〔3〕
父の釣り仲間の常連客。母の、かつてのツーリング仲間。加えて叢雲学園の友人達。
今年のクリスマスは賑やかになりそうだと、テーブルにグラスを並べて数をかぞえながら、杏子は嬉しくて仕方がなかった。
「張り切ってるわね、杏子」
笑いながら、からかう母も今日は、とても楽しそうだ。辛い事件からようやく立ち直り、笑顔で客を迎えられるようになったのは最近になってからだ。
「リビングは大人で十五人。食堂があたし達で八人。グラスと取り皿、それからお箸。料理は、まだ運ばなくても良いの?」
「そうね……まだ三時をすぎたばかりだし。五時に、みんなが揃ってから温かい物を出しましょう。ケーキの準備は?」
「出来ました! 小枝子さん、見てくれますか?」
キッチンからの返事に杏子が母と覗きに行くと、三段重ねのスポンジケーキにイチゴが沢山乗った大きなクリスマスケーキが完成していた。
「さすが、琴美。あたしじゃこうはいかないよー」
「あはは! 以外と杏子は不器用だからね。でも美加が手伝ってくれたからだよ」
杏子の親友、村上琴美の横で牧原美加が、はにかんだ。
「優樹先輩が、喜んでくれるといいな……」
「あいつ甘党だから、きっと沢山食べると思うよ?」
杏子の言葉に、美加は嬉しそうな顔になる。
「ところで不器用な杏子ちゃんは、例の物できたの?」
いたずらっぽく笑う琴美に、杏子は顔を赤らめた。
「うん、まあね。さすがに昨夜は、徹夜しちゃったけど」
ちらっ、と、目をやった先の椅子の上には二つの紙袋が置いてある。
「うん? 二つあるじゃない。一つは、あたしの分かしら?」
「違うよぉ。琴美にあたしの作った物なんか、笑われるに決まってるもん。琴美の分は後であげるから」
「ふうん、じゃあお父さんかな?」
「……優樹の分」
知ってるよ、と言う顔で琴美が笑った。
「あーあ、あたしも杏子の手作りプレゼントが欲しいなぁ。妬けちゃうんだから!」
「馬鹿、あいつの分はついでだよ!」
ちらりと美加に目を向け、杏子は慌てて答えたが琴美は疑いの眼差しを向けている。
「ああ、もう、ケーキのお皿とフォークを忘れてた!」
思いついたように声をあげ、杏子はキッチンから逃げ出した。