第三話『三つのチーム~前半~』
僕と亜弥くんは自分たちの荷物を持って、ノクターンの先輩方がいる音楽室の入り口のドア近くまで来ていた。
はぁー、ふぅー……。
落ち着け……この先に、これからお世話になる先輩方がいるんだ。
今度こそ、噛まないように!
ドアに手をかけて……いざ!
「失礼しまーす……」
「ん……来たか。まぁ、入れ」
黒髪で真面目そうな多分、三年生らしき人がこっちへと手招きしていた。
他には細目のピンクの髪の人と、その人の隣に黒髪のマント羽織っている人がいた。
「は、はい」
僕と亜弥くんはとりあえず、中へ入る。
窓際に集まっている先輩たちの近くにきた。
「あぁ、荷物はそこら辺の机に置いてくれたまえ」
ピンク髪の細目の先輩が鞄を置くように言ってくれた。
たまえ口調……某アニメの錬金術師を思い浮かべてしまった。
駄目だこれ以上はアウトになる。
「はーい」
亜弥君が返事して、自分の後ろにある机に鞄を置く。
僕も亜弥君と同じように自分の後ろにある机に鞄を置く。
黒髪の先輩が口を開く
「あんたらが新しい一年生だよな?」
「は、はい!そうです!」
僕が返事すると黒髪の先輩が「そうか」と呟いた。
「とりあえず……」
「……?」
黒髪の先輩が真剣な眼差しで僕らを見てくる。
え?なに?
「……べっこう飴、食べるか?」
『へ?』
僕と亜弥君の声が重なった。
目の前の黒髪先輩の手から差し出されている飴。
え? べっこう飴? 甘いヤツ?
「ふ……ふふっ……、巧先輩……べっこう飴って……。普通、自己紹介とかじゃないんですか?」
マント羽織ってる先輩が噴出しそうなのを我慢しながら指摘している。
「い、いや、俺はただ一年生の緊張をほぐそうと」
「いやいや、ビックリしてしまってるよ……ふふ……」
「お、お前ら笑い過ぎじゃないか……」
あ、この先輩たち、絶対いい人だ……、根拠はないけど絶対にいい人な予感がする。
隣にいる亜弥君も笑いそうな顔になってる。
僕もだけど。
とりあえず、黒髪の先輩から貰った、飴を食べる。
「えー、ごほん。気を取り直して、自己紹介をしよう。僕は二年生の木代絽乃だ。よろしくなのだよ。」
ピンク髪の細目の先輩が気を取り直して、自己紹介をしてくれた。
それに続いて黒髪のマントを羽織っている先輩が口を開く
「僕も同じく二年生の三日月廻という者だ。よろしく頼むのだよ!」
あ、結構……普通の人だ。
すっごい、失礼だけど……なんか、マントみたいなの羽織っているから変な人かと思った。
ほらよくいる……キザっぽい人かと思った。
なんか、ごめんなさい。
「え?三日月先輩ってお金持ちだったりします……?」
隣の亜弥君が突然口を開いた。
え?お金持ち?
「あ、えっといきなりごめんなさい。でも、三日月って大手企業で、この学園にその御曹司がいるって聞いたから、三日月先輩かなーって」
え? マジ? いやいやー、まさかー。
「そうだが?」
マジだったッーー!!
え?あの僕でも知ってる大企業のところの息子さん?
僕、すごい失礼なこと、考えてた……いや、本当にごめんなさい。
「うわー、マジだったんすね! 噂かと思ってたんすけど、本当にいるとは! なんか、すごい人が先輩だな!」
「いやいや、そこまですごくないのだよ。僕のことより、自己紹介を続けようではないか」
「あぁ、なんかすいません急に中断しちゃって」
「別に構わない。次は俺か……俺は三年生の横山巧だ。よろしく」
細目の人が木代先輩で、すごい人が三日月先輩で二人とも二年生。
それで、べっこう飴くれた先輩が横山先輩。
よし、覚えたぞー! さすがに先輩の名前覚えないと失礼だからね。
「よし、それじゃあオレたち一年生も自己紹介しますねー!」
こういう時、仕切ってくれる人いると本当に助かるなぁ……。
「オレは一年の……ってあ、一年なのは分かるか! 純音亜弥でーす!」
よし、このまま僕も続いて!
「僕は星川星きゃ……星牙です……」
まーた、嚙んだよこんちくしょう!!
なんで、僕はいつもこういう時に限って噛むんだよ!
舌どうなってんだ! あぁぁ、恥ずかしぃぃぃ。
「……」
ぽんっ。
亜弥君が僕の肩に優しく手を置く。
やめて……。そのどんまいって顔やめて……。
「あ、星牙くん」
「ん?どうしたの?」
「言っとかないといけないことあるよ! ほら」
「あ!」
亜弥君が僕に耳打ちしてくる。あ、そうだよね! 言っとかないと。
先輩たちが不思議そうな顔をして僕たちを見つめる。
よし、今度こそ噛まないぞ!
僕と亜弥君は息を合わせて。せーのっ。
『これから、よろしくお願いします!』
「……! あぁ!よろしく」
「よろしくなのだよ!」
「こちらこそ、よろしくなのだ!」
*
~~♪
誰かの着信音が音楽室に流れる。
「あぁ、悪い。出てくる」
そういって横山先輩は廊下に出て行った。
僕たちは自己紹介が終わったあと、先輩たちと色々なことを話した。
好きな食べ物とか、嫌いなものとか。
一番は、魔法だ。先輩たちの魔法とかもちゃんと聞いた。
木代先輩は引力を操る魔法を扱うらしい。物を引き寄せたり出来るとか。いわゆる、磁石みたいなヤツらしい。
三日月先輩は時を止められるらしいけど三分程度らしい。連続で使うのは体力とか魔力の関係で厳しいらしい。
横山先輩の魔法は個体を液体に液体を個体に変えられる魔法らしい。固めたり溶かしたりするのか。
そういえば、亜弥君の魔法聞いてなかったので聞いてみた。
「ん? オレの魔法? オレの魔法はいわゆる、コピーだね。」
「コピー? あの有名ゲームのピンクの丸いヤツみたいな?」
「まぁ、簡単に言えばそうだね。そのピンクの球体と違うとこは、その場にいる一人だけの魔法をコピー出来るんだ。10分経つとまた、他の奴をコピー出来る」
なるほど、便利な魔法にはメリットもあればデメリットもあるのか……。
……僕の魔法はなんなんだろう……。
そっか、ここにいる人は僕みたいに最近、魔法が使えるようになった人たちじゃないもんな……。
「そういや、星牙くんの魔法ってなんなの?」
「え? あーえーっと実は……」
言ってもいいのか……、実は分からないなんて……。
分からないなんて言って軽蔑されたらどうしよう。
「……?」
「えっと……」
「すまん、話の途中で悪いが移動する」
「どこにですかー?」
「あぁ、二年は分かるが一年は分からないか……。これは知ってるだろう? このチーム、俺らのチームノクターンはこの学園で最弱なんだ……」
「は、はい知ってます」
「だから、チーム部屋がないんだ。でもな、俺の友人に優しい奴がいてな。部屋が広いから一緒に使合わせて貰っているんだ」
そんなことしていいのだろうか。そこで作戦会議したりするんじゃ。
「あぁ、許可は勿論下りてるし、相手が作戦練る時はさすがにお邪魔しないで他のとこに行くさ」
「え、あぁそうですか」
え? また、心読まれた?うーん……。
「あ、いや星川は顔に出やすいな……うん……」
ハッ、僕ってそんなに分かりやすいの!? え? 亜弥君にも読まれてたしマジかー……。
「うん、星牙くんって結構、分かりやすいよ」
「うっ……」
「それじゃあ、説明はしたから、部屋を貸してくれている友人のチームに挨拶しに行こう。結構、顔を合わせることになるからな」
「はい!」
「はーい」
僕たちは横山先輩について行って音楽室をあとにした──
*
「じゃまするぞ」
「じゃまするなら、帰って~」
「あいよ~」
「帰るの!?」
は、ついついツッコんでしまった! ただのギャグなのに!
横山先輩って意外に真顔でボケてくるな……。
っていうか……おぉ、チーム室ってこんな感じなのか。アンティークって感じだなぁ。
なんか、もう普通に暮らせそう。ソファあるし、テレビあるし、冷蔵庫まである。
「あ~、巧くん帰らないで~!」
「ん? 帰れって」
「ギャグだよ~、冗談だよ~!」
あ、素だった。天然ボケってやつか……。ってアレ?
この先輩、僕が入学の時……迷ったときに案内してくれた小っちゃい先輩!?
「ムッ、君いまさ、失礼なこと考えた?」
「え!? い、いや考えてませんよ!!」
「本当に~?」
「本当ですよ!」
僕って本当に分かりやすいんだな! 顔に出やすいの気を付けないとな……。
「姫羽先輩~、一年いじりよくないっすよ~?」
金髪の明るそうな先輩がソファからこっちを見て小っちゃい先輩……じゃなくて、姫羽先輩に話かけてきた。
「いやいや~、ただの馴れ合いだよ~あはは~」
その割にはちょっと、怒った声色してなかったですかねぇ?
なんか、すっごいほわほわ~ってしてる。
「……そういえば、月宮はどうしたんだ?姿が見当たらないが」
「んあ~? 蓮? あぁ、サボりかな~。だからね今ね、ララバイで一番足速い人に探してもらってる~。新しい一年にもまだ、紹介できてないんだよねぇ~」
「そうだったのか。なるほど」
一人はいるよねサボり魔うん。
ララバイってあの、問題起こしたチームだったっけ? どういう関係なんだろうか。
「まぁまぁ、せっかく来たんだからずっと入り口にいないで、こっちきなよ」
「あぁ、じゃあ今度こそじゃまするぞ」
「いらっしゃ~い、ようこそアリアのチーム室へ~」
ん? いま……なんと? アリ、アリ……ア、アリア? いま、アリアのチーム室って?
僕が入りたかったチーム……。マジかー!! え!?信じられない!
「よーし、じゃあ自己紹介しようか~一人いないけど~」
「うぃーっす! じゃあ、俺から行きますね! 俺は二年の卯月茄乃日って言うんだ! 可愛い名前でしょー!」
結構、濃い人きたな。
さっき小っちゃい先輩に話しかけてきた金髪で顔に絆創膏貼ってる人だ。
「あ、えっと僕の番かな? 僕は同じ二年の萩瀬夕音です。よろしくね」
頭にちょんちょこりんがついてる、綺麗な紫髪の大人しそうな先輩だった。
ちょんちょこりんっていうか、前髪結んだら出来るちょんまげ的な?
いや、ちょんまげは何かおかしいな。説明難しいなぁ。
「……一年の柊ニアです。よろしくです……」
あ、同じクラスにいた子だ!すっごい、眠そうだなぁ。
「はーい、次は僕ねー! 僕は三年生の桜木姫羽! よろしくね!」
道案内してもらった、桜色した髪が特徴的なちっちゃい先輩だ。
うん、僕の方が身長小っちゃいけど、やっぱり小っちゃい。
そんな、失礼なこと考えてたら。
バァン!!
扉を乱暴に開ける音が響いた。
ドアの方を見ると外国人っぽい人がいた。え? 英語じゃなきゃダメなヤーツ?
オレンジがかった金髪の外国人だ。
「おーっす! ターゲット確保してきたぜぇ!」
「ちょっと、ロバートくん扉は優しく開けて!」
「そうだぞロブ。また、ドアが壊れるぞ」
「あーい、すいませーん」
「でも、捕まえてくれたことには感謝いたすぞ! お礼に紅茶淹れてあげよう!」
「おー! 働いた後に飲む紅茶はウメェからなー!」
「ところで、他のララバイのメンバーは?」
「あー、あいつらおっそいからなー、後から来るんじゃね?」
「お前が速いだけじゃないのか?」
「それもあんな!」
「……おい、いい加減降ろせクソが」
「あ? お前なー、人に運んでもらってそれはねぇーだろ?」
「うっせーよ、お前がいきなり気絶させて運んだんだろーがバーカ」
「あー……、それは悪かった。でも、こうでもしないと逃げるじゃねぇーか。あと、バカはやめろ」
「あー。まぁ、逃げるけど……」
「だろー!ったくよー」
そういいながら、外国人っぽい人がおんぶしてた人を降ろす。
……。とても、綺麗な人だった。マスクしていても、綺麗と分かる顔立ちだった。
肌がすっごい、白くて紺色の髪に綺麗な蒼い瞳だった。
あ、どうしよう、見とれてた……。男の僕でも素直に綺麗って思えるほどに本当に綺麗な人だ。
まるで、人形みたいな……? ん? 人形? この人どこかで……?
「ッ……」
目が一瞬合った。背筋が凍ったんじゃないかと思うくらいヒヤッってした。
ずっと、あの目に見つめられたら絶対に逸らしてしまう自信がある。
「ったく、面倒だなクソが」
前言撤回、綺麗でも言葉悪すぎるのはどうかと思う。うん。
でも、本当にどこかで……。
「ほら、蓮も自己紹介して! アリアはみんなしたよ!」
「はぁ……。俺は三年の月宮蓮だ。」
「それだけ? よろしくとかは?」
「あー、うん。よろしく」
「はぁ……、もぉー。まぁ、こんな感じでやる気ない人だけど、頼れる人ではあるよ」
「ふぁ~……クソねみぃ……」
すいません。全然、頼れる人には見えないんですけど。
あくびをして月宮先輩ソファで寝たんですけど……。てか、寝るのはや!?
「そういや、ロバくんロバくん他のララバイのメンバーは?」
「あ、そういやいねーな! まぁ、そのうち……来るだろ!!」
「そっか~、じゃあ、ロバくんだけ先に自己紹介したら?」
「それも、そうだな! オレは__」
ガチャ__
「よぉ、来たぜ。桜木」
気怠そうに入って来て、外国人さんの自己紹介を邪魔してきたのは背が高くて怖そうな人だった。
マジで、怖いよ? めっちゃ、背高いしガタイいいし、目つき鋭いし、筋肉モリモリマッチョマンだよ?
ゴリラだよ……。
「あ……うん、いらっしゃい白陀くん……」
「おい……」
「なんだ、お前いたのか」
「テメェ、ふざけんなよ! 自己紹介の時に来やがって!! タイミング悪いんだよ!」
「あ?知るか」
「なんだとテメェ、表出ろやゴリラ!!」
「あん!? その喧嘩買ってやろうじゃねぇかチンパンジー!!」
「あーあー、また始まちゃったよ……」
なんか、目には見えないオーラが! ゴリラVSチンパンジーならゴリラが勝ちそうだな。
なんか、ゴゴゴッって効果音まで聞こえてきたよ!?
「ゴゴゴッ……」
「って、柊くんやめて……笑っちゃうから……いや、マジで……やめ、て……ふふっ……」
「待て待て、落ち着け二人とも……喧嘩はダメだここはジャンケンで平和に決めよう」
そういって、ゴリ先輩(仮)とチン先輩(仮)の喧嘩を止めたのは横山先輩だった。
じゃんけんって……。
『わかった』
あ、いいんだそれで……いいんだね!?
『最初は~~』
「グー」
「ぱー」
「テメェ、ゴリラいい加減にしろよ!?」
「オメェこそ、なに怒ってんだ? 勝負は【最初は~~】の時から始まってんだよ」
「あー、もうやらかしましたーこの人ー、もうオレ激おこです~」
……クッッッッッソ!! しょうもねぇぇぇぇぇぇぇええ!!
え? 小学生かよ! 小学生でもしないよ!?
「しょうもな……」
ボソッとそう呟いた人はソファで横になっていた月宮先輩だった。
この人、度胸あるな。すごいよ。
「わ~、さすが蓮先輩だねぇ……度胸ある~」
あ、亜弥くんもそう思ってるんだ。てか、亜弥くん結構、楽しんでるね!?
めっちゃ、笑顔じゃん!?
「あ? しょうもねぇってどっちに言ってんだ? なぁ、月宮?」
「……」
あわわ……月宮先輩、ボコられるのでは!? 大丈夫なのコレ?
チン先輩なんて、無言で睨んでるよ!? こわッ!
「両方、くだらねぇよ……うるせぇし……静かにしてくんね? それとも、低能ゴリラくんと、バカなチンパンジーくんは静かにすることも出来ねぇのか? なぁ?」
うわぁ! え? 大丈夫なのコレ!? めっちゃ、空気悪いしなんかピリピリ……? いや……寒くて手がヒリヒリしてきた……。
ん? ここ室内だし、窓開いてないのに寒いのなんで……? 空気がヒンヤリしてる……。
「はぁ、悪かったって……うるさくしてゴメンな蓮」
「チッ……、からかって遊び過ぎたか……。騒いで悪かった」
え? すごい……。誰の言うことも聞かなさそうな二人に……。桜木先輩の言う通り頼れる人なのかなぁ……?
そういえば、今更だけど勢いで心の中で思ってること言ってないよね? 失礼なことしか言ってないよ……。
バレたらボコられるやつだよ……。
「ちょく、ちょく言ってたのだよ……」
木代先輩にツッコまれてしまうほど、心の声が漏れてたのか……。
ヤバい! 消される! 跡形もなく消されてしまう!!
「え!?」
「まぁ、喧嘩に夢中だったし、聞こえてないと……思うよ? まぁ、聞こえていても一年生相手をボコボコにすることはないと……思うな?」
僕の怯えた表情を見て、萩瀬先輩が安心させるように小声でそう言ってくれた。
はぁ……良かった……。消されなかった。うん、でもまだ、怖いや。