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ノブナガ奇伝  作者: 天野眞亜
雌伏編(天文13年~)
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2. 緩募、知性ある舎弟

 人生五十年、引くことの一年。

 つまり俺の命は残すところ、約40年で終わる。 またかよ!

 ああ、前の人生もそのくらいだった。違うのは生涯独身だったことくらいか。モテない人生上等とか笑っていたら、あっさり病気で死んだ。苦しんだかどうかは覚えていない。

 そんなことはどうでもいい。終わった人生だ。

 世界情勢的には色々あったが、現代日本で比較的平和な生活を送ることができた。少なくとも殺人は重罪だ。それを誘導、あるいは指示することも立派な犯罪だ。骨の髄まで平和ボケしていた俺が、戦国時代をまともに生き抜けるわけないだろ。

 されど俺、ノブナガ。アイアム信長。

 明智とかいう重臣に謀反起こされて、炎上する寺で壮絶死。遺体が見つからなかったのは爆散したからだとか言われているが、それで死ぬのは俺だ。なんでだよ。

 綺麗な嫁さんもらったからか?

 薄幸の美女が実妹だからか?

 その妹婿を家ごと滅ぼして、比叡山の僧兵もろとも焼き討ちして、一揆起こした百姓も皆殺しして、三段鉄砲で武田騎馬隊フルボッコしたからか?

 なんでだよ、なんで俺なんだ。

 有名人の有名なネタなら、いくつか知っている。

 だが年号もさっぱりで、どうやって勝ったかも知らない。戦術・兵法なにそれ食えるの。内政なんて、もっと分からん。織田家終わった。前の人生を思い出す前の俺なら、たぶん違った。

 どうしようもないダメ人間なんだよ、俺は。

 初心者でも遊べる戦略ゲームでボロ負けできる天才という名の屑。そんなクソみたいな人間が、どうして信長なんかに転生しているんだよ。それとも何か、ただの成り代わりか。

 どっちでも最悪だ!

「ん? 珍しく大人しいな、犬。腹でも減ったか」

「吉法師様が修羅……い、いえ、何でもないっす」

 ぶるぶると首を振る犬、もとい犬千代。

 なんだか青ざめているんだが、体の調子でも悪いんだろうか。さっきまで元気良かったのに急変するなんて、まったく犬千代らしい。

 やれやれと溜息吐きつつ、体を起こす。

「おい、帰るぞ」

「え?」

「……熱は、ないようだな。悪寒による震えかと思ったが」

「オレ大丈夫っすよ! 馬鹿は風邪ひかないって、吉法師さま言ってたじゃないっすか」

「阿呆。馬鹿でもひく風邪は厄介なんだよ」

「へー!」

 犬千代の賢さが1あがった。

 やったな、今日だけで4ポイントも上昇したぞ。

 ついでに興奮してか、顔色がだんだん良くなっている。一時的なものだとしても、血色が悪いままよりはいい。見た目的な意味で。

「そういや、他の奴らはどうした? 今日は顔を見てないよな」

「そういやそうっすね。見てないです」

「真似するな」

「いてっ」

 真似じゃないっすよー、と情けない顔で犬千代が追いかけてくる。

 やはり体調が悪いようだ。勝手についてきたとはいえ、それを容認したのは俺だ。連れ回して悪かったという気持ちがわき上がってくる。気軽に使える人間が犬千代しかいないのが問題だ。

 うむ、手駒が欲しいな。

 戦略ゲームで勝つ秘訣は、様々な要素を上手く使うことだと誰かが言っていた。なるほど、よくわからん。家督を継げば家臣もついてくるだろうが、あの様子じゃ不安しか残らない。

 どこかに有能な人材、転がってないか。

 そういや猿こと、豊臣秀吉はいつ仲間になるんだ?

 草鞋を温めておきましたー、っていうハートフルなイベントはまだ見ていない気がする。農民から大出世したんだから、その辺で泥まみれになっていないだろうか。

「おい、犬」

「若様ー!!」

「げっ、万千代…………と松千代」

 それぞれ後の丹羽長秀、佐々成政である。

 俺たちは元服を目前に控えているので、もうすぐ幼名で呼び合うこともなくなる。ようやく馴染んだばかりで使えなくなるのはちょっと残念だ。ちなみに氏と年頃で推測しただけであって、本当に彼らが長秀・成政になるかは分からない。

 こまけーことはいいんだよ、うん。

 犬を含めた取り巻きの青年団が、将来の織田家家臣になるのは間違いない。戦略も内政もダメな俺の代わりに頑張ってくれる大事な仲間だ。

 武芸はどうなんだろうな。

 一応は肉もついているし、言われたとおりに鍛錬も続けている。指南役にはいつもボコボコにされるため、強くないのは確かだ。本当にどうしようもないな、俺。

「おい、犬。吉法師様は一体、どうなさったんだ?」

「なんか具合が悪いみたいで」

「なんだと!?」

「そりゃお前だろ」

「いてっ」

「若様、これを」

「おう悪いな! って羽織るわけねーだろ。ブカブカじゃねーかっ」

「ないよりはいいでしょう! お倒れになる前に、屋敷へ戻らねば大変なことになりますぞ」

 万千代は体格がいい上に、口煩い。

 一つ年上だからって、兄貴風を吹かしているつもりか。すると犬千代が上着を脱いで差し出してきた。なんと松千代まで同じことをしている。

「「おれの」」

 ハモった。そして睨み合う。

「真似するんじゃねえぞ。犬っころが」

「そっちこそ聞いてなかったのかよ、若様はブカブカがお嫌いなんだよっ」

「ああ? 大は小を兼ねるって言葉を知らねえのか」

「大小ってのは刀のことだろ? 図星だからって、話逸らすんじゃねえ」

「この駄犬!」

「んだと、松ぼっくり!」

 という感じに、取っ組み合いの喧嘩が始まるところまで予想済みだ。

 犬千代は派手な上着一枚だったため、上半身裸になっている。見事な肉体美は、俺に対するアテツケか。そうだ、そうに違いない。鍛えているのに、あんまり筋肉が増えないのだ。

 武士の子だぞ、織田信長。

 尾張の大うつけは、もやしっ子とか聞いていない。顔の造りも地味だし、覇王だか魔王だかの風格が感じられない。本当に俺、織田信長なのか? 弟の方じゃないのか?

「吉法師様?」

 あ、大丈夫だった。俺、ノブナガ。アイアム信長。

 そうだ、絶望するのはまだ早い。今がまさに成長期。希望はある!

「なんでもない。戻るぞ」

「はっ」

「わざわざ呼びに来させて悪かったな」

「!!」

「どうした、万千代?」

 こいつまでプルプル震えている。

 犬千代と違うのは真っ赤になっている部分だ。涙目になって熱がありそうで心配になってきたが、野郎に触って熱をはかる趣味はない。

「体を大事にしろよ」

「わっ、若様! それがしは一生、吉法師様についていきまするっ」

「知ってる」

「うおおおおんっ」

 ダメだ、鬱陶しい。置いていこう。

 今の今まで喧嘩していた二人も何故か男泣きに泣いている。訳が分からない。前の人生も今も男のはずなんだが、こいつらの感性が理解できない。

 大丈夫か、俺の未来。

 遠雷に顔を向ければ、いつの間にか空の端から不穏な雲が広がりつつある。それが良くない暗示に見えて、小心者のハートがきゅっと縮んだ。


二人を見送った犬松コンビの会話は少し長くなったので、活動報告に放り込んでおきます。しばらく毎日更新いたしますので、更新した報告はしません。


閲覧ありがとうございます。


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