっていた。
「うわぁ、いい匂い。これ何個くらい入ってるの?」
「全部で百個くらいだな。ちょっと多いだろうけど少ないよりはいいだろ?」
調理の際に落としてしまう場合などもあるしな。少し数に余裕があると助かる。
「それとこれ、紙袋な!」
「え?」
「ハンバーガーの包みだよ。お前、ハンバーガー作ってそのまま生で渡すのか?」
「ああ、忘れてた!」
そうだった。ハンバーガーを作るのはいいが、それを入れる容器や皿のことがすっかりと抜け落ちていた。
「助かる――って、なんかダスティの店の名前が入ってる」
ダスティから受け取った紙袋を見ると、そこに洒落た文字で『ルバーリエ』という店の名前が書かれていた。
「ええっ、うちの店の宣伝になるからな。袋代は請求しないでおいてやるよ」
「ちゃっかりしてるわね」
まったく上手いやり方だ。これならどこのパン屋が作ってくれたかすぐにわかるな。
この世界で働いている子供達はたくましいことこの上ないな。
「ありがとう。活用させてもらうよ。そのうち気に入った人がダスティのパン屋に押し掛けるかもね」
「そうなった時は、うちにもハンバーガーを卸してくれよな!」
「卸せるように頑張るよ」
「じゃあ、俺はこのまま配達に行くからよ!」
ダスティはそう言うと違う箱を持って颯爽と南の方へ。どうやら配達をするようだ。
パン屋は朝の時間帯がもっとも忙しいからな。そんな時でも間を縫って、パンを届けにきてくれたダスティに感謝だ。
「さて、後はハルトがレタスとトマトを持ってきてくれれば問題ないんだけどな」
周囲では串肉の焼ける香ばしい匂いや、火にかけられたスープらしきものからスパイスの匂いが漂ってきたり。周りの屋台では続々と料理の準備を始まっている。
今、準備らしい準備をしていないのは隣でジュースを売るお姉さんと僕達だけだ。
「ハルトは野菜について話し出すと時間を忘れる場合があるから、もしかして忘れているかもしれないね」
彼が訪れる客に説明するので夢中で忘れていたなんてことは十分にあり得る。
「ちょっと私様子見てくる! トーリはここにいて」
「う、うん、わかった」
ついに我慢できなくなったのだろう。アイラが走り出してしまった。
「とりあえず、すぐに準備ができるように火をつけておこう」
◆
薪をくべて火をつけてフライパンを温めていると、ハルトとアイラが箱を持ちながら猛ダッシュしてやってきた。
「す、すまん! トーリ、遅れた!」
自分の店からここまで走ってきたからだろう。ハルトは息を荒げていた。
「聞いてよ、トーリ! やっぱり、客に野菜売るのに夢中で忘れていたのよ!」
「ああ、やっぱり?」
アイラの話を聞くと、やっぱり僕の想像していた通りのようだった。
ハルトの野菜話に感心した主婦達が次々と集まり、ハルトは店の前で熱く野菜について語っていたのだという。
「本当に悪かった!」
「別にいいよ。ちょっと遅れはしたけど、そのせいで作るのが間に合わないってことでもないし」
トマトをスライスするのも、レタスをむしるのもそう時間のかかることではない。
後はパテを焼いてあげて、その待ち時間にやってやればいいだけだからな。
「忙しいのに届けにきてくれてありがとう」
「お、おう、じゃあ後でな。ダスティとカルロを誘って昼に食べにくる」
ハルトは爽やかに笑いながら告げると、再び来た道を戻っていった。
「さあ、準備にかかろうか。僕はパテを焼いていくから、アイラは王様レタスとブーケレタスを剥いて仕分けしてくれる?」
「任せて!」
そう頼むと、アイラは腕まくりをして早速レタスを剥くのにとりかかる。
「あら、ようやく料理開始?」
隣の屋台のお姉さんが微笑ましそうにしながら尋ねてくる。
「すぐにできるので大丈夫ですよ」
「見てなさいよ! すぐに完成させて食べさせてあげるから!」
僕とアイラはそれに対して余裕の笑みで返事するのであった。
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