グランフォード
-1-
「グランフォードへようこそ!身分を証明するものが無いなら、こちらに署名をたのむ」
「僕はこれで」
「俺は無いから署名だな」
ミールと出会い行動を共にした翌日の夕方には街に着いた。街に入るにはどうやら身分証か署名が必要らしく、ミールはギルドカードをユウは署名書に名前を書く。
「冒険者ギルドEランクミール並びにニノマエユウ、改めてようこそグランフォードへ」
署名をして見せると街の中のどこかのギルドで滞在費の5万Gを早めに払ってくれとのこと。なぜここで払わないのかと聞くと、「ここに金が集まるより、ギルドに集まった方が安全だろう?」とのこと。まぁ、もっともなことだと思う。
「さーて、ようやく着いたがまさかミールが冒険者だったとはな」
「なったばかりでランクもかなり低いんですけどね。僕としてはニノマエさんが冒険者じゃない事に驚きですよ」
謙遜しているようだがやはり少し嬉しそうにしているところから、冒険者に憧れていたのだろう。このエレメンティスにおいて冒険者は一攫千金を狙う若者が多く、中々人気な職である。しかし、その昔何の試験もなしにギルドに加入させていたため、メンバーの把握が難しく無理をした若者が数多くその命を落としていったとのこと。そのため今では、ある程度の実力が無ければ加入出来ないよう試験を設けたのである。
さて、ここで一度エレメンティスにおいての通貨について説明しよう。通貨単位はGで、鉄貨一枚10G銅貨一枚500G銀貨一枚10,000G金貨一枚500,000G白金貨一枚10,000,000Gとなる。銅貨1~2枚目で大体一食分くらいなので、10G=10円と大体同じくらいになる。
「さて、俺は一度これ売りにギルドへ行くけど、ミールはどうする?」
「僕も滞在費払わないといけないから一緒に行きます」
「んじゃ、ギルドに行きますかー。俺もギルドで試験受けときたいしな」
二人並んでグランフォードの街を歩く。床は石畳みになっており、遠くから馬の蹄が打ち鳴らす音も聞こえる。また、表通りには様々な店があり、ポーション屋や武具店などの冒険者用の店から装飾店や衣装店など一般人や貴族向け果てはあからさまに胡散臭そうな店まで出ている。当然飲食店もあるようで、この時間帯だからなのかあちらこちらから食欲をそそる匂いがしてくる。
「ん、ここみたいだな」
「はい。中々いい雰囲気のギルドですね」
二人がしばらく歩いていると《グランフォードギルド支部》と書かれた立て看板を見つける。
その建物は見た目は簡単な作りに見えるが、実に機能的で安定性を感じさせる外観で、無駄な飾り気がなく良い雰囲気のそれであった。
木製の扉を押し開け中に入るとまず感じるのは、キツイアルコールの匂いと、冒険者であろう者たちの笑い声や怒声。その次に表通りに負けず劣らずの芳ばしい匂いである。思わず席に着き何かをた飲みたくなるのをグッとこらえ受付に向かう。
「グランフォードギルド支部へようこそ。本日のご用件は?」
「すみませんがこいつらの査定をお願いします」
「あと、僕は入国量を払いに来ました」
ミールはそう言うと机に銀貨を5枚並べて渡す。
「こちらは……ライトウルフの毛皮ですね。ふむ、これは2300G残り3枚は3000Gですね。ミールさんの入国料の50,000Gは確かに頂きました。こちらは今期のグランフォード支払証明書です。再発行は不可能なので気をつけてください」
「「ありがとうございます」」
ライトウルフの毛皮は初めて狩ったものが少し安めになっているが、他は概ね相場通りだろうと換金する。
「そう言えば、ギルドに登録したいんですが」
「登録ですか?でしたら後日あちらの受付の者に声をかけてください。登録の際にはギルド員と模擬戦をして頂き、ライトウルフの討伐……は毛皮を持ってるってことは大丈夫でしょう。あとは、試験員が認めれば晴れてギルドに登録されます」
「なら明日にでもまた来ます」
受付の人に会釈をしてギルドの外でミールと別れる。ミールは知り合いが居るそうなので其方に行ったが、ユウには当然そんな伝は無いため、宿を探す必要がある。手元には11,300Gで入国料まで、まだまだ足りないため安い宿を取り、次の日に備える。
-2-
「冒険者登録をしたい」
「……実技試験を行いますが大丈夫ですか?」
「問題ありません」
「ては、こちらへどうぞ」
翌日ユウは冒険者ギルドに来ていた。昨日言われた通りギルド登録を願い出ると実技試験の為の部屋へ通された。その部屋には幾つかの種類の木製の武器が置かれており、恐らくはそれで模擬戦でもするのだろうと当たりをつける。
「では、武器を一つ選んでください。それで私と戦って頂き、それを元に合否を決めます」
「別に勝つことが合格基準じゃないってことですね。じゃ、どの武器を使おうかなっと……」
受付だった女は頷きユウが武器を決めるのを静かに待った。
いくつかある武器の中からユウは片手で扱えるショートソードを手に取り軽く素振りをすると頷くと「これで良いかな」と呟いた。
「決まったようですね。それでは其方から攻撃をしてきてください。私からは攻撃はしませんのでお好きなようにどうぞ」
女はユウと同じ様にショートソードを手にして攻撃に備える。
「じゃ、遠慮なく行かせてもらいます!」
ユウは女に詰め寄り横に振るう。しかし知識だけしか無いそれは、あまりに読み易いものであっさり軌道をづらされる。しかし
「(流石にいきなりは無理か……けど)」
ユウは軌道をづらされつつも素早く剣を返すと、二撃目を打ち込む。これに少し驚いた女は自らの剣で受け止め押し返す事で距離をとる。
「まだまだ合格にはほど遠いですよ?」
女はユウを挑発する様に言い再び二人の剣が交わる。
-3-
sideアリー
「決まったようですね。それでは其方から攻撃をしてきてください。私からは攻撃はしませんのでお好きなようにどうぞ」
受付の女ーーアリーはいつもの様にショートソードを構え静かにユウの初撃を待った。
「じゃ、遠慮なく行かせてもらいます!」
ユウから初撃は単調な切り払いであった。その剣筋はお世辞にも上手いものでは無く、容易に剣の腹を叩くことで軌道をずらす。
「っ!?」
しかし、軌道をずらしたはずの剣がその勢いを逃さ無いまま迫り来る。予想外の一撃にアリー自身も剣で受け止めユウを弾き飛ばし距離をとる。
楽しい
アリーの中にふとそんな感情が芽生える。
素人のような剣かと思えば、意表を突くような攻撃をしてくるユウに少なからずアリーは期待を持ち始めている。
たった一回の攻防であったが、アリーは何かを感じ取ったのであった。
「フッ」
軽く息を吐くと同時に一気に距離を詰めてくるユウに集中し剣を握る手に力をこめる。
アリーは途切れる事無く迫り来る攻撃を的確に見切り剣筋をズラして攻撃を凌いでいく。
「ぐっ」
しかし徐々に鋭くなる剣筋に加えフェイントなどにより始めはかする気配の無かっな剣が、アリーを捉え始める。
「スッススッと」
「!!?」
右から来る剣を防ごうと剣を立てるが、手首を返し瞬間的にからの攻撃に切り替える。アリーも攻防のなかで何度か見たため、何とかそれに追いつき防御する。しかしそれを読んでいた様に手首で剣を跳ね上げアリーの剣をヌルリとすり抜け首元でピタリと止められた。
「合格で良いですか?」
ニッコリ微笑みながら聞いてくるユウに唖然としながらも、アリーは頷くし 事しか出来なかった。
-4-
Sideユウ
「ふー何とか合格したし漸く入国金を払う目処がたったな」
ユウは手元で真新しいギルドカードを弄りながら街をぶらぶらしていた。
ギルドの登録試験の結果Dランクからのスタートとなるらしく、いきなりは討伐系も受けられるため、実入りも見込めそうだとつい頬が緩む。
冒険者ギルドのランクには個人とパーティの二種類があり、それぞれF~Aでその上にSランクがあり、功績によってランクが上がっていくシステムである。本来Fからのはずだが、試験官であるアリーに勝ったためDランクからとなったのである。
「とりあえずは今日は疲れたから美味いもん食ってぐっすり寝ようかね」
ギルドカードを仕舞い少しだけグレードを上げた宿にお世話になる事にした。