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二つのレタス

 

 ハルトとダスティにはどの食材もメインとはいったが、中心となる食材を置かなければ合わせることもできない。


 だが、カルロがいいハンバーグを完成させてくれたお陰で、他の食材も前に進めるようになったのだ。


 そんな訳で僕は、カルロの残してくれたレシピでハンバーガーを作り、それを手にしてハルトの店にやってきた。


 エプロンをつけたハルトは、何やら一人の女性客と話し込んでいる模様。


「なに? 子供がジャガイモを食べてくれない? 安く日持ちもして、腹持ちのもよく、体にもいいと、良いこと尽くしのジャガイモを嫌うとはなんて勿体ない!」 


「え、ええ、嫌いなのか少しでも混ぜると食べてくれなくて。なにかいい料理方法はないかしら?」


 女性客が若干引きながらも尋ねると、ハルトの眼鏡がきらりと光った。


「オススメがあるぞ! ジャガイモの皮を剥いて薄くスライスして焼くんだ。そこにトマトソースやチーズを乗せて焼いてやればいい! ジャガイモは苦手かもしれないが、チーズやトマトの組み合わせを嫌う子供は少ない! あとはグラタンに混ぜるのもいい!」


 ジャガイモへの熱意こそ異常であるが、ハルトの言っていることは簡単で理にかなっているものであった。


 それなら、ジャガイモが苦手であるという子供でも食べてくれそうだな。


 想像してみたらとても美味しそうだった。


「なるほど、それなら食べてくれそう。わかったわ、それで試してみるわ。ジャガイモを六つちょうだい」


「毎度あり! ついでのトマトソースにおすすめのトマトもあるが?」


「うふふ、じゃあ、それも」


 ハルトがここぞとばかりに店のトマトを売り込むと、女性客は微笑ましく笑いながら景気よく買ってくれ

 た。


 ハルトは野菜に対する熱意が高く、最初に会う人は大概引いてしまうのだが、持ち前の話術と知識で皆を虜にしてしまうんだよなぁ。


 聞いていると面白いし、身近な食生活に関係するせいか非常にためになる。それに何より野菜が好きだということがわかり、商売をしていても圧迫感を感じない。


 本当に八百屋の息子の鏡のような存在だ。


 感心しながら眺めていると、女性客を見送ったハルトがこちらを振り向いた。


「おっ、トーリか。うちの野菜を買いにきたのか? 今日はいいジャガイモが手に入ってオススメだぞ?」


「残念だけど今日は買い物じゃないんだ。カルロがハンバーグを完成させてくれてね」


「おお、遂にできたか!」


「肉を変えたハンバーガーを持ってきたから食べてみて」


 事前に作っておいたハーフサイズのハンバーガー。包みから取り出したそれをハルトは掴んで食べた。


「おお、この前よりも食べ応えとインパクトがあるな!」


 やはり、僕の作ったハンバーガーより、カルロの作ったハンバーグを挟んだハンバーガーの方がいいようだ。


 一口食べただけでそれがわかるって相当な進化だね。


 小腹が空いていたからか、ハルトはハーフサイズのハンバーガーをぺろりと平らげてしまう。


「この肉に負けない葉野菜を選べばいいのだな?」


「うん、葉野菜もハンバーガーの要だからね」


「任せろ! 既に大まかな選定は済ませてある!」


 僕の言葉を聞くなり、ハルトは籠を手に持つと、いそいそと陳列されている棚から食材を抜き取る。


 そして、二つの葉野菜らしきものを見せてきた。


 一つは普通のレタスよりも二倍以上の大きさを誇る玉レタスのようなものと、花弁のように巻かれているレタス。


 後者はブーケレタスと知っているが、前者の方は知らない。


 なんだこのお化けレタスは。


「この大きなレタスは何?」


 僕が指をさして尋ねると、ハルトはよくぞ聞いてくれたとばかりに語る。


「最近、仕入れ先の村で栽培している王様レタスだ!」


「王様レタス?」


「ベジリタスという魔物からとれた種を植えて育った葉野菜だ。何よりの特徴は、王の名を冠するに相応しい圧倒的な大きさだ。それに瑞々しさや食感も一級品だ」


「魔物からとれた種って大丈夫なの?」


 ハンバーグに使っている肉はどっちも魔物肉だが、聞いたことのない魔物の食材だと少しだけ気になる。


「安全性も確認されて栽培に入っている。安全は保証しよう。まずは食べてみろ」


 ハルトに籠を突き付けられて、僕はおずおずと王様レタスに手を伸ばす。


 すると、王様レタスは根本からあっさりと取れた。普通のレタスよりも大きくて葉が立派なので固そうなイメージを抱いていたがそうでもないようだ。


 試しに一口齧ってみると、シャキシャキとした歯応えが口の中に広がる。そして、なにより――


「瑞々しくて甘いね」


「だろう? ドレッシングをかけずともそのまま食べられるくらいだ」


 どこか自慢げに笑うハルト。


 確かにこれなら、その瑞々しさと甘みだけで十分に食べられる。野菜が嫌いだという子供でも食べてしまいそうだ。


「いける、この王様レタスはハンバーガーで使えるよ!」


「ああ、だけど挟むものはそれだけでないブーケレタスもだ」


 ハルトが追加で差し出してきたのは、僕も知っているブーケレタスだ。まるで花のブーケのような形をしていることから、その名前がついている。柔らかな葉と色鮮やかな色合いが特徴的だ。


「瑞々しさとシャキシャキのある王様レタスと柔らかさのあるブーケレタス。この二種類の葉野菜を使うことを俺は提案する」


「なるほど、サラダみたいに複数の野菜を使うことで食感のアクセントをつけるんだね」


「そういうことだ。宿屋で料理を出しているだけあって理解が早いな」


 サラダを作る時は、味や栄養面や色合いは勿論のこと、食感を大切にする。


 どうせなら食感すらも味わって楽しく食べたいからね。その努力とハルトの厳選した野菜のお陰か、うちではサラダも結構な人気なのだ。


「ちょっと試しに挟んでみるよ」


 用意していたハンバーグとパンを包みから取り出し、ハルトから貰った王様レタスとブーケレタスでそれらを挟む。


 そして、また新しくなったハンバーガーをその場で食べる。


 パンの味と完成されたハンバーグ。それらはとても美味しいのであるが、水分がなくなるし食感が似たようなもの。


 だけど、そこに王様レタスとブーケレタスが加わることによって異なる食感のハーモニーと瑞々しさが生まれた。


 味の他に彩りと食感が加わることにより、ハンバーガーはまた一つ美味しく、食べやすくなった。


「うん、断然美味しくなったよ」


「ハハハ、そうだろう! この日のためにいくつもサンドイッチやハンバーガーを作っては試行錯誤したからな!」


 うん、道理で準備がいいと思ったよ。


 ハルトもここまでの答えにたどり着くのに、色々と実験して考えてくれたんだな。


「うん、この二つを採用! と言いたいけれど、王様レタスはいくらするの? 売り物にする以上、仕入れ額が高いと困るんだけど?」


 ブーケレタスは日常的に使っているので、値段も知っている。


 だけど、この王様レタスとやらは予想がつかない。


 素晴らしい食感と瑞々しさを発揮するレタスであるが、売り物にするための仕入れ額が高くては意味がない。


「……ちょっと待て。これは売り物にするのか?」


「あれ? 言ってなかったっけ?」


「聞いてないぞ」


 ハルトはっきりとそう言われて、振り返ってみるとそんなことは一度も言ってなかったことに気付いた。


「ここまでいいものができたんだから屋台で売ろうよ。そして、その売り上げを四人で分ける」


「てっきり俺はいつもの如くトーリの趣味でやっているのかと思ったが、それもいいな。面白そうだ」


 眼鏡をクイッと持ち上げてニヤリと笑うハルト。


 きっと今頃、ハンバーガーの売り上げで好きに遊ぶことを……


「上手く儲かれば、希少な野菜をたくさん仕入れることもできるし、農家に投資をすることもできる! 今まで手を付けられなかった野菜も大量に買い付けることができるぞ!」


 まったく考えていなかった。相変わらず野菜中心の欲望だった。


「すごいね、その年で農家に投資なんてしていたんだ」


「自分の好きな野菜を育ててもらっているのだ。お金を払うのは当然だろう?」


 ううん、それはそうだけど、野菜のためにそこまでしている子供は滅多にいないだろうな。


「で、結局のところ王様レタスの値段はどうなの?」


「うむ、ハッキリ言って、まだ栽培段階であまり市場に流れていないので性格な値段がわからん! 俺のところでも最近様子を見るために少数を置いているくらいだ」


 おずおずと尋ねると、ハルトはきっぱりとそう告げた。


「値段がわからないって逆に怖いね」


「まあ、値段については大丈夫だろう。仮に爆発的な人気が出たとしても、俺の店だけには安く卸してくれるだろうから問題ない」


 ハルトがそこまで自信満々に言い切るのであれば大丈夫だろう。


「ハルト、なんて君は頼りになるんだ……!」


「魔物の種からできた野菜と聞いて引いていた癖に、一気に迷いがなくなったな……」


 魔物の種からだろうと関係ない。美味しくて安ければそれでいいんだ。


 そんな感じでハルトに違う種類のトマトも提案されてそれを採用。


 ハンバーガーに必要な野菜はこれで全て整ったことになる。


 後はダスティがパンを仕上げてくれれば完成だな。




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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『魔物喰らいの冒険者』

― 新着の感想 ―
[一言] 『性格な値段』って…
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