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ハンバーガー試作

大変お待たせしました。

そして『宿屋の息子』宝島社から書籍化決定です!

 

「おう、トーリ。きてやったぜ」


 ハンバーガーを披露するべく厨房で準備をしていると、ダスティがやってきた。


 仕事が終わったら行ってやるみたいなことを言っていたが、ダスティが一番ノリだ。さっきはああ言っていたけど密かに楽しみにしていたのだろうな。


「このミンチ肉がハンバーグってやつになるのか?」


 手短な席に座って待ってるかと思ったが、ダスティはそのまま受け取り口に身を乗り出して厨房を覗いてくる。


 どうやらハンバーグが気になるようだ。


「そうだよ。これを調味料やタマネギとか加えて捏ねてから焼くんだ」


「へー」


 ダスティが興味深そうにする中、俺は塩胡椒を入れてハンバーグのタネを作る。


 粘りが出てきたらタマネギや卵を加えて均等に混ぜる。


「おっ、ダスティだ」


 すると、程なくしてカルトとハルトが一緒に入ってきた。


 二人はダスティに声をかけると、同じように受け取り口で並ぶ。


 三人並んで厨房を覗いてくる様子は微笑ましいな。


 後ろで野菜を切って、夕食の仕込みをしている父さんは少しやり辛そうだけど。


「今、作ってるのがハンバーグってやつ?」


「うん、後は焼いてパンと野菜で挟むだけ。今から用意するから席で待ってて」


「いや、俺は肉が気になるしこのまま見てるよ」


「うむ、野菜の友となる料理だ。目にしておかねばな」


「どうせ席に座ってても暇だしな」


 突っ立って待たせるのも申しわけないと思ったのだが、特に気にした様子はないようだ。


 三人がこのまま見てると言うので、少しやり難いが俺はこのまま作業にかかる。


 とはいっても、既に仕込みは済ませてあるので、後は焼いたりするだけの簡単な作業だ。


 僕は三人分のハンバーグを、油の敷いたフライパンに投入。


 高熱の油の上にハンバーグが乗ることによって、じゅわぁっとした音が響き渡る。肉を熱したフライパンの上に乗せる、この時の音が結構好きだな。


 しばらく音を聞きながら見つめていると、辺りに肉の焼けるいい匂いが広がる。


 香ばしい香りに釣られてか、厨房を覗いている三人は先程よりも前のめりになっていた。


 身を乗り出し過ぎて、厨房に入ってきてしまわないか少し心配だな。


 そう思ったところで、ちょうど表面に火が通ったので弱火にして、蓋をしてしまう。


 視覚的にハンバーグが閉ざされた三人は、残念そうな面持ちで身を後ろに戻した。


 素直な三人の反応を笑いながら、僕はハンバーガーを盛り付ける皿を用意。


「父さん、スライスしたトマトと千切ったレタス貰うよ」


「おう」


 仕込みのついでに父さんに用意してもらったトマトとレタスを拝借。


 そして、食材棚からパンとチーズを取り出して、ちょうどいいサイズにカット。


 すると、ハンバーグに十分火が通ったようなので火を切る。


 カットした丸パンの上にレタスを乗せて、その上に熱々のハンバーグと特製ソースをかける。さらにチーズ、トマト、レタスを乗せて最後にパンで蓋をしてやるとハンバーガーの完成だ。


「おお! なんかサンドイッチと違うな! 早速食わせろ!」


「いや、さすがに食べる時はテーブルに着こうよ」


 興奮するダスティを諫めながら、盛り付けた皿を持って移動するとアヒルの雛のように大人しく付いてきた。


 そして椅子に座らせてから、ハンバーガーを乗せた皿を目の前へ。


「おお、さすがはうちのレタス。時間が経っても瑞々しくて美しいな。サンドになんても美しさが際立っている!」


 ハンバーガーを見せて一番にレタスに興奮するのはハルトだけだろうな。


 相変わらずハルトの趣味嗜好は野菜を中心に回っているようだ。


「これが作ろうとしているハンバーガー。皆の意見も聞きたいから食べてみて」


「このまま手で食べていいんだよね?」


「うん、ちょっと手が汚れるけどそのままガブッと」


 俺がそう促すと、三人はすぐに両手でハンバーガーを豪快に掴む。


 ハンバーグの匂いに長く当てられていたので、もう堪らないのだろう。


 その中で特に真剣な面持ちをしているのは肉屋であるカルロ。様々な角度からハンバーグを眺め、肉汁や焼き加減、混ざっているタマネギなどをチェックしている。


 何だか俺の作るハンバーグの品定めをされている気分でちょっと緊張するな。


 そんな中、ダスティが大きな口を開けてハンバーガーに齧り付いた。


 そして即座に上がるダスティの雄叫び。


「うめえ!」 


「うむ、レタスの瑞々しさと歯応えを殺していないな。さすがはアベルさん、見事な包丁捌きだ」


「いや、確かにそれも味の一員だろうけど、そこまでレタスに拘るかよ」


「何を! このレタスがあるからこそ食感にアクセントがついて、味の強いハンバーグをスムーズに食べ進められるのだぞ? 言わば、このレタスが中心だと言えるだろう」


「いや、ちげえだろ。パンがこの肉汁を吸い取って、全部の食材の味を調えてるんだよ。そもそもパンで挟む料理なんだ。パンが主役に決まってるだろ?」


 ああ、もう拘りが強い奴等は面倒だな。


 でも、だからこそ、相談してみてよかったと思う。軽く説明したとはいえ、一口食べただけでこの料理の奥深さと、それぞれの食材の役割を理解しているのだから。


「まあまあ、ハンバーガーはどれもが主役だから」


 俺がそう言い聞かせると、ハルトとダスティはとりあえず納得したのか、食べるのを再開しだした。


 さて、続いてはカルロ。


 入念にハンバーグをチェックしたカルロがハンバーグを口にする。


 肉屋の息子ということだけあって、数多の肉を食べてきているだろう。そんなカルロにとって、ハンバーグはどうなのだろうか。


「……想像していた以上に美味しい。多分、これはエイグファングの肉だよね?」


「うん、そうだよ」


 さすが肉屋の息子。一口食べてみただけで使っている肉を当ててみせた。


「このままでも十分美味しいけど、他の肉と混ぜてみるのもいいかもしれないね。上手くいえないけど、まだ伸びしろがあるような気がするんだ」


 確かに。ハンバーグの材料といえば、挽き肉であるが材料が牛肉だけのものと、豚肉を混ぜ合わせたものなどもある。中には豚肉だけを使ったポークハンバーグなども。


 エイグファングの肉がいいと決めつけずに、他の肉などもハンバーグにしてみるのもいいだろう。


「うむ、レタスもそうだな。これだけ肉の味とソースの味が強いのであれば、それを受け止めきれるレタスがいいかもしれない。もっと歯応えのある種類葉野菜でもいいかもしれないな」


 先程ハルトが言ったように、この中で一番食感が際立つのは恐らくレタスだ。


 色々な種類を試してみてもいい。


「パンはもっと甘味や塩味も少なく、タレや肉汁を受け止めきれるやつがいいかもな。このパンじゃタレや肉汁の吸収が悪くて、手にまでタレがかかっちまうしよ」


「そういうパンはダスティのところにある?」


 このパンはあくまで、パン単体として食べることを考えられたものだ。ダスティの指摘したような、食材で挟むために味を薄めにされたものではない。


「……いや、ねえな。ちょっと俺が作ってみる」


「さすがはパン屋の息子、頼もしいね」


「うるせえ、茶化すなよ」


 無いから俺が作るとはカッコいい言葉だ。


 俺が褒めてやると、ダスティはわかりやすく照れた。


「色々ダメだしみたいなのしちまったけど、めっちゃ美味ぇよ。こんなもの考えたトーリの方がすげえだろ」


「確かに。これなら他のサンドイッチよりも目新しいし、絶対に売れると思う」


「ああ、俺達がそれぞれの知識と経験でさらに良いものを作れば完璧だな! もっと美味しくなる!」


 なんだろう、急に三人から褒められると照れてしまうな。


 前世の料理を再現してみただけだけど、これはこれで嬉しいものだ。


「ありがとう。それじゃあ、早速皆で色々考えてみようか」


「ああ。だけど、まずはお代わりだトーリ!」


「一個じゃ足りない」


「俺もだ。今度はレタス多めで頼む」


 そんな風に皿を突き出してくる三人のために、僕はさらにハンバーガーを作るのであった。





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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『魔物喰らいの冒険者』

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