パテの完成
ハンバーガーをダスティ、ハルト、カルロに食べさせると、喜んで研究してくれることになったので僕は専門家である彼らに任せることにした。
自分は知識としてのハンバーガーを知っているが、前世で専門店を営んでいたわけでもないのだ。それぞれの材料のことは専門家に任せていくのがいいだろう。
そう思ってしばらく過ごしていると、客足の穏やかな日中にカルロがやってきた。
カルロにはハンバーグの肉の選定を頼んでいたので、よりよい組み合わせができたのだろう。
「トーリ、ハンバーグできたよ」
「おお、本当!?」
楽しみにしていたので思わずテンションが上がる。
すると、カルロはこくりと頷き、手に持っている紙袋の中身を見せてくれた。
「持ってきたから、ここで焼いてもらっていい?」
「うん、勿論」
今は食堂内に客もいないし、外から泊まりにくる旅人もあまり入ってこない時間帯。
父さんとレティは四階で休憩し、母さんは庭掃除をしている。
僕が厨房でハンバーガーを研究していようと問題はないな。
厨房に移動して手洗いをすると、カルロは紙袋から二つの肉の塊をまな板の上に置いた。
「おお、これがパテに使った材料?」
「うん、二種類を使ってみたんだ」
二つの肉の塊を見ると、片方はすぐにわかった。
「こっちはエイグファングってわかるけど、もう片方は何かわからない」
赤々としたエイグファングの肉よりも一回り大きなもの。これが何の肉かがわからない。
「トーリが前に店で見た肉だよ」
「前にお店で?」
うちの肉はほとんどカルロの肉屋で買っているが、前に僕がカルロの店に訪れたのはアイラと父さんと一緒に行った時。その時に父さんは……。
「あっ、ブラックバッファロー?」
「正解」
カルロの笑いながらの言葉に、頭の中にあったモヤが晴れたような気分になる。
そういえば、父さんはブラックバッファローの肉とエイグファングの肉で悩んでいたものだ。
「へー、なるほど。それで二つの肉をミンチにして混ぜ合わせたんだ」
「うん、エイグファングが七でブラックバッファローが三かな?」
「大まかな割合はそれくらいってことだね。助かるよ。そこまで調べるの大変だったんじゃない?」
「大変だった。毎日肉をミンチにして、自分で作って食べてた。もう当分はハンバーグを食べたくない」
どこか死んだ魚のような目で虚空を見つめるカルロ。
うん、さすがに肉が大好きな肉屋の息子でも、毎日のように肉をミンチにして食べるのは辛かったようだ。
二種類の肉を混ぜるだけでも、割合などを試すので膨大な数になる。それらを何種類もの肉と試していたのだからカルロの苦労は途轍もないだろう。
本当はこのパテすら見たくないのではないだろうか。
「ありがとう。じゃあ、早速焼いてみるね」
「うん、俺の分は焼かなくていいから」
パテをフライパンの上に乗せると、カルロはもう見たくないとばかりに厨房を出て行く。
肉が大好きなカルロがああなってしまうだなんて、余程の苦労だったのだろう。
肉が焼けるのを待っている間に、僕はカルロにフルーツジュースを作ってあげた。
すると、カルロがそれを飲んで、心なしか顔に生気が戻った。
ハンバーグが焼けると、まずはそのまま食べてみる。
「僕が作ったハンバーグより硬いけど、肉の旨味がギュッと詰まっている気がする」
「うん、前のハンバーグは単体としては十分美味しいけど、ハンバーガーとして食べるなら柔らかさを抑えて、もっと食べ応えがある方がいいと思ったんだ」
前世のハンバーガーでも俺の作ったハンバーグみたいに柔らかくなかった。パンで挟むことを考えて少し硬めに仕上がっていた。
カルロはそれと同じように調整してくれたということだろう。
試しにパンとレタスとトマトで挟んで食べてみると、こちらの方が食べ応えがあった。
「ハンバーガーとして食べるならこっちの方がいいね」
「ハンバーグとして食べるならトーリの作ったものの方が美味しくて正解だろうけど、ハンバーガーとして食べるならこっちの方がいいと思う」
正直ハンバーグ単体の美味しさで言えば、僕が作ったものの方が美味い。
だが、何故か他の具と一緒に食べるとなるとカルロの作ったハンバーグの方が何倍も美味しく感じられるのだ。
「ありがとう。ハンバーグはカルロの作ってくれたこれでいくよ」
「よかった。俺が苦労した甲斐があったよ」
カルロにハンバーグの調整を頼んだお陰で思わぬ発見が得られた。
さすがは肉屋の息子だな。
「じゃあ、これを主軸にハルトに野菜を選定してもらうよ」
「うん、頼んだよ。ハンバーガーが完成に近づいたらまた呼んで」
俺がそう言うと、カルロは満足したのかにっこりと笑って去る。
きっと肉屋を途中で抜けてきてくれたのだろう。毎日の営業がある中、ハンバーグの調整をしてくれたカルロに感謝だな。
カルロの努力を無駄にしないためにも、美味しいハンバーガーを完成させないと。