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ノブナガ奇伝  作者: 天野眞亜
天下布武編(永禄8年~)
162/284

135. 抗えない歴史

久しぶりの日常会話にして説明のターン

 みんなー俺だー聞いてくれえ。

 美濃国って、実は未開の地だったんだぜ? さすがに言いすぎかもしれないが、銭を使った取引がないっていうだけで経済自由化に歯止めがかかる。確かに俺、これからはやりすぎないようにしようって思った。

 尾張国が(他国と比べて)豊かになりすぎたせいで、移民が止まらない。

 人口の上昇は治安の悪化と仲良しコンビだ。グラフで表すなら右上がりイエー! というわけで、せっかく要請した常備兵を警邏巡回へ出すことになった。この時代に警察官はいらっしゃいませんかー、法学部卒業資格をお持ちの方はいらっしゃいませんかー!?

 俺、泣いていいか。

 美濃攻略で行った試験制度を拡大し、通年受け入れ態勢を整えた。

 農民は頼まれても戦には出さない。どうしても戦いたい血の気の余った奴らには、耕地開拓民として短期任務を与える。死ぬ可能性が格段に低い上に、頑張った分だけ給料もらえるんだから文句はないだろ。乱世が続くと、どうしても戦闘狂が生まれやすい。

 ちなみに、元公方はその筆頭である。

 ソワソワ落ち着かないので信広に預けた。長兄としての自覚が芽生えてきたのか、奴は織田一門衆に精鋭部隊を配分すべく人員育成に余念がない。そこに混ぜてきたので、心身共に少しはマシになって戻ってくるだろう。

 九州の戦闘マッスィーンほどじゃあないが、織田軍も実力主義だ。

 相撲大会は浪人や志願兵のふるい落としにも役立った。

 大きな金が動くので一年に二回開催することにした。これがちょっとしたお祭り騒ぎになる。この機会に知名度を上げようと、美味い物を用意した屋台も多く並ぶからだ。俺? どっちにも参加するわけないだろ。相撲に出れば確実に負けるし、屋台を出せば変な名前がついて出回るようになるんだぞ。料理の発明なんか、もうしない! 植物研究は止めないが。

 食欲の秋に合わせ、先に夏大会がある。

 美濃平定の祝いも兼ねて「第一回織田杯相撲大会in美濃」が先日開催された。

「予選会込みの相撲大会で、結構儲けたな」

「ですね。小銭を持たない人も賭け札の採用で、少しずつ配ることができました。あとは鉱山の確保ができれば、銭の量産も可能になるのですが」

「鉱山、なあ」

 見渡す限りの山、山、山……。

 このどれかが宝の山だったとして、この時代の技術力で見つけ出すのは至難の業だ。それに何よりも鉱山病が怖い。こうなってくると知識ニートが羨ましくなる。現金な俺、ノブナガ。

「ないものは仕方ない。賭け札以外にも何か考えろ」

「ええ!? ……はい、分かりました」

 小一郎がトボトボ去っていく。

 すっかり貞勝の秘書官らしくなった背中は、なんだかちょっと煤けている。いつか可愛い嫁さんが来てくれるといいな!

 というわけで俺は閃いた。

 そう、第二次合同結婚式である! 信包の連れてきた娘が訳アリで、適齢期を迎えている下の弟と混ぜれば分からんだろうという狙いもあった。詳しく聞くなと言われたが、一益情報によると伊勢国人衆の娘らしい。ん~、どこかで聞いた話だなあ。

 どさくさ紛れに信行にも嫁をと思ったのに、丁重に断られた。

 嫁を迎えた途端に、門徒の方々が離れていったら困るというのだ。あれか、往年の男性アイドルみたいなものか。織田家の三男がお布施で生活しているって、実際どうなんだ。

 信行には今後も織田家を支えてほしかったんだが、頑なに断られ続けている。

 そしてもう一人。

「半兵衛が隠遁した? あ、そう」

「あれ、驚かないんだね」

 意外そうな信純を、ちらりと見やる。

 戦術戦略を語り合える関係として、半兵衛は貴重な存在だっただろう。それ以上に、半兵衛はどうしても俺に天下を獲ってもらいたいらしい。事あるごとに「天下、天下」というものだから、若干鬱陶しかったのも否定しない。

「今孔明らしく伏龍気取っていればいいだろ。俺には又六郎がいるし、手が足りなくなったら連れ戻せばいい。大方、猿か奇妙丸辺りが説得しに行ってんじゃねえのか」

「ご明察の通りだよ」

 半兵衛が引きこもったのは菩提山城という。

 斎藤家時代からの城主なので、そのまま引き継いでもらった。菩提山城は岐阜城にも近い。今までの例をとって、岐阜城下にも続々と武家屋敷が増えていくだろう。

 今年は新緑の頃に美濃平定、将軍誘拐、夏に相撲大会とイベント続きだ。

「あっという間に時間が経つなあ」

「うん。それで三郎殿は、竹中殿に何をやらせているの?」

「……も、もうすぐ稲刈りシーズンだ。美濃の農地改革はそれが終わってからだな!」

「言いたくないなら別にいいけど」

「美濃全体の巡回を頼んだんだよ。斎藤家から織田家の所有になったことを周知させなきゃいけないだろ。浅井との約束もあるし」

「ああ、成程ね」

 尾張式農業はまだまだ認知度が低い。

 三河国でも同じやり方が通用しない地域もあるようで、家康が相談しに来ていた。いつもの戦国最強じゃない方が来ていたが、本多正信という名前になんだか引っかかる。抜け目ない男だというのは確かだ。素直な家康にはちょうどいい。

「父上、大変です! 又十郎叔父さんが、マグロ漁をしに九鬼水軍を借りたいって」

「却下」

「あ、はい。分かりました。そう伝えます」

「この暑い時期だし、海に行きたい気持ちは分かるが元服を控えている身だ。我慢しろ」

「ううっ」

 長利がマグロに興味津々なのはともかく、奇妙丸の行動力は誰譲りか。

「だから言ったじゃないですか、若様」

「何事も挑戦だ。次こそは父上を説得してみせる!」

「聞こえてるぞー」

「わあっ」

 甚九郎と一緒に逃げていく息子を見送り、溜息を吐く。

 説得の方向が完全に間違っていると思うのだが、色々なものに興味を示すのはいいことだ。できるなら海に山に川に、と好きなだけ連れていってやりたい。遊ぶのが大好きな茶筅丸たちも大喜びするだろう。手習いのためにじっとしているのが辛くて、よく逃げ出していると聞く。

 傳役に宗吉をつけたのは失敗だったかな?

 右門左門にそれぞれ吉田城・上条城の管理を任せ、宗吉を小牧山城へ召喚したのは別の理由があった。堂洞の戦い序盤で活躍した抱え筒の改良だ。

 大砲と違って、抱え筒はどうしても持ち手を選ぶ。

 小柄で鍛えていない者は反動で吹っ飛んでしまうか、支えきれずに火傷を負う。興味半分で扱うものではないが、命知らずの怪力自慢が使いたがる。抱え筒の教官として城に詰めていた時、茶筅丸がえらく懐いているのを見かけた。それ以来、三七も含めて面倒を見てもらっている。

 個別に人を宛がうよりは、まとめた方がいいこともあるんだよな。

 そういう意味で、奇妙丸が一足先に元服するのはいいことか、悪いことか。

「そんなに大きい溜息を吐いたら、幸せが逃げていくよ?」

「よく知っているな、又六郎」

「ん? 三郎殿の受け売り」

「言ったことあるか?」

「昔にね」

 覚えがない俺が首を傾げ、信純がくすくす笑う。

 岐阜城でこんな日常的会話ができるようになったのも、なんだか感慨深い。さて、家族が住んでいる小牧山城をどうするか。今は単身赴任みたいな感じで――。

「おい、待て」

「どうしたの?」

「なんで奇妙丸が岐阜城に来ているんだ」

「えっ、今頃? 相撲大会の時からいるよ。帰蝶姫様からの許可は得ているって言っていたけど」

「俺は聞いてねえ!!」

 思わず叫んでから、ふと思い出したことがあって座り直す。

 奇妙丸は帰蝶との間に生まれた最初の子供だ。つまりは舅殿の孫、斎藤家の血を引く者ということになる。つまりは元服した奇妙丸に岐阜城を任せるというのも、一つの選択になる。斎藤家当主の龍興の逃亡先は伊勢長島だから、戻ってくることはないだろう。

 長益が上手くやっていればいいんだが。

「ああ、そうそう。お清ちゃんも長島に向かったって」

「それも聞いてねえぞ!?」

「さすがに可哀想でしょ。待ち続けて婚期逃したら」

「うっ。それは、そうだが」

 お清は、平手家の娘だ。爺の分まで幸せになってほしいと思っている。

 長男の監物久秀は、長康に振り回されて東奔西走しているらしい。元気にしているなら何でもいいか。お清も自分で選んだことなら後悔はすまい。むしろ、こちらの事情で我慢させていたのが申し訳ないくらいだ。

「それでお市様が」

「あ?」

「浅井に嫁ぐってさー、言ってるんだけどさー」

「あーあーあーあーあーキコエナーイ!!」

「身内贔屓も大概にしないと、嫌われちゃうよ。お市様に」

「お市はそんな子じゃないし!」

「はい、はい」

 ゆっくり区切る発音が、駄々をこねる俺を宥める。

 恥ずかしいやら悔しいやらで複雑怪奇な気持ちを持て余し、新しい陳情に目を移した。

「殿、申し上げたき儀がございます」

「藤八郎か。かまわん、話せ」

「はっ。京より、細川兵部大輔様の関係者がいらっしゃいました。覚慶様と明智十兵衛様ということですが、いかがいたしましょう」

 俺と信純は顔を見合わせた。

 覚慶といえば、細川様が「匿ってくれ」と言っていた御仁だ。法号のままだから、まだ還俗していない。対外的にはその方がいいのかもしれないが、次期将軍候補としてはどうなのだろう。

 俺個人としては、明智サンの方が気になる。

 光秀じゃない方がいいなあ。同姓か、一族の者であって別人枠がいいなあ。

「意外に早かったね。それだけ逼迫した状況ってことかな」

「かもな。……謁見の間にお通ししろ。すぐに向かう」

「承知しました」

 書きかけの紙を小姓に片付けさせることにして、俺たちはどちらともなく立ち上がった。

賭け札...作中においては、相撲大会の結果を予想する公営ギャンブルに参加するための必要な賭け金を払えない人たちのために、考案された当選予想くじのこと。試合ごとに報酬が決まっていて、当選くじの数だけ報酬と交換できる。賭け札には種類があり、交換できる日用品や食品に応じた枚数をもらえる。

例)織物一反→賭け札一枚→第一予選決勝の予想的中で十文


ほとんどが会場に出ている屋台に還元されるが、銭を使うことに慣れてもらうのが目的

札は木製(資材クズ)で、織田塾の子供たちが頑張って書きました。札が足りなくなったら、その場で書いて渡す仕組み。見目麗しい小姓の直筆サイン札(違)を求めて女たちが殺到、結果的に民衆から物資を買い取る形になったとか何とか。

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