メッシュの剣
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「フェッルムの親方ぁただいま戻ったす」
武器屋に入るとメッシュはカウンターで武器の手入れをしている男フェッルムに声を掛ける。
「おせぇぞメッシュ!どこほっつき歩いてやがる!!」
「どこって、メタルローの外殻なんてこの辺に売ってないから、ヨーグソ・トース大商会まで行って直接買取に行ってたんすよ!?」
「うっせぇ!何でもするから弟子にしろって言ったのはテメェのほうだろぉが!」
「だから商会までいって買ってきたっすよ!少し時間掛かったってしょうがないじゃ無いっすか!!」
「あー、取り敢えず二人とも落ち着いてください」
いきなりの師弟喧嘩に少し戸惑いつつも仲裁に入る。フェッルムはフンと鼻を鳴らしてからユウに向き直る。
「おう、うちのクソ弟子がすまんな。で、今度は何だ?」
「今まで使ってた武器が駄目になったんで、武器を買いに……。資金はそこまで無いんで数打ち品が欲しいんですがありますか?」
こちらの要望を伝えるとフェッルムは顎を擦りながらウームと唸る。
「ウチには数打ち品は置いてねぇんだよ……。それぞれがそれぞれの付与魔法が施されててな。一番安いのが20万Gの丈夫、風属性、加速のエンチャントが着いたダガーだな」
「なら僕が打つっす!」
手持ちの精霊草を売ればなんとかなる金額ではあるが、予備のために残した物を売るのはどうかと思案するなかそんな声が聞こえた。
「あぁ?あーまぁ、そろそろ次の段階に入っても良いとは思うが……ふむ、あんたは構わないか?もちろん値段は材料費のみで構わんが」
「んー親父さんがしっかり監修してくれるなら構いませんよ?ついでに俺にも鍛治風景を見せてくれれば言うことなしです」
「オーケー決まりだな。メッシュ!1時間後に始められるように準備しとけ!」
「はいっす!!」
メッシュはフェッルムの言葉に嬉しそうに頷くと店の裏に入っていった……。
「さて、武器だが要望はあるか?と言っても、作れるモンは限られてるが……」
「そうですね……まぁ、無難にショートソードですかね。初めてならその辺が打ちやすいですし」
「分かった。じゃ、俺も少し準備するから暫く待ってろ」
そう言ってメッシュのあとを追うように店の裏に入って行くのだった。
-2-
メッシュがユウのショートソードを打つ事が決まっておよそ一時間。三人はそれぞれの面持ちでガンテツの工場に来ていた。
「「我らに火の加護を!」」
「我らに火の加護を」
メッシュとフェッルムが金床や炉に向かっていったのを聞いて、ユウもそれに習う。ユウの知識には無かったので、撮り逃した知識か一部の者達の願掛けかは分からないが……。何はともあれいよいよ鍛治が始まる。
メッシュは始めに炉に火を付け火力が十分に上がるのを待つ。そして頃合いを見て鉄の塊を放り込み炉の中で熱していく。
「よし、そろそろ良いだろ……炉から出せ!!」
「はいっす!」
フェッルムの合図で炉から取り出された鉄は真っ赤になり、暴力的な熱を発していた。
メッシュは金床にそれを置くと見るからに重そうなハンマーを振り上げ一呼吸置いてから振り下ろした。カァーーンと音が部屋に広がりそこからメッシュは汗だくになりながら、ハンマーを降り続けた。
カーンカーンと規則的になる金属音とそれに伴い爆ぜる火花はまさに一種の芸術である。
「力加減を統一しやがれ!!」
「はいっす!」
時おりひっくり返してはハンマーを振るい、火花を散らしながら鉄塊は徐々に武器の形に変わっていく。
「ナマで見ると迫力が違うなぁ……いつか俺も手を出したいとこだな」
その光景を眺めながらポツリと呟いた。知識としてはあるものの、やはり百聞は一見にしかずと、言うやつなのだろうと思いながらメッシュによって振るわれるハンマーを眺めていた。
-3-
「これで完成だ……!受け取れ」
メッシュの打ったショートソードに握りと滑り止めの布を播き終えたフェッルムは出来立てほやほやのショートソードを受け取る。
「ありがとうございます!」
ユウは受け取ったショートソードを2、3回振ってみて具合を確かめる。それが思いの外良くヒュンヒュンと何度も風を切り裂くように剣を振る。
「親方!ユウさんは僕の初めてのお客様っす!アレやってあげたいっす!!」
メッシュは剣を楽しそうに振るユウを見ながら、フェッルムにこっそり声をかける。
「ああ、おめぇがいいなら施してやれ。ただ、了承をとるのを忘れるなよ?」
「はいっす!」
フェッルムはアレが何を指すのかを察し、と言うよりはいい出すだろうと思っていた事なので特に否定する事なく、あっさり許可した。その事に嬉そうに笑い元気良く返事をした。
「ユウさん!実は僕の初めてのお客様って事で、武器に加護を付けたいっす!勿論お金は取らないっすし、加護を付けさせて下さいっす!」
「加護?……あぁ、ってえ!?メッシュ君精霊なの!?いや、見た目とか違うし鍛治師って事も踏まえると……ドワーフと精霊のハーフかな?」
武器に加護を付けると言うのは付与魔法とは訳が違う。それをユウは知識として持っている。付与魔法とは使用者や空気中の魔素や魔力でその効果を維持している。そのため、魔力が封じられた場所や、魔力相殺などを使われては、効果を十分に発揮できないのである。そして、そんな不安定な状況で武器を使えば付与魔法が解けたり、最悪武器自体が壊れてしまう。しかし、加護は魔力などは一切関係なく常に発動しており付与魔法より強力な力が備わっている事が多い。また、加護を受けた武器は他人には扱う事ができない為、盗難などの心配も無いし、本人が望めば譲渡も可能である。そして、そんな加護を付けられる種族はそうは居らず、可能性としては最も近いであろうものを聞いてみた。
「んーちょっと違うっすね。僕は純100%精霊っすよ。と言うかユウさん加護の事知ってたんすか?僕としてはそっちの方が気になるすよ……?」
メッシュはケラケラ笑いながらさらりと言う。何かを見定めるようにユウを見ながら疑問をぶつけた。
「まぁ、その辺は色々……あぁ本当に色々あったんだ。それより加護お願いしてもいいか?」
「……はいっす!」
何かを感じ取ったのかメッシュはニッコリ笑う。それと同時にメッシュが暖かいお日様のような光に包まれた。やがて光は収まり、そこに居たのは、ゆらゆらとロウソクの灯りの様に揺れるオレンジ色の髪の毛、ブロンズの瞳と人懐こい笑顔。全体的に透けて見えるのは精霊故だろうが、間違いなくメッシュその人であった。
「じゃいくっすよ!」
メッシュは深く息を吸い込みゆっくりと言葉を紡ぐ。
「《我太陽神の仔也、太陽神の鱗片を受け継ぎしもの也、我が名はメッシュ、其の名において加護を与える》」
言い終えるのと同時にメッシュの体が明滅しそれに康応する様に剣も明滅し始める。そして完全に一致すると一際大きく瞬き、光が収まった。
「ふぅー初めてだから張り切り過ぎたっす。親方少し……3日程里帰りしても大丈夫っすかね?」
「張り切り過ぎだバカヤロー。戻ってしっかり治して来い」
加護を与え終わるとメッシュはだいぶ小さくなっていた。おそらく加護を与え際にキャパシティーを超えた力を出したのだろう。その弊害が体の縮小である。最もメッシュの言う様に、生まれた場所に行けば直ぐに回復するし、そうでなくても時間をかければゆっくりだが戻っていく。それを知ってか知らずかフェッルムもしっしと手を払う。
「メッシュ君加護ありがとう。今度会ったらまた使い心地伝えるからな」
「うっ、お手柔らかにお願いするっす……」
そう言い残してメッシュはすっと消えて行き、一陣の風が吹いた。
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更新遅れて申し訳ありませんでした。リアルで色々あったんで許してください……。これからも不定期更新ですが、『この知識を異世界で』をよろしくお願いします。
あっ、なんかメッシュ君が死んだみたいに書いてるけど、ちゃんと生きてますよ。