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この知識を異世界で  作者: ココナッツ
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出会い

-1-

「これじゃ外には出ないほうがよさそうだなぁ」

こちらの世界に来ておよそ一ヶ月がたったある日、アイデンの森は大雨に見舞われていた。激しく地面を叩く雨と唸り声のような風の音にため息をつく。

「まぁ、この機会だし過程の多い薬……そうだなぁ、メディカルでも作ってみるかな」

そう呟きながら、今までに蓄えた薬草や木の実類を寄せ集める。メディカルとは様々な毒に対して効果のある薬であり、冒険者特にダンジョンに潜る者たちにとっては必須のアイテムである。

「〜〜♪〜♪」

鼻歌を歌いながら薬草を乳鉢ですり潰し、軽く火で炙り水気を飛ばした木の実を投入する。木の実類を使う調合はあまりしないが、このゴリゴリすり潰している感がとても気に入っている。これを魔力を含んだ水(魔力水)に1時間漬け込む。

「っとこれでしばらく暇になるな。んー洞窟暮らしもいい加減飽きてきたし、この嵐が止んだら街に行ってみるか」

事前に魔力を注いでおいた水に、作成中の薬を入れ片付けや次の準備をしながら考える。

ふと外を見る。相変わらずザーザービュービューの大嵐である。

「これ、いつ頃止むかな……」

一度街に行きたいという欲求が溢れ出し抑えられなくなる。そうなるとこの嵐がもどかしくてしょうがなくなくなり、早く止め早く止めと念じながら暇な時間を過ごすのだった。


-2-

あれから3日経ち漸く嵐が去り太陽が顔を出していた。嵐の後で地面はぬかるみ歩きにくくなってはいるが、待ちに待った旅立ちの時ではその程度何の障害にもなりはしない。

「いざ行かん新天地!」

ウエストポーチに薬類やライトウルフの爪や牙、それから魔石を詰め込み、毛皮は一纏めにして背中に担ぐ。そしてようやく念願の街を目指して歩き出した。

アイデンの森の浅い場所からだと、街まではおよそ3~4日。その分野宿することになるが木の上で寝れば魔物や獣に襲われることはないし、いざとなれば魔法で即興のかまくらくらいは作れる。毎日の走り込みのせいか悪路には慣れており、鼻歌交じりに道無き道を進む。そして、何事もないまま2日すぎようやく森を抜け平原へと出た。

「ここまでくればあと少しだな。今のところトラブルも無いし順調順調〜」

初めての旅ではあるが、何事も無いことに上機嫌になりながら道中採取した果実を食べる。

「ーーー」

「ん?」

そんな呑気に歩いているときに何かの声を聞き取る。かなり遠くの方だったらしく何を言っているかもわからないが、確かに人の声であった。

「んー?ちょっと余裕があるから、見に行ってみようかな」

そうと思えば即行動。声の聞こえた方へ駆け出した。10分も走れば目的の場所に到着する。

「んー予想してたのと正反対の状況だな……」

そこには胴を引き裂かれ、血だまりを作り出す幾つかの骸と、銀の太刀を握り倒れこむ一人の少年だった。

「とりあえず、この子は生きてるみたいだし、どうにかしないとな」

人の死体を見たにも関わらずそこまで動揺してないのは、既に自分が生きるためには命を奪わなければならないと身を以て感じているからなのか、別の理由なのかは分からない。

-3-

「うぅ…ん?」

パチパチと焚火が不規則に弾ける音でその少年は目を覚ました。何がどうなったのかは覚えていない。ただならず者に囲まれ必死にこの太刀を振り回していた事だけである。そこで気づく。

「!!僕の太刀は!?」

己の半身のように大切に扱ってきた太刀が見当たらない。慌てて周囲を探すが、そこで声をかけられる。

「目、覚めたか?君の太刀ならここにあるから安心しろ」

そう言って太刀を渡してくれる。刀身は鞘に隠れているが、掴むだけで自分のそれだと確信した。

「ありがとうございます。僕はミールと言います。あなたは?」

「あぁニノマエ ユウ。よろしくなミール」

「ニノマエさんですか……よろしくお願いします」

ユウが差し出す手を握り返し笑うミール。しかし少し落ち着いたのか、ミールの中に幾つかの疑問が浮かんでくる。

「そういえば僕、結構な大怪我だったと思うんですが……」

ミールは腹を触ってみるが特に痛みは感じず、適切な治療がされていることが分かる。

「あぁ、薬が有ったからな。やばそうなとこだけ直したから、まぁ大丈夫だろ」

「あの、僕お金とか持ってなくて……えっと」

「あぁ、お金は取らんから安心しろ。俺は今街に向かってんだがミールは?」

「そうですか……。僕も街に向かっている途中にあのならず者に襲われてしまって……」

お金が必要無いと聞いてあからさまにホッとした表情をするとユウと同じ様に街に向かうことを告げる。

「なら一緒に行こうか。一人旅より二人旅がいいだろうしなぁ」

「そうですね。ぜひ一緒に行きたいです!」

「じゃこれからよろしくなミール」

「はい!」

こうしてエレメンティス初めての住民に出会うことができたのだった。

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