極上の水を求めて
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皆さんは異世界と言うものを信じるだろうか?信じる人もいればある訳ないと笑い飛ばす人も居るだろう。そもそも異世界の定義とはなんなのか……平行世界所謂パラレルワールドも異世界と言えるのか、何億光年も離れた未知の惑星は異世界と言わないのか、まぁ俺は異世界なんて笑い飛ばす方の人種だった。ついこないだまでは……
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夏の日差しが強くなって来た8月中旬。俺は蝉の鳴き声と風鈴の涼しげな音を聞きながら縁側でスイカを食べていた。
今は夏休みで久しぶりに田舎の祖父母の家にやって来ていた。
「あぁー暇だぁーねぇ」
田舎は涼しくて過ごしやすいが、いかんせんする事が無い。地元民なら、川に行ったり山に行ったりするんだろうが、そんな事1人でするなんて、寂しいからやらん。
「暇なら散歩でもして来たらどうで?山の麓に神社があってなぁ、そこの湧き水がうめぇんだよ。」
「へぇ……そんならちょいと腹ごなしに入ってこようかな……。どの辺にあんの?」
ばぁちゃんに神社の場所を聞くと愛用のウエストポーチを巻きつけて、玄関を出る。
外に出ると陽射しが凶悪なまでに照りつけて、家に戻りたくなるがずっと家に篭るのも体に悪いと言い聞かせ歩を進める。
ばぁちゃんの話によると片道4~50分とかなりの道のりだが、暇つぶしには丁度いい。
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「ようやくついたかぁ?」
熱中症対策に持ってきた塩飴を口で転がしながら歩くこと1時間。ちょろちょろ寄り道したが、漸く目的の神社に到着することができた。
神社は古いものだが、しっかり手入れされており雑草が伸びたり苔が生していたりとかは無いようだ。
「さって、目的の水はどれかなっと」
ポーチからコップと氷の入った魔法瓶を取り出しながらあたりを見渡す。
すると隅っこの方に「命の水」と掛け札のかかった竹から水がちろちろと流れ出ていた。
「これか?……うん、冷たいし氷はいらなかったな」
水に触れて温度を確かめると、意外なほど冷たかったので、コップに水を溜め満を辞して飲んでみる。
「あぁ……これは確かに命の水だな」
その水は一切の雑味が無くほんのり花の香りのするもので、この気温で火照った体を一気に冷ましてくれるように感じるほど冷涼なものだった。ついでだから開きのペットボトルに命の水を詰めておく。
「これはきた甲斐があったな……。」
神社の賽銭箱に5円玉を投げ込むと階段に腰を下ろし水を飲む。ざわざわと揺れる木の葉の音を聞いているうちに抗えない睡魔に襲われ、それに身を任せゆっくり瞼を閉じた。
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「うぅーーん。やっべぇ寝すぎたか?」
起きた頃には日が沈み始め空を綺麗なオレンジに染め上げていた。
「あー……喉乾いたな。最後にもう一杯飲んでから帰ろうか」
そう呟きながら、命の水をコップ溜める一気の流し込む。
「あぁーやっぱりうめぇなこの水。名残惜しいけどいい加減帰らないとやばいしな……」
さて帰ろうか……そう思ったとき地面がいきなり光り出す。いきなりのことに驚き咄嗟にその場から離れるが、何かに引き寄せられるように光る地面に戻される。
「なんぞこれ!?明らかにヤバイんですがぁ!?」
なんとか光る床から逃げようと四苦八苦するが、そのうち体力に限界が来て逃げることが出来なくなる。
光る床に閉じ込められると光りが強くなり、それに伴い意識が遠のいていった。
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「……ここはどこだ?」
意識が覚醒するとあたりを確認する。薄暗い空間にぷよぷよと大小様々な光球が見て取れる。ふわふわとなんとも言えない浮遊感の中波に流されるように漂いながら淡い水色の光球に触れてみる。
「うわっ」
その途端あらゆる知識が流れ込んでくる。その知識はまるで長い年月を経て定着したかのような安定感がある。この感覚が面白く、全く未知の知識を得る事が楽しく、流されながら、時に流れに逆らいながら光球に触れていく。
「やっべーなんか楽しいぞこれ!?」
漫画やゲームの中のような知識を得るのに夢中で、今の状態を完全に忘れていた。
それに気づくのは、流されてたのではなく、黒い穴に吸い寄せられていたと理解した時であった。