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ノブナガ奇伝  作者: 天野眞亜
飛翔編(永禄2年~)
150/284

【閑話】 いとしい人よ

ちょっと長いです(今回は信純視点)

 今日は何日だろう。空模様はどうなっているのか。

 窓はおろか、戸口も見当たらない空間の中で、信純はそっと息を吐いた。ちょっとでも妙な動きをしたら、すぐさま刃が突きつけられる。そんな状況ではゆっくり体も休められない。

 ある程度の予想はしていた。その予想を大きく上回っていただけのこと。

「あーあ、退屈」

 呟いた途端にギラリと光るものが飛び込んできて、信純は笑った。

 薄暗がりに異質なものを見るような目に、己のそれを合わせる。

 幼い頃から謀略に長け、難解な書物もすらすら読める子供は武術がてんでダメだった。蔵にこもって物品を調べ尽したり、書物を読み漁っていたから肌は白い。好き嫌いが多くて食が細いため、背丈も伸びないまま止まってしまった。

 そんな信純に、周囲も大して期待はしなかった。

 兄・寛維とおふさが家督を継いで早々に戦死しなければ、信純が織田藤左衛門家を継ぐこともなかっただろう。期待していた長男に先立たれ、父も疲れていたのかもしれない。再び小田井城主の座についたものの、信純に当主の責務ごと譲って隠遁してしまった。

 その頃、信純は織田弾正忠家の居城である末森城にいた。

 末姫の遊び相手として招かれていたのだ。片手で余る愛妾の一人が生んだ子供であったが、前当主・信定のぶさだは娘の顔を見る前に亡くなっていた。信秀が家督を継いだのは、信純が生まれた年でもある。信秀は年の離れすぎた末妹をもてあまし、藤左衛門家に預けたような形になっていた。

 信秀は野心ある男だった。

 主家である大和守家はもちろんのこと、北は斎藤家、東は今川家とも対等に渡り合う。更には幕府関係者や貴族に誼を通じるなどの功績から、器用の仁とも呼ばれた。しかし度重なる戦の中で、多くの将兵が死んでいったのも事実だ。寛維もそんな戦の一つに出陣していって帰らぬ人となったが、信純の心にはあまり残らなかった。

 そんなことよりも、忘れられた幼い姫の世話をする方が重要だった。

 とにかく我儘な姫で、何かと信純を困らせる。

 乳母も侍女たちも完全にやる気をなくし、ほとんど信純に任せきりだ。状況が変わってきたのは末姫が十も過ぎた頃からか。織田家は見目麗しい者が多く生まれたが、彼女も例外ではなかった。肉付きのよかった母に似て、早くも女らしい体つきを備えつつあった。

 多感な少女は、急すぎる体の変化を嫌がった。

 まだ固い蕾であるのに、匂い立つような色香は男たちを引きつける。

 遊び相手として招かれたはずの信純は、いつしか護衛として立場を変えていた。そんな状況下で家督を継いでも、周囲の評価は低いままだ。藤左衛門家は、弾正忠家に仕える者として認識された。

 この時代の女は、十を越えたら嫁いでいく。

 いつ信秀から声がかかるのかと、末姫は常に怯えていた。憂い顔がまた艶めいていて、彼女は「おつやの方」と呼ばれるようになった。


『ねえ、又六郎。お前だけは、わたくしの味方でいてね』


 無邪気な末姫様。

 唯一の味方と信じて疑わない相手こそ、最も警戒すべき「男」だと気付きもしない。劣情を誘う体を擦りつけ、絶対守ってくれなきゃ承知しないと甘えるのだ。伊勢物語を気取ってもよかったが、彼女の相手を決める前に信秀は死んだ。後を継いだのは、うつけと笑われる三郎信長。

 不安に震える体を抱きしめ、信純は優しい笑顔で姫のおねだりに頷いた。


『もちろんですよ、姫様。姫が望む限り、どこまででもお供いたしましょう』


 今も昔も、その誓いに偽りはない。

 お艶よりも信長を優先したこともないのだが、お艶はよく信長に対して嫉妬を露わにする。周囲に悪く言われる者同士の親近感もあってか、信長に対しても気安い感情を持っているようだ。伯母と甥というよりも、年の離れた姉弟のように口喧嘩をしてはじゃれ合う。

 それが美濃から帰蝶姫を迎えた後だったため、お艶との仲を邪推する者まで出てきた。

 年頃を迎えたお艶を城に留めているのは、信長が囲っているからだという噂までが広まった。それで縁談が遠のくのなら願ってもない。信純はあえて噂を放置していたが、お艶はぷりぷり怒っていた。心無い声に傷つき、泣いていた小さな姫はもういない。

 婿の相手は自分で選ぶと、信純を縛り上げた時には嬉しくて爆発しそうだった。

(ほんっと、三郎殿も粋なことを考えたよねえ)

 合同結婚式とやらを催したおかげで、お艶はどさくさ紛れに信純と夫婦になれた。信純は堂々と織田一門を名乗れるようになったのである。しかし信長はどういうわけか、己の評価が著しく低い。

 おそらくそれは、教育役を任されていた沢彦の仕業と睨んでいる。

 甲斐行きの前に小木村へ立ち寄った。尾張国に大きな変化が起きる時、信長が思い切った行動に移る時、いつも沢彦の影がちらついている。信長自身もかつての師を強く警戒しているため、大っぴらな行動はできないようだ。直接話してみた印象は得体の知れない僧、である。何を考えているのか全く読めない。大人しくしている、という主張は正しいようにも思える。

(でも昨今における三郎殿の評判は、……あまりにも良すぎる)

 信長を信奉する側近たちは好意的に受け止めているが、膨れ上がった期待はいつか弾けるものだ。信純はそれが恐ろしい。義元との戦いを見るに、家老職や側近以外の織田家臣はそれほど信長に対する忠誠心を抱いていない。全体を均してそこそこ、といったところだろう。

 今は急成長する織田家と、信長が忠誠の代わりに与える高待遇に甘んじているだけだ。

 信長が変質するか、織田家の地位が脅かされる時には離反者も出る。

 似たような危惧を抱いていたらしい長秀に、いつぞやは強く咎められたことがある。


『信純殿、いくら同族といえども』

『馴れ馴れしすぎる、ですか? 道化を演じたいだけなので見逃してください』

『何を』

『私はあの方以外の主君を仰ぐ気なんてないですよ。一生、ね』


 信長ほど先が見えない男はいない。

 明日は何をやらかしてくれるのか、とワクワクする。少年時代から付き合いのある側近たちが羨ましいと思ったこともあるが、信純にはお艶よりも優先すべき事柄がない。信長個人に興味を抱いても、お艶より比重が上回ることだけはない。

(それでも三郎殿だから、お艶との婚姻を認めてくれた)

 信純の態度を咎めることなく、頭でっかちの軟弱者と嘲笑うこともしない。

 謀略の点では信純の方が上だが、信長の発想と知識は底が知れない。尾張だけで収まる器ではないのは、もう多くの人間が知るところとなった。武田信玄も、その一人だ。信純の甲斐国訪問は願ってもない機会だというのに、こうして何日も閉じ込めている理由が分からない。

(いや、大体は予測がついている)

 信純が根を上げるのを待っているのだ。

 甲斐に信長を売るか、自分を売るか。信玄ほどの男なら、軍師や文武両道の武将を多く抱えているはずだ。信純の才を評価したのでなく、尾張国から有能な人材を引き抜くのが狙いだと思われる。信長は何かと、信純に相談を持ち掛けるようになったから。

 道に悩んだら帰蝶姫に、采配に困ったら信純に。

 無意識かもしれないが、信長は人を上手く使うコツを知っている。コキ使われているのに、達成感や必要とされている喜びを味わせるのが上手い。

 ガコッ、と壁の一部が外れた。

 差し込んでくる光が眩しくて、信純は目を細める。

「出ろ。お館様がお呼びだ」

「……やれやれ、待ちくたびれたよ」

「余計な口を叩くな。その利口な頭と別れたくなければな」

 首に傷がつくかつかないかの微妙な加減で、何度も刃を当てられれば理解する。

 自分はとんでもない所へ来たものだ、と。

 甲斐国は化け物の巣窟だ。忍の精度といい、家臣団の統率といい、垣間見える忠誠心といい、尾張国のあらゆるものを凌駕する。平野は少なく、山間部に森林をあちこち残した広大な領地は、一見して豊かな国とは言い難い。

 それでも甲斐の虎と呼ばれた男だ。軍神が認め、幾度となく戦を繰り返している。

 おそらく、信長にとって最大級の敵になりうる存在。

「徳栄軒信玄じゃ」

 連れてこられた部屋は、支柱が八本あるだけの広間だった。

 信玄が座っている上座の背面だけが壁で覆われ、他は屋敷を取り囲む林が良く見える。風雨をどうやって凌いでいるのか。晴れ間しか知らないような縁側は、磨き抜かれて鈍く輝く。信玄と側近、それから信純の三人しかいないから余計に広く感じるのだろう。

 壁に描かれた松の大樹が、まるで能楽の舞台にいる錯覚を与える。

「織田家臣が一人、左兵衛佐信純にございます」

 すると控えていた側近が片眉を上げた。

「又六郎ではないのか? それに家臣というよりも、一門衆であろう」

「左兵衛佐です。織田姓を名乗らせてもらっていますが、家臣団の末席にすぎません」

「まあよい。名乗らせておいて疑うのも野暮というものだわ」

 不満げな側近は手を振って黙らせ、信玄は鷹揚に笑ってみせた。

「遠路はるばるご苦労であったのう。使者殿をいきなり捕らえて監禁した無礼を詫びよう。知っての通り、ここ近年になって物騒なことが増えてきた。きな臭いことも多々あるゆえ、国境は特に警戒を強めておったのよ」

「のこのこ現れた不審人物が私だった、というわけですね」

「貴様!」

「いちいち噛みつくな、弾正。すまぬのう、使者殿。こやつは心配性でなあ。尾張のうつけが何を考えて、ぬしを寄越したのか疑っておるのよ」

「少なくとも戦のお誘いじゃないですよ」

「ハッ、信じられぬな」

「弾正」

「……ッ、申し訳ございませぬ」

 この主従に親と子ほどの年の差はあるだろう。

 剃髪しても俗世に残った信玄は、信長が羨ましがりそうなフサフサの口髭を撫でた。悠然と構え、強者の貫禄がある。不思議と威圧を感じないものの、好々爺風の笑みに隠れた鋭い観察眼に背筋が伸びた。隙を見せたら、一瞬で食い散らかされる。

 今の信純は、尾張国を背負っているのだ。

 面会が許された以上、下手を打つことはできない。

「我が主は、甲斐国との同盟を望んでいます。まあ、それが可能ならばという話ですけどね。三河はともかく、尾張国まで手を伸ばす余裕があるとは思えませんし」

「ほお? 我が国を評価しているようにも、馬鹿にしているようにも聞こえるのう」

「もちろん、高く評価しています。甲斐の虎が本気を出せば、尾張は一日も経たずに滅びるでしょう。後には何も残らない」

「媚びを売るつもりなら、もう少し言葉を選べ。過剰な冗句は耳障りだ」

「あはは、事実を述べただけです。そっちこそ、冗句に聞こえる耳は切り落とした方がいいと思いますよ。邪魔になるから」

「何だと?!」

 パチン、と扇子が鳴った。

 ただそれだけで、弾正と呼ばれた男は体を竦ませる。小さな謝罪を繰り返し、座したまま後ろへ下がった。主である信玄の不興を買い、ひどく怯えているようだ。

 信純の記憶が確かならば、同じ年頃に見える彼は春日弾正忠虎綱である。

 若くして頭角を現し、囲碁においては「信玄に二子強かるべし」という噂があるくらいだ。夜の相手も務めているらしいが、確かに整った顔立ちをしている。

(まあ、だいたい上の下くらいかなあ)

 虎綱と知恵比べをしたら、信純が勝つ自信はあった。

 一通りの観察を終え、信玄に視線を戻す。難しい顔のまま黙りこくった乱世の雄は、臣下の愚よりも気になっていることがあるようだ。ちょうど目線が合い、信純は来たかと心構えをする。

「儂が尾張を欲すれば、たちまち焦土と化すか」

「はい」

「くっくっく……尾張のうつけは、それほどの器である。そう言いたいのじゃな?」

「大器であることは断言します。未熟ではありますが、将来が楽しみな男ですよ」

「確かに10年足らずで尾張国を豊かにした実績は認めよう。いくつかの貴重な発明もしたそうじゃな。特に算盤は、文官たちをさぞ喜ばせたであろうの」

「ええ、今では不可欠の道具の一つですね」

「それらで一儲けできそうなものを、ほぼ底値で製造技術ごと売ったというではないか。やはりうつけはうつけよ、とそこの弾正が笑っておったぞ」

「おやおや、弾正忠殿の程度が知れるというものです」

「な、ななな……っ」

 信玄と信純の双方からやられて、虎綱は顔を赤くしたり青くしたりと忙しい。

「算盤はもともと存在していた道具を小型化しただけですよ。我が主の発想は道具だけに留まりませんが、……そうですねえ。捕らえられた時に全て奪われてしまったので手元にありませんが、木炭の棒と紙の束をご存知ですか? あれは我が主愛用の品で、親しい者しか持つことが許されない貴重なものなのです」

「ふざけるのも大概にしろ! そんなものの、どこが」

「弾正。部屋から出てゆきたいのなら、そう言え」

「……ぐっ」

「木炭棒は、筆記用具です。墨のように垂れる心配がなく、乾くのを待つ必要もありません。紙の束は主に覚書として使います。うちの勘定奉行は、もう少し大きなものに改良しました。木の板を足しただけですけどね、フフッ」

 ついに表情をなくした信玄が、すぐ持ってくるように命じた。

 だが誰も有用な品に思えなかったらしい。覚書は機密漏洩を疑ったために燃やし、木炭はどこぞに投げ捨てたという。信玄は思わず怒鳴り散らし、関わった者は全員竦み上がった。

 紙の束は紐で括っただけだが、木炭棒の再現は技術あってこそだ。

 急な依頼に鍛冶師が試行錯誤している間、信純は様々な話を求められた。

(適度に信玄の気を引きつつ、肝心なところはぼかすのって結構難しいな。この人の勘の良さは天性のものだ。ああ、それで軍神とも引き分けたのか)

 信玄との対話は、信純にも得るものが多い。

 しかし同盟の話はいつまでも出てこないまま、半年が過ぎようとしていた。いくらなんでも長居しすぎたと暇を申し出れば、信玄からとんでもない提案を持ち掛けられた。

「お艶の方を……!?」

「なんじゃ、ぬしは己の妻をそう呼んでおるのか。まあよい。妻の命が惜しければ、うつけ殿を連れてこい。できなければ、妻は帰らぬものと思え」

「私に、尾張国と我が主を売れというのですか? 幻滅しましたよ」

「これこれ、勘違いしてもらっては困るのう。信純よ、ぬしは何のために危険を冒して甲斐国へ参ったのか忘れたのか? 甲斐と同盟を結ぶためであろうが」

「同盟なんて、どうでもいい。妻がここにいるのなら、私もここに残る」

「ぬし程度の器なんぞ、いくらでもおるわ。儂は、うつけ殿を連れてこいと言った」

 誰かを殺したいと思ったのは初めてだった。

 信純のただならぬ気配に反応して、武田家臣たちが取り囲む。抜刀しなくても、信純の矮躯はあっという間に組み伏せられるだろう。それでも、ここで首を飛ばされても、頭だけ飛んでいって信玄を噛みちぎるくらいの気持ちが生まれていた。

 お艶と信長を天秤にかければ、お艶に傾く。

 しかしお艶は、信長を見捨てた信純を絶対に許さないだろう。それくらいなら一緒に甲斐国で骨を埋めてもいい。長生きしたいなんて思わない。お艶のいない世界に、未練などない。

 信純はまた窓も戸口もない部屋に閉じ込められた。

 すっかり定期連絡のことを忘れていたが、どうせ信玄のことだ。筆跡を真似て、代わりに出しておく程度は造作もないだろう。信長は抜けているところもあるから、本物だと信じてしまう。

「ああ、退屈だなあ」

「負け惜しみだけは、昔から変わらないのね」

「ひ、姫様!?」

 よいしょ、と壁の入り口から入ってきたのは攫われたはずの妻だった。

 慌てて駆け寄れば、素直に信純の手を借りる。ざっと見て、傷がないか確認した。体調も悪くないようだし、ほぼ素顔である以外は普段通りだ。

「何故、ここに」

「説得しろって言われたから。男のくせに、駄々こねてるんじゃないわよ」

 思わず苦笑した。

 どういう説明を受けたか知らないが、彼女が相変わらずすぎて笑うしかない。たまらなくなって抱きしめれば、お艶は体の力を抜いて預けてくる。昔から、そうだった。男が苦手になってしまっても、信純の手だけは拒まない。

「このまま、ずっと一緒にいたいなあ」

「ダメよ」

「姫様はつれない。すごく頑張ったんですよ。褒めてくれてもいいじゃないですか」

「頑張っている途中、でしょう? 何を意地張っているの。そんなくだらない考えは、さっさと捨てて、あの大うつけを連れてきなさい!」

 やっぱりか、と落胆する信純の頬に鋭い熱が走る。

「いいこと? 徳栄軒殿のためじゃない。尾張国と、あなたたちのためよ。三郎と又六郎が本気になれば、こんな山と森しかない国なんて、相手にもならないわ! そうでしょう?」

「叩かなくてもいいじゃないですか」

「帰蝶はこうやって、腑抜けた男の目を覚ますんだって言っていたの」

「あー」

 つまり、信長も叩かれたわけだ。

 帰蝶を溺愛する彼なら、ご褒美だと喜んでいそうな気もする。

(私も、三郎殿のことは言えないなあ)

 熱い頬をさすりながら、笑みが浮かんでくるのを止められない。

 自分でも意外なことであるが、信純は不安による心労で弱っていたらしい。たった一人で他国に向かうのも初めてなら、信玄ほどの強大な相手と弁舌を戦わせたことも初めてなのだ。我ながら初めて尽くしで、よく頑張った。なのに愛する妻は、まだ終わっていないと言う。

 確かにその通りなので、もう一頑張りすることにした。

 信長は事情を説明しなくても、甲斐までついてくるだろう。信玄と直接話したら、意気投合してしまうかもしれない。あるいは信玄が、信長を囲おうとするかもしれない。

 信長は尾張国だけに収まる器ではないが、誰かの下につくのも想像できない。

 あの男を守ってやるのも、信純の仕事だ。

「仕方ないなあ」

「あんまり遅いと、承知しないから」

「はいはい、姫様の望むままにいたしましょう」

「姫じゃない!」

「だって恥ずかしい」

「な、にを照れているのよ。……もうもうっ、人の気も知らないで!」

 ばちーん、と派手な音がしたので外から見張りが駆け込んでくる。

 わざわざ二人っきりにしておいて野暮なことだ。連れ出されていくお艶を笑って見送りながら、信純はめまぐるしく思考を走らせていた。

 目指すは甲斐国との同盟、しかも対等な関係で結ぶのだ。

本文中の「焦土と化す」は、信長のおかげで豊かになった尾張国は他の誰にも治められない。信長の死後はたちまち衰退し、滅びるだろうという信純の予想に拠ります。

尾張国からの正式な(?)使者である信純が土産を持参しなかったのは、どうせ捕まるだろうから意味ないなーと判断したため。意外に木炭棒(木炭ペン)に興味を示したので、土産「話」で茶を濁しました。ちなみに「覚書」と一緒にノブナガの書状も燃えました(お館様ご立腹)



高坂昌信こうさかまさのぶ... 春日弾正忠虎綱と称す。通称は弾正。

 その才を認められて、信玄の寵愛を受ける。お館様が好きすぎて、ちょっと行き過ぎることもあるらしい


武田信玄... 法号は徳栄軒信玄。通称は太郎。

 甲斐の虎の異名をとる室町時代末期の戦国大名であり、信長が最も恐れた相手らしい。ユーモアを解する面白い「おっさん」なので、ノブナガはそれなりに心を許している。味噌同好会の一人

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