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ノブナガ奇伝  作者: 天野眞亜
上洛偏(弘治3年~)
126/284

104. 結成! ノブナガ親衛隊

利家とまつを結婚させるべく色々調べていたら、母衣衆出てきたので慌てて体裁を整えるだけの能力


 今年の田植えも滞りなく終わり、ほっと息を吐く初夏の頃。

 いつになくざわついた空気のまま、清州城にて定例評議会が始まった。それというのも「重大発表がある」と、恒興の馬鹿が大々的に触れ回ったからだ。思い付きで何かやらかすという定評のあるせいで、期待と不安に満ちた視線が痛くてたまらない。

「尻がかゆい」

「掻きますか?」

「ヤメロ」

 小声で問いかけてくる橋介を一睨みで下がらせる。

 本当の本当に、こいつをさっさと小姓から外さないと身の危険を感じる。そっち方面の趣味はないと繰り返し言っても、時代の風潮として存在している以上は選択肢に含めたいらしい。能力は十分に買っているのだから、それで満足してもらいたいものだ。

 そう、今回のポイントは能力である。

「俺の親衛隊を作ろうと思っている」

「既に馬廻衆がございますが……」

「お、おれ、もっと頑張りますから! 見捨てないでくださいぃっ」

「連れていけ」

「吾輩にお任せあれ」

 ぱちん、と指を鳴らせば現れる重正。

 一益よりノリがいいので、こういう時に役立つ。何か叫ぼうとした利家を拘束し、ずるずると外へ引きずっていった。呆気に取られている家臣団には、扇子で肘置きを叩いて注目させる。

「これまでの戦いにおいて、三間槍の有用性は実証された。そこで長槍隊、鉄砲隊の精鋭をそれぞれ五百人ずつ選び出し、信長の直属部隊とする!」

 おおっ、とざわめきが大きくなる。

 側近たちや家老クラスは鉄砲隊がいるとはいえ、まだ百人前後の小規模に留まっている。五百人ずつの精鋭など選べるはずがないのだ。鉄砲の追加発注は、貞勝もかなり渋っていた。

 とにかく銃弾の消費がネックになる。

 確か、人間の大便が火薬の材料になるはずだ。鉄砲用の火薬を作るプロ集団を組織化する案はまだ出していない。鉄砲の三段撃ちは、一度の戦で消耗が激しくなる欠点もあった。この辺りを何とかしない限り、戦略の一つとして扱うわけにはいかなかった。

 俺の直属部隊として鉄砲隊を用いるのは、これ以上鉄砲隊を増やさないためでもある。

 鉄砲の取引権は俺が握っているからといって安心できない。家臣どもが金を積んで勝手に購入しないとも限らないのだ。女子供でも扱える鉄砲も、仕組みを知らなければ自爆の元である。

 三間槍もまた、扱いが難しい武器だった。

 長すぎて振り回すには向かないのだ。その代わり、槍衾の威力は絶大だ。精鋭にこだわるのは俺の直属にする意味以上に、戦における切り札に考えているからだった。

「もう一つは母衣衆である! 出てこい、犬」

「わんっ」

 ツッコミしないからな、絶対に。

 密かに拳を固める俺をよそに、評議会中の広間にある襖という襖が一斉に開かれた。庭師が心血注いだ作品を一望できるため、めでたい時の宴会場にも使われる。

 その中庭にて具足を付けた利家が騎馬となって姿を見せた。

 パラシュートのような大きい布を背負い、渾身のドヤ顔である。

「おお、なんと色鮮やかな紅の母衣であるか」

「せっかくだから五色の母衣衆にしたかったんだが、色が間に合わなくてな。とりあえず赤母衣衆、黒母衣衆を数名ずつ選抜する。内蔵助」

「ありがたき幸せ!!」

「まだ何も言ってねえっつの。……黒母衣衆筆頭を任せる。励めよ」

「ははあっ」

 残る黒母衣衆として毛利新助、蜂屋頼隆を名指しする。

 小姓として付き従ってくれた二人の忠義に報いたつもりだ。深々と頭を垂れた彼らの表情は分からない。勝介が祝福するかのように、頼隆の肩を叩いていた。

「秀隆には内蔵助の補佐を頼む。本来はお前に筆頭を任せるべきなんだが」

「余計な気遣いは無用にござる。内蔵助めの補佐、見事務めてみせましょうぞ」

 その頼もしい言葉に、成政が「うえっ」と顔をしかめた。

 河尻秀隆かわじりひでたかは親父殿の代から従ってくれている古参の将だ。どっしり構えて急がず慌てずの慎重派は、熱くなりやすい成政の手綱を握っていてくれるだろう。

「続いて赤母衣衆は」

「ハイハイハイ! 俺が筆頭っすよね!! 信長様、信じてますっ」

「……内匠助たくみのすけ、右近、それから福平左ふくへいざ

「ありがたく!」

「承知っ」

「わ、私は嫌ですっ」

「てめえ、俺のとこに入るのが嫌だってのか!?」

「お前なんぞと一緒にしないでもらいたい。私は生涯小姓として、信長様のお傍にいたいのだ。お前とは違うっ」

 ずるっと肘置きから滑りかけた。

 猪子一時いのこかずとき福富貞次ふくずみさだつぐはすぐ返事をしたのに、橋介だけが悲壮な顔で首を振る。俺の決定に異を唱えるとはいい度胸だ。他の家臣団も非難めいた視線を向けているが、当の本人は嫌だ嫌だと首を振っている。

長近ながちかも赤母衣衆に加える。頼んだぞ」

「お任せあれ。我儘な小僧一匹、わしが躾けてくれましょうぞ」

 頭痛に眩暈も併発して、かなりツライ。

 金森長近の笑顔に少しだけ和らいだ気がしたものの、俺の気遣いを理解しない橋介をどうしてくれようか。折檻はご褒美になりそうだし、赤母衣衆に入れたついでに距離を取るのも考えておこう。未だ喧嘩している利家と橋介は、またまた重正が連行していった。

 母衣衆のお披露目と指名はひとまず終了である。

 馬廻衆の別ネームみたいなものだから、母衣衆も少数に抑える予定だ。赤と黒の母衣が戦場を駆ければ、さぞ目を引くことだろう。敵に狙われやすくなるので危険手当も足しておく。是非とも奮戦し、功を立ててもらいたい。

 俺の期待に応えてくれよ、と心の中で呟く。

「さて、次は皆にも関わりのある案件だ。戦時、平時ともに明確な組織化を考えている」

「と仰いますと?」

「十人組を作る。最小の単位が十人、それを十つずつで小隊。十の小隊で中隊、十の中隊で大隊。それぞれ第一、第二、第三……という風に数字を振り分ける。各隊長には必ず副隊長を二人つけること。隊長に何かあった場合、即座に隊長と同格の権限が副隊長に与えられる。委譲の許可は不要だが、状況報告は必須とする。何か質問は?」

「大隊以上はどうなるのですか」

「軍団と称する。無論、必ず十ずつ組まなければならないということはない。己の軍団をどう組むかは軍団長に任せる。これほど細かく分けるのは、少人数で動くことも想定内に入れているためだ。そして間諜が紛れ込むのを防ぐ役割もある」

「な、なるほど」

「人を介するほど伝言は変化しやすいから、命令は正確かつ簡潔を心掛けよ。緊急時には隊長権限で階級を飛んでもかまわないが、常に状況の確認を怠るな。情報は鮮度が命だ。しかし焦って間違った情報を伝達すれば、そこから瓦解する。皆、よく肝に銘じておけ」

「ははっ」

 全員が応じるのを確認してから、俺は苦笑を浮かべた。

 とりあえず頷いた、という感じだな。無理もない。今後はもっと大きな組織になるかもしれないのに、十人組なんていう細かい話を持ち出してきたのだ。ここに揃っている面々で、どれだけの人間が雑兵の顔を覚えているだろう。

 名前も一致させられる者は皆無かもしれない。

 その時、スッと手が挙がった。先日、勘定奉行に就任した貞勝だ。

「殿、発言してもかまいませんか」

「許す」

「平時もと仰っておられましたが、各奉行なども同様の組織化を図るということでよろしいでしょうか。既に、いくつか部署の命名をなさっておいでです。十人に満たない部署もございます」

「今後増える可能性がある。少数の方が上手く回せることもあるが、農地改革のように多方面へ技術者を派遣する場合は一定の人数が必要になるぞ。吉兵衛や小一郎のような人材が、そう何人もいるわけじゃないんだ。役割の分担は現場の判断に委ねる」

「承知しました」

「組織改編の件については、後日の質問も受け付ける。どうあっても無理というのであれば、ここにいる者たちの過半数以上の署名を集めて、俺の所へ持って来い。己の考えを押し通すだけの独裁者になるつもりはない。ただ、お前たちならできると信じている」

 俺が立ち上がるのに合わせ、カンカンと甲高い音が響く。

「これにて本日の評議会は終了です」

 広間は一層のざわめきに包まれた。

 母衣衆に指名されて喜んでいる者、十人組の組織分けに関して難色を示す者、はたまた領地の問題について質問する者などで様々な意見が乱れ飛ぶ。それは心地よい喧噪だと思う。

 これからどうなっていくか、彼らがどう受けて止めていくかはまだ分からない。

 広間を出て、小姓たちが背にする壁の反対側に回り込んだ。

「お濃、そこにいるか」

「はい」

 彼女はずっと、ここで話を聞いていた。

 女だから堂々と評議会に出ていくわけにはいかない。それでも、近くにいてほしかった。俺の我儘を静かに聞いて、帰蝶はここにいる。恒興にも話していなかった十人組や母衣衆の詳細も、あらかじめ説明して感想を聞いていた。その必要があると判断したなら、提案すべきだと彼女は言った。

 だが俺は織田家の当主だ。

 当主からの言葉は、命令も同然に伝わるだろう。それが嫌だと訴えたら、撤回できる条件を付ければいいと言われた。それで思いついたのが署名運動だ。志を同じくする者が署名と判を押す連判状は存在するし、そろそろ家臣から不平不満が噴出してもおかしくないと思っている。

 耐えに耐えて、ついに反旗を翻したというのは御免だ。

 皆を信じられないんじゃなくて、俺が織田信長だから不安にもなる。明智光秀のような奴が出てこないとも限らないし、沢彦がなんだか大人しくしているのも気になる。

 不安は尽きない。俺は正しいのか、間違っているのかも分からない。

 それでも今のままじゃダメだ。弾正忠家の信長では、尾張国を平穏な国にできない。

「お濃!」

「はい」

「俺はっ、公方様に謁見を申し込むぞ」

「もう決めたのですね」

「ああ、決めた。守護職を得ることができれば、義龍や義元と同格になる。誰の手も借りず、胸を張って尾張国は織田家のものだと宣言できる」

「所有したいのではなく、守りたいのでしょう?」

「そうだな。守りたいんだ、この手で」

「御心のままになさいませ。わたしはどこまでもついていきます。あなたと共に」

 俺の小さな怯えも包み込むような微笑みに、ちょっと泣きたくなった。

 怖くて、怖くて、怖くて仕方ないが、やるしかない。もう後には引けないのだ。

部隊構成についてノブナガが何か言ってますが、アイディアを言ってみたかっただけです。ややこしい上に面倒くさいので、今後はあまり出てこないかもしれません。

以下まとめ

馬廻衆:ほぼ小姓衆が兼任、ときどき木下秀吉(足軽隊)&蜂須賀正勝(川並衆)

黒母衣衆:佐々成政(筆頭) 毛利新助、蜂屋頼隆、河尻秀隆(筆頭補佐)

赤母衣衆:前田利家(筆頭) 猪子一時、長谷川橋介、福富貞次、金森長近(筆頭補佐) 

直属部隊:織田信治(長槍隊) 織田長利(鉄砲隊)



毛利新助...橋介(右近)や頼隆ハンニャと同時期から、長く小姓を務めてきた。早い段階で馬廻衆として戦に関わっている。太田信定(又助)と仲がよく、信長ウォッチャーが趣味。

 後に良勝と改名する。


河尻秀隆...通称は与兵衛。本当は秀隆に黒母衣衆筆頭を任せたかったのだが、舎弟に甘いノブナガのせいで補佐役に留められた。長近と年頃も近い中年層オジサン組として、若き力を見守っていくことになる。


猪子一時...通称は内匠助、次左衛門。信清に従っていた若武者を気に入って、ノブナガがスカウトした。信清が岩倉城主を騙った一件で完全に見切りをつけ、正式に織田家臣へ加わる。


福富貞次...通称は福平左、平左衛門。後に秀勝と改名する。

 父の代から織田家に仕える。馬廻衆として仕えていたが、赤母衣衆に抜擢される。初期メンバーの中では唯一、小姓経験がない。


金森長近...通称は五郎八。可近ありちかと名乗っていたが、信長の一字をもらって「長近」に改名。

 信秀の代から仕えている古参の将で、浮野の戦いにも参加。赤母衣衆に加える予定はなかったのだが、ノブナガの頼みで利家の補佐役として名を連ねることになった。

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