〔4〕
バスを降り『ゆりあらす』までの松林を抜ける間に、風に乗ってふわりと舞い降りた小さな白い花びらが、遼のコートの襟元に消えた。
「風花だ。まさか本当に雪が降るとは思わなかったな、この地方で」
アキラが驚いて空を見る。
「俺の親父は転勤族で、小学生の時、福島にいたことがあるんだ。冬はえらく寒いところでねぇ……雪が降ると言うより、氷の結晶が風で巻き上げられているようだった。俺は雲一つない晴れた日の、ぴん、と張りつめた冬空が大好きでね。息をするだけで、肺が痛くなるような冷たい空気を胸一杯吸い込んで、元気に外を駆け回ってた」
「小学生の、アキラ先輩ですか?」
「結構、可愛い子供だったんだぜ?」
遼の言いたいことが解ったのか、アキラは少し不愉快そうな顔をする。
「おまえこそ、どんな小学生だったんだ?」
「僕ですか? 僕は……」
少し寂しく、遼は微笑んだ。
「あまり友達のいない、暗い小学生でしたよ。彼がいなければ、今よりもっと暗い性格になっていたかも知れないな」
「ははあ、篠宮か」
ふっ、と、アキラの眼差しが優しくなった。
「あいつ、いつ頃帰ってくるんだ?」
「時間までに帰ると言ってたから、五時くらいに戻ると思いますよ」
「そうか、雪はたいして降らないと思うけど冷え込んできそうだ。まあ、あいつにはあまり関係なさそうだけどね」
同感です、と言って遼が笑った。