勘違いの行方ーーー七瀬の場合
七瀬ちゃん視点入れたら話が変わった気がする。
「片山先輩、おめでとうございます」
「ありがとう。七瀬ちゃんにお祝いしてもらえて嬉しいな」
ーーー本当かなぁ……。
片山先輩は美人だ。社員旅行のときに同室だったので、スッピンも見ているが、肌が綺麗な人である。
よく、白い肌は七難隠すとか言うけど、そんな感じ。メイクも上手いし、別人になるほど濃いわけでもない。
ーーーまぁ、一番は、ねぇ。言葉が上手いってことだよねぇ。
「綺麗。お花なんてびっくりしちゃった。嬉しい」
「いえ、お世話になったっす」
ふんわり笑う片山先輩を見ていると、自分がひねくれた考えを持っているかのように思えてくる。
ーーーだってこの人は、結婚したい相手社内No.1だ。
いつも優しくて、嫌な顔はしないで、細かいところにも気がついて。仕事もそつなくこなし、ミスがほとんどない。美人で、笑うと可愛らしくなる。女子の良いとこ取りを叶えたような人。
ーーーだけど。
相手が望んでいるような言葉を、いいタイミングで吐きすぎる。
それがときどき、嘘くさい。
営業部は男所帯だが、数年前から女性社員の起用も始まっており、私、七瀬蜜葉はその第2陣だった。新卒で入社後、研修を経て営業部に配属になり、早3年。
当初は女性の先輩がかろうじてひとりいたが、仕事を覚えている間に退職しており、昨年入ってきた新人も長くは続かなかった。
そんなこんなで、現在営業部所属の女性社員は、私だけ。
片山先輩の所属する物流管理部と、営業部との絡みは多い。お客様に品物を届ける手配を、主にしてもらっている。それ以外でも、運送関係の業務は物流管理部を通した方が正確で安心だ。
物流管理部には女性社員が数人いて、必ず誰かが営業部を担当する。男同士ではぶつかる可能性もあるのだろうな、というのが暗黙の了解だ。昔は社内婚も多かったというそこそこ歴史の長いウチの会社は、男尊女卑の感覚をうっすらと残していて、結婚すれば寿退社する人が多い。
強者の先人のお陰で、産休育休の実績はあるが、なんとなく居づらくなるのだ。
直近の先輩である倉本先輩は、片山先輩と同期で、よく話しているのを見た。デレッとした、しまりのない顔で、見ていてかなり不快だった。
「七瀬ちゃん」
「え……?あ、すんません」
「わざわざありがとうね。昨日頼まれてた新製品のサンプル、今日のお昼には届くから、ちょっと待っててね」
ーーー相変わらず仕事が早い。
しっかりしている人なのだ。人当たりのいい空気に隠れてしまうこともあるけれど、営業部全員の依頼内容の把握と、スケジュール管理をミスなく正確に行うのは、とても大変だと思う。
ーーーだからきっと、私が片山先輩に感じる感情は、嫉妬なのだ。
男所帯で上手く世渡りするために、体育会系の女っぽさのないキャラを選んだ。本当は可愛いものも好きだし、格好いいなと思う人もいる。
ーーーだけど、面倒事とは極力無縁でいたい。
「あ、そーいえばなんすけど」
「うん?」
ーーー最後だし、ちょっと聞いてみたかったし。
「片山先輩って、倉本先輩と同期なんすよね?」
「そうだよ」
「どうして、倉本先輩だけ下の名前で呼んでるんすか?」
営業部では、片山先輩が倉本先輩を下の名前で呼ぶから、付き合っているのではないかという噂もあった。
誰に頼んでもいいようなことは、同期だから倉本先輩に言う、というのはわかる。言いやすい、頼みやすい。私だって、同期がいればそうする。
「……ああ」
それは片山先輩には似合わないくらい、感情のこもっていない声。すっと、普段の笑顔が消えて、再度作られたのは、多少の嘲りを含んでいるようにも見えた。
ごくり、と喉がなった。
「……物流管理部だと、“倉本さん”ってお付き合いのある業者の担当さんなんだ。だから、私以外でも、“伊月くん”って呼んでる人は結構いて、営業部担当だったのが私だから、よく聞いただけじゃないかな」
「え?」
「私も“倉本くん”って呼ぶことあるよ」
ーーーああ、迷惑だったんだ。
片山先輩は人当たりがいい。人に嫌われない。人に好かれる。
ーーーだけど、それは処世術。
たぶん、だけど。
倉本先輩のように勘違いする人も多くいて、それを適度にあしらって、片山先輩は上手くやっているのだろう。
それにたどり着くと、片山先輩が少し近づいたような気がした。
「片山先輩」
「なぁに?」
「ご結婚、おめでとうございます」
改めてそう言うと、片山先輩は目をぱちくりさせ、それからゆっくり微笑んで。
「ありがとう。七瀬ちゃんにお祝いしてもらえて、嬉しいよ」
そう、言った。
七瀬ちゃんは数年で転職しそう。
藍子視点書くか悩みます……
矢坂さん視点もいいかも。
とりあえず完結にします。




