【おまけ】神崎くんのクリスマス
『ゆりあらす』のクリスマスパーティーに誘われていたのに、仕事で行くことが出来ない。
「あと、よろしく頼む!」とだけ言って、署まで迎えに来た奥さんと一緒に出かけていった濱田の背中を恨めしげに見ながら、神崎は深い溜息をついた。
早川は、交通課の女の子と都心に出かけると言っていた。六本木のイルミネーションが評判だから、絶対に見に行くと張り切っていたようだ。
女同士で? とも思ったが、寂しく車の中で張り込みをしている身には羨ましい。
深夜になって交代し、神崎は待機寮に戻った。
明日はクリスマスだが、未解決の事件のために朝から忙しくなりそうだ。
どうして年末になると殺人事件が増えるのか?
そのうえ、年内解決をスローガンに掲げて張り切る輩がいるのだろうか?
部屋に戻ると、たちまち瞼が重くなった。
シャワーは明日の朝に浴びることにして部屋着に着替え、布団に潜り込む。
と、その時ドアの外に誰かの気配がした。時計を見ると午前二時半だ。
一部屋ずつが外廊下に面した作りになっているこの寮は、一見、普通のワンルームマンションのように見える。
しかしエントランスには二十四時間体制で警備の者がいて、外部の者は中に入れないはずだった。
神崎は用心深く起きあがると、ドアの外の物音に耳を澄ませた。
がさがさと、何かが擦れ合う音がする。
「誰だ!」
ドアを勢いよく開けると、そこにいたのは……。
「……あんた、何やってるんですか?」
長兄の瑛一だった。
「近くに来る用があったから、これを持ってきた」
「いったい、どうやってこの時間に入れたんだ?」
瑛一の差しだした紙の手提げを受け取り、呆れたように神崎が呟く。
「おまえの身内だと言ったら、事もなかったが」
そう言えば今夜の当番は、瑛一を良く知る神崎の後輩だ。
それにしてもいい加減な警備体制は、後できつく注意しておかなくてはなるまい。
「で、わざわざ何を持ってきたんだ?」
「海外出張の土産だ。こないだの合コンの礼もかねてな」
厭な、予感がした。
「中身は何だよ?」
「『ハリー・ポッター』着せ替えセット、『ハーマイオニー・バージョン』」
「……兄さん」
神崎はもう、何も言う気になれなかった。
【終わり】