精霊草とホーンラビット
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ギルドの依頼には大きく分けてフリークエスト、通常依頼、指定依頼、緊急クエストの4種類ある。フリークエストは何時でも受け付けており受付を通さ無くとも出来るものである。一般的にゴブリンの討伐や薬草採取などである。通常依頼は「〜が出たから討伐してこい」や「〜が必要だから集めてきてくれ」などの一般人などからの一回きりの依頼である。指定依頼は通常依頼にどこの誰にやって欲しい!と言った人物指定の依頼で、重要な依頼などは信用度の高い冒険者に送られてくる。そして緊急クエストは文字通り緊急時の依頼である。災害級の魔物が出たりだとか、大繁殖した魔物が街に迫ってくるときに発せられそれぞれ役目を与えられた冒険者は半強制的に動く事になる。
そして今回ユウが受けようと思ったのは通常依頼のホーンラビットの角の確保とその合間にフリークエストでこずかい稼ぎをしようと考えた。因みに角兎の角は一本500Gで20本まで買取ってくれるとのこと。
「ホーンラビットは草原地帯にいるはずだから、移動は楽で良いな。でも、とりあえず剥ぎ取り用のナイフくらいは買っとかないとな」
頭のなかを巡る膨大な知識の中から必要な知識をピックアップして準備をしていく。
準備と言っても剥ぎ取り用のナイフを買うくらいで、あとは洞窟暮らしで造った手槍を持っていく程度である。
「ここに剥ぎ取り用のナイフってありますか?」
「剥ぎ取り用だぁ?それならそこの一角はそれ用のもんだ。弟子が打ったものだからほぼ材料費だけだ」
とりあえず手短な武具店にナイフを買いに入って、話を聞いてみると安いナイフが売ってあるらしい。
どれも刃渡り15~20cmくらいで、かなり丹念に研ぎを入れられておりその刃は鋭い。いくつか手に取って、しっくりきたものを二本もっていく。
「この二本を買いたい」
「おう、二本合わせて2200Gだ。使い心地なんかを聞かせてくれるとうちの弟子も喜ぶだろうから、機会があれば頼む」
「次に武器を買いに来たときにでも言わせてもらいますね」
銅貨と鉄貨数枚と引き換えに剥ぎ取り用のナイフを受け取る。一本はポーチの中にもう一本はベルトに紐で固定すると、草原地帯へ向かった。
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草原地帯は街の外のため、当然門を通ら無くてはならなず、まだ入国金を払っていないユウにとっては少しだけ気まずいものがあったが、依頼で草原地帯へ行くことを告げるとあっさり通してくれた。
そして現在ユウの目の前に一匹の角の無い角兎の亡骸が転がっていた。当然ユウがやったものである。
「うーんいくら以来だからと言っても、少し抵抗があるな……。まぁ、こればっかりは慣れるしか無いんだろうけど」
角兎はライトウルフに比べれば弱く、簡単に倒せた。しかし、ライトウルフのときと比べ何故だか少し罪悪感が湧いてくる。これは恐らく、あのときは命を守るための自衛で、今回は自分のこずかい稼ぎの為だからだろうと考える。
「まぁ、人間適応力が凄いから3日も続けば慣れるかな……」
角兎から剥ぎ取った角は10㎝ほどでポーチの中にそれを突っ込むと次の角兎を探して草原地帯を歩き回る。角兎を探しつつも、フリークエストの薬草採取やゴブリンなどを討伐していく。討伐などはギルドカードに倒した種類と数が記録されていく仕組みで、討伐の報奨金を受け取るのと同時にリセットされるのである。また、一ヶ月すぎた記録は自然消滅するため注意が必要なんだとか。
そして3時間ほど経った頃で何体目かのゴブリンと遭遇する。手槍は既に使い物になら無いが、素手と魔法で十分なのでこのまま戦闘に入る。
「グワァーグワァー」
威嚇するゴブリンを蹴り飛ばし、火球でトドメを刺していると、あるものを発見した。
「ん?あれ精霊草だな。フリークエストには載ってなかったけど、結構優秀な魔草だし買いとってくれるだろう。そうでなくても自分で調合すれば良いし……」
精霊草とは根から花まで全てが薬や魔術の媒介の素材として有名な魔草で、精霊が育てたとされるものである。その由来は、通常精霊草は霊山などで取れるのだが、稀に草原や森果ては民家の花壇などで見つかるため精霊が育てた植物が変異を起こして精霊草になると言われている。
「これはまさにラッキーだな。買取ってくれれば、一株25,000くらいで売れるだろうし、ここには8株もある。十二分に入国金を払える訳だ」
棚から牡丹餅の様な話ではあるが、るんるん気分で精霊草を8株全て採取して早々に街の方へ引き返す。結構な時間角兎を探していたため、現在6本の角も確保しているが精霊草に比べると本当に小遣いレベルである。
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街で依頼品などの換金をして4200Gの小遣いと精霊草を一株40,000Gで買ってくれるそうなので3株だけ売って、合計124,200Gの収入となった。
「精霊草が割と高く売れてよかったです。これ入国金です」
受けとった硬貨の中から銀貨を5枚差し出すと受付の女も支払い証明書を渡してくれる。
一言お礼を言ってからギルドを出る。
「んー入国金も払って、まだ財布もあったかいし安い武器と腰袋でも買おうかね」
じゃらじゃらとなる財布をポーチに入れるとナイフを買った武器屋に向かう。前回は名前も見なかったが、店の名前は《ガンテツ》と言うらしい。
「あっ、もしかして僕のナイフを買ってくれた人っすか?」
ガンテツの扉に手をかけたとき、若い青年に声をかけられた。茶色く短い髪にブロンズの瞳の人懐っこそうな顔立ちである。
「ナイフなら買ったけど、君のかどうかはわから無いな……とりあえず、君は?」
「あ、僕はメッシュて言うッス。ここでナイフや数打ち品を売ってるのは僕だけスからお兄さんの買ってくれたのは僕の打ったので間違い無いッス」
「そうだったのか……。あのナイフの感想だが切れ味は申し分なあものだった。おかげで剥ぎ取りはそれなりにはかどった……」
「本当ッスか!?やっぱり自分のつく「ただし!」……え?」
褒められて嬉しそうにしているメッシュには鍛治に関する知識も豊富に持っている。それだけにメッシュのアラにも当然気がつく。
「まず、ナイフが全体的に研ぎ過ぎで大分脆くなっている。それに、研ぎ方が下手で重心がずれてたな……。あと、焼き入れももう少し丁寧にすると、もうちょい丈夫になるな。あぁ、焼き入れをする水に甲鉱石って鉱物を粉末にしたものを入れたりしても丈夫になるね。それから……」
「す、ストップッス!そ、それ以上は僕のなけなしのプライドが粉々に砕けるッス!!」
「あーなんかごめん。でも、まぁ、うん……使いやすかったよ?」
「や、優しさが痛いッス……それより今日は何か買いに来たんすか?」
ユウのダメ出しに心が折れるのをなんとか阻止したメッシュはユウに本来の目的を訪ねると、ユウはそうだそうだと武器を買いに来たことを伝え武器屋へメッシュと一緒に入っていった。