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ノブナガ奇伝  作者: 天野眞亜
雌伏編(天文13年~)
11/284

8. 円卓の織田主従

総合ユニークアクセス1000突破、ありがとうございます!

 週に一度の集会の日。

 崩れかけた寺の本堂にて、俺たちは互いの顔を突き合わせていた。

 俺だけは座布団を二つに円座を重ねる特別席に腰を下ろす。他は板の間にそのまま座り、円の形になる位置取りだ。何人かはその後ろに控えているが、すっかり見知った顔が揃う。

「皆、揃ったな。では、今回の報告をせよ」

「はっ」

 万千代改め、丹羽五郎左衛門長秀がわずかに進み出る。

 そういや、一番ゴネていたのも長秀だったな。円卓の騎士に憧れていた俺が円陣を主張したら、真っ向から反対してきやがった。織田家嫡男たるもの、臣下と同等に扱うは不敬極まるとか何とか熱く語り始めたから驚いた。

 ちなみに同等の仲間だと思っていたのは、俺だけだったらしい。

 舎弟扱いはOKでも、同格はNGなんだと。

 ショックのあまりに、生まれて初めての大喧嘩をしてしまった。子供みたいなやり取りを繰り返し、果てには長秀の出禁決定。それこそ次期当主、嫡男の命令だと叫んだ直後の敗北感といったらない。

 そして勝ち誇った長秀の笑みも忘れられない。

 鼻血拭けよ。殴ったのは俺だが。

「三郎様?」

 おっと、思い出に耽っている場合じゃない。

 膝に頬杖をつき、腰帯に突っ込んでいた扇子を取り出した。仰ぎたい気分ではないが、なんとなく手持ち無沙汰なのである。

「信行の周辺が臭う」

「あ、聞いたことあります。どこぞの高僧を呼んで、護摩祈祷しているらしいっすね。本当は三郎様への呪詛あべしっ」

 何故か向かい側に座っていたはずの成政が、利家の奴をぶん殴っていた。

 今、腕が伸びなかったか? 気のせいだよな。

「犬っころが滅多なことを言うんじゃねえ! 若様が、どれだけ信行様を可愛がってるか忘れたのか、ええっ」

「もう犬じゃねえよ、松ぼっくり!!」

 起き上がり小法師のように座したまま元に戻る利家。

 器用だな、おい。その技、隠し芸として温存しておいた方がよかったんじゃないのか。年末に集まった時には一度無茶振りするのも楽しそうだ。よし、メモしておこう。

「三郎様、それがしが書き留めておりますれば」

「いや、これは別件」

「はあ」

 小姓が分かったような分からないような顔で頷く。

 平手の爺に教わったのだが、評定内容は記録に残すものらしい。傍仕えとして常に小姓が控えているため、彼らが筆記役を務める。速記能力は小姓の必須スキルだとも聞いたが、利家もできるんだろうか。

 舎弟たちは全員、綺麗な文字を書ける。

 それこそ武士の習いだと言われた。うん、嫌々習ったのは俺だけか。

 話を戻そう。

「呪詛云々は裏付けを急げ。事実だとしたら、信行の弱点になる」

「脅しのネタに使うんですか!?」

「ド阿呆」

「いてえっ」

「いざという時にとっておくに決まってんだろ。ねっ、三郎様ぶふ」

 成政と利家はそれぞれ扇子の一撃を受け、悶絶する。

 おかしいな、ツッコミ用に扇子を取り出したはずじゃないんだが。この時代に新聞紙はないが、厚めの和紙でハリセンを作るのは妙案だな。これもメモっておこう。

 小姓の物言いたげな視線を感じるが、これは見せてやらん。

 さらさらと書きつけ、メモ帳を閉じる。元通りに懐へ突っ込もうとした時、あちこちから注目を浴びていることに気付いた。いい加減見られるのに慣れたが、これは違うだろう。

「なんだ、お前ら」

 照れ隠しに低い声が出てしまった。

 慌てて目を逸らしたり、わざとらしい誤魔化し方をしたりする舎弟たちに少しばかり心も痛むが、仕方ない。俺は機微に疎いので、言われなければ分からないのだ。

「……信行の今後に響くからだ。兄として、弟が不利になることは極力避けたい、障害になりうる可能性は排除したいと思うのは間違っているか?」

「いえ、立派なことだと思います」

「だったら、くだらねえことを言ってんじゃねえ。この場で話したことが、外に漏れた時のことも考えて発言しろ。餌を与えてもネタは渡すな。しくじっても、俺が何とかできる範囲に抑えろ」

「えっ、わしらのことを三郎様が守ってくださるっちゅうことですか?」

「二度言わせるな、猿」

「若様。我らがお守りすべき御方に守られては本末転倒! それこそ若様の仰るべき言葉ではござりませぬぞ」

「五郎左」

 パチンと扇子を鳴らした。

「無駄話で浪費する時間はない。知っているだろうが、俺の縁談が決まった」

「おめでとうございます!!」

 利家の祝辞を皮切りに、舎弟たちから祝いの言葉をもらう。

 まるで自分のことのように喜んでくれる様子を見るに、なかなか悪い気はしなかった。相手は誰だという話になって、情報通の長秀が美濃の蝮について話し始める。油売りの男が下剋上によって、美濃一国を治める主になった話はすっかり有名だ。

 その辺の猿が目を輝かせている。

 考えていることは大体読める分、何も言いたくなかった。その夢が現実になるのと知っているのは、今のところは俺だけだ。今孔明と呼ばれる稀代の軍師も、まだ出会いを果たしていない。

 ああ、駒が足りない。

 今すぐ動かせる手が少なすぎる。

 めでたいムードが広がる中、俺が片手を上げた。

「それで、だ。近いうちに未来の舅殿と会ってみたいと思う」

「会談の場を用意されるので?」

「いや、こっそり行く。堂々と行ったら、騒ぐ奴が出てくるだろうしな。せっかく爺が苦労して結んだ和睦を壊すような真似はしたくない」

「平手様が結ばれたのは和睦じゃなくて、縁談ですよね?」

「和睦の条件に、俺の婚姻が決まった」

 何を聞いていたんだと睨めば、亀のように首をひっこめる奴が数名。

 そうかそうか、お前らか。

 扇子を片手に、俺はニヤリと笑った。


名前は出ていませんが、犬松万トリオに猿が加わって、更に子分衆も数名くっついています。なので、主人公にも小姓(書記担当)を控えさせています

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