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雪の降る里

作者: 賀名さりぃ

妖が棲むと恐れられた森のほど近く、一人の少年が住んでいました。



少年には生まれ持った力があり、その力は実の親が恐れるほどのものでした。



「ハルキ、あなたは、怒ったり泣いたりしてはだめなの」


「どうして?」


「あなたが怒ればあなたの体からは火が生まれ、泣けば水が流れるからよ」



幼い頃にそう教えられた少年はいつしか笑うことしか出来なくなっていました。


”ずっと笑顔でいれば、両親はきっと自分を愛してくれるのだと信じていたから…。”


けれど、少年が自分の力をコントロール出来るようになるには長い年月が必要でした。



周囲の人々は、その長い長い間、いつ生まれるとも解らない火や水におびえ続け、疲れてしまっていました。



それでも、両親や兄弟は、ハルキを愛そうとしました。



しかし、端々にでる怯えは少年に届き、壁を厚く、溝を深くしていったのです。



ある日、少年の住む里に雪が降りました。



雪は、少年にとって初めてみるものでした。



親達は久々の雪にあわただしく働いていました。



ハルキは邪魔をしないようにと、1人雪の中へとでて行きます。



少年には、白く輝く世界がとても楽しいものの様に感じられました。



ありのままの自分を受け入れてくれる、そんな風に思えたのです。



歩き続けていると、いつの間にか少年は森の前に来ていました。



森に入ることは禁止されていましたが、少年はふと入ってみたくなりました。




”妖が棲んでいたって構わない”



少年はとうとうその深い森へと足を踏み入れました。



雪は春樹の頭や、服や、体中に積もっていきます。



森の中はとても暗く、反面雪の反射で輝きもしていました。


しばらく歩いていると前の方に黒い物が見え始めました。



”………あれは?”



それが妖なのかと少年は少し怯えました。



けれどそれ以上に、何なのかを知りたいという気持ちが生まれ、少年はさらに歩き続けました。



その黒い物は、黒い服をきた女の子輪郭を取り始め、そばには黒猫がいることも解ります。



ほっとした少年は、少女へと話しかけます。


「こんな森の中でどうしたの?」


「…」


「僕はね、雪を見るのが初めてだったから、嬉しくてこんな所まで来ちゃったんだ」


「さみしかった」


「え…?」


「さみしくて、さがしてたの」


「そっか、遊び相手を捜してたんだね」


「…」


「それなら、僕と一緒に遊ぼう?」


「…うん」




自分自身、誰かと遊んだことのない少年にとって、この言葉少なな少女の存在は不思議であり、また嬉しくもありました。



「僕、ハルキっていうんだ。君は?」


「わからない」


「わからないの…?じゃぁ、僕がつけてあげるよ。…今日の記念に『ユキ』ってどう?」


「『ユキ』?」


「そう、今降っている雪にちなんで」


「…うん。いい」


「よかったぁ。君は今日から、ユキ」


「うん。ユキ」


「ユキ!遊ぼう」




それから2人はとても長い時間遊んでいました。



ただ雪の塊を投げ合ったり、走り回ったり、そんな単純なことばかりしていても、




 ”楽しい”



と、それだけが2人の頭と心にありました。



おとなしかった少女にも花のような笑顔が見え始め、少年は心が温かくなりました。



少年にそんな笑顔を向けてくれたのは少女が初めてだったからかもしれません。



けれど、2人の住む場所は寒い所ではないので、寒さに慣れていません。



少しずつ、顔は赤くなり、手はかじかんできます。




少女が、ふとなにかを思いついたように手を広げ、一瞬目を閉じると、


次の瞬間には2人の目の前には湯気を立てたおいしそうな食べ物がたくさん現れました。



少年は驚き目を見張ります。



けれど、すぐに嬉しい気持ちで一杯になりました。



少女の力に感心し、また、力を持つ人に初めて出会えて安心したからです。



反対に少女は嬉しそうな顔を曇らせはじめ、少年を窺います。



少年にとってその表情は悲しいものだったので、自分の気持ちを伝え、安心させたいと思いました。



「雪! すごい! こんなに一杯暖かいものを出せるなんて」


「…離れていかない?」


「なにいってるの? 離れてなんて行かないよ」


「怖くない?」


「うん。怖くなんかない」


「気持ち悪くない?」


「全然。だって、この力も含めて雪なんでしょ? それでいいんじゃないかな」


「…うん」




”ユキにも力のせいで、過去に何かがあったのかもしれない”


だとしても…。




2人はその後、ユキの出した食べ物を食べ始めました。



冷えた体にそれはとても暖かく、染み渡っていくようでした。



そして、すっかり体が暖まった頃、空は暗くなり始めていました。



「ユキ、僕そろそろ帰らなきゃ…でも、明日もまたここにくるから」


「ほんと?」


「うん。きっと。だから、ユキもきてよ」


「わかった」


「それから、今日はありがと」


「ありがと?」


「うん。嬉しい気持ちを伝えたいときは、ありがとうっていうんだ」


「じゃあ、ユキも、ハルキにありがと」


「そっか。よかった。それじゃあ、また明日」


「うん。またあした」





森から、村へと帰る道、少年は暖かくなった体と、心で次の日のことを思っていました。



自分と同じ訳では無いけれど力を持った少女…。



あの子になら、自分の力でも受け入れてもらえるんじゃないだろうか、恐れる気持ちはゼロにはならないけれど、ユキになら言ってみたい、とそう思いました。



初めて出来た大切な友達は、雪の様に不思議な少女です。




空を見上げると雪はまだしんしんと降り続いていました。








            end.






読んで下さってありがとうございました。

水乃霰拝

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