色々な初めて
-1-
黒い穴に落ち、一瞬意識が途切れ再び意識が繋がった時俺は森に居た。
「あー変なことになったなー。夢って思いたいけど、残念ながら現実だよな…これ」
あらゆる知識を得た今あたりを見渡すと、それぞれ何か手に取るようにわかる。
「知識の通りならばここはエレメンティスって世界らしいな…情報が少ないからこの森のことは分からんが……」
深いため息をついて今の服装などを確認する。短パンにTシャツ帽子ランニングシューズウエストポーチ。
中々に絶望的な状況である。取り敢えず現在地がわからん事には動きようがないので、当面の拠点を探すため薬などの材料になる優秀な植物などを採取しつつ森を進む。
「んー取り敢えずここでいいか?」
少しウロウロしたところ洞穴を発見し特に危険もないようなので、しばらくはここで情報を集めることにする。
野草をその辺に放ると魔法の行使を試みる。魔法に関する知識はあるもののいざ使うとなると緊張する。今から使おうとする魔法はノンスペルと言われる詠唱を必要としない魔法で、自然に溢れる自然魔力と呼ばれるものを使う魔力があるか分からない今の俺でも使えるものである。
「さて、イメージイメージ……」
イメージするのは、乳鉢と乳棒ようするに薬などをすり潰すためのものである。前世では本やテレビなどで見たことはあるが実際には見たことはない。
右手を床につけ、しっかりとイメージをしていく。するとモコモコと土や石ころなどが集まり形を形成していい気、厚めの器と短めの棒が出来上がった。
「んー?実際見たことないけど、こんなもんでいいのかな?取り敢えずさっき拾ったので簡単な薬でも作ろうか」
材質は土と石ころという低品質のものではあるが、そんなこと御構い無しに三種の薬草を乳鉢ですり潰していく。
今回使った薬草は、ヒナタ草、バイン草、聖樹の葉である。ヒナタ草は疲労回復などに効く野草であり、様々な薬草と相性の良いものである。バイン草はオレンジ色の薬草で一部の薬草などの効力をあげる性質がある。最後に聖樹の葉であるが、聖樹といっても森に入れば数本は見つけられる巨樹でありそこまでの希少性は無い。そんな聖樹の葉は季節により様々な色に変化し、それにより効力も違っており今回採取した聖樹の葉は薄紅色でヒナタ草のように疲労回復や傷の治りを早める力がある。
そんな薬草たちを一人スッスッとすり潰していきペースト状になる頃には火が完全に傾いていた。
-2-
「ふぁぁ……いつの間にか寝てたらしいね。確か昨日は塗り薬(劣)を作ったんだっけね」
洞窟の中で寝たにしてはそこまで体は痛まなかったが、代わりに空腹に襲われる。仕方無しにポーチの中を見てみるが食べ物はなく、精々ペットボトルに入ってる水くらいなものだった。取り敢えず一口だけ水を飲み塗り薬(劣)を適当な葉っぱで包み洞窟を出る。
「ここがどの森のどの辺なのか情報が要るが、一先ず食糧を確保しなくちゃね」
そう呟きながら洞窟のすぐそばに小さめの落とし穴を掘り先を尖らせた木の枝を数本刺しておく。次に森に入り果物や木の実などを探し歩き回る。
「んーやっぱり果物類は少ないか?木の実は少しは手に入ったけど、流石にこれだけじゃ腹は膨れないよな」
ポーチの中にある木の実を覗き込みながらため息が出る。
「そう言えば、この森って川とかあるのか?川があれば魚なんかも取れていいし少し探すか」
思い立ったが吉日早速近場の聖樹に登り川が無いか探す。しかし、残念なことに見える範囲には川はなく、代わりに少し離れた位置に二匹の魔物の姿が目に入る。
「あれ、ライトウルフだな…ってことはここはアイデンの森か迷いの森、発芽の森のどれかか?発芽の森だと、近くに大きな街があるはずだけど……」
とライトウルフの動きに警戒しつつ考えをまとめる。
ライトウルフとは生息地の限定される種で60cmくらいの小さめのオオカミの魔物である。攻撃的だが臆病な一面もあり、あいてが格上だとわかると直ぐに戦前逃亡する。冒険者になるための試験としての肝門となっている。
「色々有益な情報が手に入ったけど、同時にする事もたくさん見つかったね……忙しくなるなぁ」
ブスの素人が素手で魔物に勝てるわけは無いのでライトウルフの対策を考えながら一旦洞窟に戻る事にした。
-3-
ライトウルフ発見から3日が経った。洞窟付近に落とし穴を増やしたり、丈夫そうな木の棒に魔法で石の鏃を接合したなんちゃって手槍を数本作ったりしているが幸いライトウルフの襲撃も無く、木の実などを餌としてから、罠にもウサギなどが掛かり食糧事情は今のところ問題はない。
「さて、少し落ち着いてきたところで本格的な魔法習得のために、保有魔力量を確認しようか」
本来専用の魔道具で計測するのだが、それがない場合は水に特殊な方法で魔力を注ぐことで大体の量を計測する。特殊なといっても魔力に粘性を持たせ、少しづつ垂らしてくイメージで注ぐだけである。そうして魔力の注がれた水が変化する色で大雑把に計測するのだ。
「まずは《グランホール》からのぉ《アクアボール》」
この数日で多少の魔力はあると発覚してからはちょこちょこ使っているが、自らの力でこの様な現象が起こるのは面白いものだと感じる。
ドラム缶ほどの深さに水が溜まったのを確認して手を突っ込む。
「(粘性のある魔力……絵の具のような感じで……注ぐ……)」
ゆっくり魔力を注ぐと、水の中から色が溢れてくる。赤、青、黄色と様々な色と色が混じり合い縦穴の水を彩っていく。魔力が少なくなり眩暈がして来る頃には水には様々な色が滲み出て実に神秘的なものになっていた。
「あーだりぃ……でも、結構いい感じ……なん……じゃ」
そう呟きながら今自分で作り出した水を見て言葉がうまく紡げなくなる。
「この量の水でこんなに色が付くのか!?精々少し色がつく程度かと……こちら側の人間ではない俺が?」
ブツブツ呟きながら考えを巡らすが明確な答えは出ない。結構保存用に取っておいたウサギ肉と野草を食べその日は寝ることにした。