パーティ断絶の剣1
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ユウがメッシュに剣を打ってもらってから数週間がたち、ギルドランクもDからCに昇格していた。
ちなみに剣の加護は魔力不干渉、重量変化、魔法剣ー火炎ーの3つであると本人から聞いた。魔力不干渉は魔法に影響されなくなるもので相手の魔法を切りやすくしたりするものである。重量変化は剣の重さをある程度まで変化させるもので、インパクトの瞬間に一気に重くしたりすることで破壊力を増す。魔法剣ー火炎ーは剣に強力な火属性がつき、炎を出したり自身の魔力も使えば火属性の魔法も放てる。
中々に使い勝手の良い加護がつき大変喜ばしい事である。
「おい!そこのお前、最近中々有名らしいな。俺様のパーティに加えてやるから感謝しろ!」
クスクス
そんな矢先高圧的な大男に絡まれた。
2メートルほどの大男は腕を組みこちらを見下ろしながらフンと鼻を鳴らす。背中に担ぐのはその巨体に負けないほどの肉厚な大剣である程度の力が無ければ持ち上げる事も不可能である事が分かる。
「えっと、どちら様で?」
「あぁ?俺様を知らねぇのか?ったくこれだからルーキーはよォ〜」
クスクス
大男は短く切り揃えられた真っ赤な髪をガリガリ掻きながらこちらを睨む。
(うっわーなんか絡まれた……これはテンプレってやつか?なんて面倒くさいんだ?つーか、笑ってるやつ助けろよ!)
そんな事を考えてるうちに男はさらに言葉を続ける。
「俺様はBランクパーティ《断絶の剣》リーダーのデフェール・フェルゴ様だ。パーティメンバーからはディッフェと呼ばれてる。お前もディッフェと呼ぶ事を許してやろう」
クスクス
ふふんと鼻を鳴らしながら自慢げに言う。
「あー、せっかくのお誘いだけどお断りします。じゃ」
「えっ?ちょまってくれ!おい、フエンテ!シンティラ!話が違うぞ!!ちょっと出て来い」
ブフーーバンバン
(笑ってるやつ受けすぎだろ……どんな奴だ?)
ユウが断って慌て出すディッフェにとうとう机まで叩いて大笑いする人に興味を持ち、笑い声の方を見ると男と女が机をバンバン叩きながら大笑いしており、知り合いであろう少女はオロオロしていた。
「あっ、おい!!フエンテにシンティラ!何笑ってやがる!お前らの言ったとうりに誘ったのにあっさり断れたじゃないか!どうするんだよ!」
ディッフェは大笑いする二人……フエンテとシンティラに怒りをぶつける。対して二人は相変わらず大笑いで、薄っすら涙を浮かべていた。
「あっははは『お前もディッフェと呼ぶ事を許してやろう』だってーあーはっはっはーッゴホゴホ……あー笑い過ぎてむせるわー」
「そのくせあっさり蹴られてやんの、あーおもろ」
「あわわ、ディッフェさんが怒ってます!笑うのやめましょうよ!」
ディッフェ本人を前にさらに大笑いする二人に、もう一人の少女は二人を落ち付けようとするが、それも虚しく二人の笑い声に掻き消される。ディッフェもその様子に諦めたのかもしくは慣れているのか、こめかみを抑える。
「お前たち…………ハァもう良いよ。宿に戻ってるわ。あー、そこの君、さっきは済まんかったな。じゃ」
「……え?あ、いや大丈夫だ」
はじめの高飛車な態度は何だったのか、いまは背を丸めてギルドを出て行くディッフェを困惑顔でユウは見ていた。
「……何だったんだ?いまのは」
「あーはっは、いやー君面白いねぇ。あれをああもあっさり断るなんて。いや、面白かった」
先程大笑いしていたシンティラと呼ばれていた女が笑いながら話しかけてくる。シンティラは黄金色の長い髪を後ろに1束にまとめており、大きな瞳には髪と同じ黄金色に輝いていた。
「いやーほんまえーもん見してもろたわ。ユウ君ゆぅたか?えぇセンスしとるで」
同じく大笑いしていたフエンテと呼ばれた男は肩を組みながら話してくる。
フエンテは紺色の髪をスポーツ刈りにした小柄な男で切れ長なその目からは薄っすらと水色の瞳が顔を覗かせている。
「えっと、たしかシンティラさんとフエンテさんですよね。ディッフェさんのパーティメンバーですよね?」
「おーせやで?ディッフェが君をえらく気に入ってなぁどうしたらええやろかって聞いてきたから出来るだけ高圧的な態度で言うたら100%いけるゆーてん。あと敬語はさん付けは鳥肌立つさかい止めてや」
「私も敬語はいーわ、面倒いでしょ?因みにあれ、私達でコーチしたのよ。いやーうん、ディッフェにあの言葉遣いは似合わないわー。思い出したら笑いが……ぷっクスクス」
「ディッフェさんはリーダーですよね?さすがに扱いがぞんざい過ぎませんか?」
あまりに適当すぎる扱いに少し同情しながらも呆れた目で二人を見ると、「敬語はやめてくれと」改めて言われたので、素で話す事にする。
「まぁ、あれでもえぇリーダーやで?あんな図体で仲間思いやねんで。まぁ、気ぃ向いたらウチの門叩きにきぃや」
「それじゃ私達はディッフェを追いかけましょうか。それじゃ、またねユー君。クー行くわよ」
「あ、はい!えっと、失礼します!」
シンティラとフエンテと一緒に居た少女はユウに頭を下げると、トテトテと二人のあとを追いかけてギルドを出て行った。
「何だったんだいまのは……」
残されたユウはぽつりとそう零した。
-2-
「ニノマエさん貴方に指名依頼が来ています」
「え?」
パーティ《断絶の剣》との接触の翌日、ギルドに顔を出した時受付の女性に声を掛けられた。何故、自分に指名依頼が来るのか首を傾げながら話を聞いてみる。
「今回の依頼はパーティ《断絶の剣》様からの指名依頼で、一月パーティメンバーとして活動すると言うものです。報酬はパーティでの純利益の半分と、完遂した際に白金貨5枚です」
「あー……成る程。それにしてもこれは……破格の報酬ですね」
依頼主が断絶の剣と聞いて、何故自分に指名依頼が来たのかを悟る。恐らく一時的にパーティと行動する事で雰囲気などを知って貰おうと言う事だろう。しかし、問題なのはその報酬が破格なのである。パーティの純利益の半分というのだけでもとんでもないのに、さらに金貨3枚である。白金貨1枚1000万Gなので、 一ヶ月過ごすだけで5000万である。
「ちなみに断絶の剣った、どのくらい稼いでるか聞いても大丈夫ですか?」
「はい。本来は答えられたいのですが、今回は断絶の剣からの了承もありますので。先月は金貨80枚の稼ぎで、純利益は60枚ほどです」
「結構な稼ぎですね……。月3000万Gの稼ぎって……四人パーティだから単純計算で750万?高ランクパーティってスゲェな」
金銭感覚の麻痺しそうになる話を聞きながら、今回の依頼のメリットとデメリットを考える。
(メリットは言わずもがな資金が大分潤うって事。あと、高ランクパーティとコネができることか?デメリットは……まぁ、長期間拘束される事だがこれはいいか。問題は俺が目立ちすぎる事だが……ふむ、それも適度に有名な方がいろいろやりやすいか?)
「で、今回の指名依頼はどうしましょうか?」
「んー……受けようと思います。細かい話とかしたいんですが、彼らがいる場所分かります?」
今回はメリットの方が大きいと判断しパーティ仮加入の依頼を受ける事にする。5000万は大きいと考える辺り自分も俗物なのだと気が付き苦笑いする。
「それでは、あとはそちらでお願いします。クエーサーさんお願いしますね」
「は、はい!えっとクエーサーです。皆さんからはく、クーと呼ばれてます。しばらくよろしくお願いします」
受付に呼ばれて出てきたのは、すぐ側に待機していた昨日の少女クエーサーであった。昨日と同様に黒に白のラインの入ったローブ姿で、頭を下げてくる。
「あぁ、俺はニノマエユウだ。普通にユウと読んでくれ。まぁ、これからしばらくよろしくな」
「分かりました。それじゃユウさん皆さんのとこに案内するのでついて来てください」
そうして、クーを先導にユウたちはギルドを出て行った。