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第八十六話 妹

「父上、おかえりなさい」


おお、我が娘たちよ。

元気そうで何よりだ!


於安ったら、すっかり落ち着きある女の子になっちゃってまあ。

於珠も、前見たときに比べてかなり大きくなってるなぁ。


目に入れても痛くない可愛さと言うが、真剣に目に入れる方法を検討してみても良いかも知れない。


「無事のお帰り、何よりでございます」


「ああ。娘たちとの留守番、ありがとな」


「いえ、当然のことですので」


なんて馬鹿なことを考えつつ、奥さんを労う。


藤津郡への遠征は成功裏に終わり、抑えの将兵を残して一旦佐賀に戻って来た。

俺は元より、皆久しぶりに家族と再会していることだろう。

こうして英気を養い、次に取り掛からないといけない。


「旦那様」


「ん?」


「実は、於辰殿から文を預かっております」


おや。

於辰と言えば、元盛に嫁ぐことが半ば決定してる。

安房守からも承諾を得ているし、政策的には問題ない。

当人側から何か問題でもあったのかな。


手渡された文を広げる。

そこには、冒頭に軽い挨拶と現状について思うところ、自分の考えが書かれていた。


「ふむ」


「旦那様、於辰殿は何と?」


基本的に大人しく、自己主張の少ない妹から、まさかこういった手紙を貰うとは。

成長したと認めるべきなんだろうな。


「嫁ぐことに、異論はないようだ」


「あら……」


もっと色々書いてあるが、こっちの事情と突き合わせてまとめると大体そんな感じ。

勿論細かいところがあるので、別途返事は必要だろうが。


「まあ近くに居るのだし、後で直接会って話すとしようか」


そうした方が意志疎通に間違いが出にくいだろう。

最終確認にもなるかも知れないし。


であれば、頼りになる弟たちを出来る限り呼び寄せたいところ。

特に安房守は、泣くかも知れん。


まあ現状報告も兼ねて、打ち合わせと行こうか。


* * *


久々に集った我が愛しい兄弟たち。

義弟らも含む。


時節柄、安房守は厳しいかもと思ったから無理しなくていいと伝えたのだが。

於辰のこととなると、ある種父親の心境なのか。

何が何でも駆け付けると言い、本当に駆け付けた。


任地の手当てはちゃんとしてきたみたいだから、それはいいんだけどな。

堀江兵部には、後で礼を言っておこう。


自慢の婿のためならば、なんて言いそうだがそこはそれ。

親しき仲にも礼儀あり。

兄として、ちゃんと伝えないとね。


まずは、各地の状況を確認。

せっかく集まるんだから、そのくらいしないと。

ただ於辰のことだけを伝えるためだけに集まるほど、俺たちは暇じゃない。

残念ながらな。


まずは久右衛門。

色々勉強の立場だが、同時に神代清次郎の学友でもある。

文字通りの意味とそうでない意味があるが、それはさて置き。


「はい。清次郎殿は、特に不足なく暮らしていると思います!」


「補足します。周囲を含め、これと言って不穏な動きはありません」


久右衛門が答え、兄の摂津守がこれを補足。

うんうん。

問題もなさそうで何よりだ。


「また、佐賀の縄張りも概ね終わっております」


続けて、出征と同時に進めていた地区割りの経過報告。

この地は肥沃であると同時に、ちょっと水気の多い地だからな。

気を付けないと、流れてしまうんだ。

そこら辺、整理して縄張りを決めてしまおうと言う訳。


河内守や本告内蔵助などの助けを借りて、摂津守が進めていた。


絵地図や報告書を皆で確認する。

…問題ないようだ。


「このまま続けてくれ」


「分かりました」


その後も、六郎二郎から神埼郡に関する報告や江上兄弟についての情報などが。

また安房守からも養父郡の、特に筑紫下野の働きなどが報告された。


* * *


「それで、兄上?」


安房守がソワソワと落ち着きない。

報告会の時は流石に弁えていたが、段々と堪え切れなくなって来てるのが丸分り。

ちょっと面白かった。


「じゃあ、次の議案に移ろうか」


「於辰殿のことですか」


そうだね。

俺の妹だから、摂津守や久右衛門にとっては従姉妹になるね。


「ちょっと於辰を呼んで来てくれ」


「承知しました」



久右衛門に呼びに行かせてる間、白湯でも飲んで軽く休憩しよう。

ほら安房守、お前も六郎二郎を見習って少しは落ち着け。


「失礼します」


程無くして、久右衛門が於辰を連れて戻って来た。


「さ、入りなさい」


「はい」


しずしずと進み入る於辰。

久しぶりに会った気がするが、いやはやすっかり素敵な女の子だな。

安房守が父親のような目をしている。

分からんではないがな。


さて、兄弟集まった中でのことになるが、於辰には予め事の次第は知らせてある。

お手紙の内容についてと、その返事をしようか。


* * *


故少弐屋形の末弟で、出家して寺に入った元盛。

彼と於辰を結ぼうと言う画策。


これは全て俺たちが政治的判断からするもので、於辰の意見は取り入れてない。

あからさまに嫌がられたら、流石に考慮はするつもりだった。


ちなみに、意見を聞いてないのは元盛の方も同じ。

だけど、こちらは多分断らんだろう。

身の安全を考えても、龍造寺の一門に連なった方が安心のはずだから。


よって、意向を重視するのは於辰の方。

数少ない近親者に、無理強いはしたくない。


ともかく、そのような画策をしていた。

実際に動くのは、杵島郡がある程度固まってからと思っていたのだが。


誰かに漏れ聞いたのか、於辰自ら文を認め俺に提出してきたのは先の通り。


中身は、大まかに言うと自分も役に立ちたい。

元盛と言う少弐の血と龍造寺が合わさることで、御家が良い方向に向かうのではないか。

ならば迷うことはない、なんて書いてあった。


誰の入れ知恵だろうか。

まずそこを確認しておかないと、安心出来ない。

安房守も同意だろう。


なので、聞いてみた。


「あ、御母上が……」


…おぉう、母上かぁ……。


安房守も六郎二郎も、摂津守すらも微妙な顔になった。

うん、そうなるよな。

でもまあ、だったら仕方ないかな。


「それで、於辰は本当に良いのか?この兄に、本心を教えてくれっ」


気を取り直した安房守が、腰を浮かせんばかりに尋ねるも…


「はい兄様。辰は大丈夫です!」


なんて朗らかに答えるものだから、弟も腰を落とすしかなかった。

こうまで言うのなら、この際諸々の心配は横に置き、天晴な心意気と認めてやらねばなるまい?


「分かった。於辰がそれでいいなら、話を進めておこう」


「兄上……っ。分かりました」


於辰の気持ちを確かめたところで、タイミングを見て元盛サイドに話を通達。

問題なければ、来年を目途に祝言を上げる方向で調整しよう。


また、少弐一族の末裔たる元盛の姓をどうするかも話し合いが必要だ。

武藤姓に戻った彦三郎が居るが、元盛はどうするのか。


状況からして龍造寺か武藤。

この何れかに絞られるだろうが、今後の情勢によっては対応も変わって来るだろう。

まあその辺は臨機応変に、だな。


天文二十三年(1554年)人物年齢表

<龍造寺一族>

隆信:25歳、於与:26歳、於安:10歳、於珠:2歳、

信周:23歳、長信:17歳、於辰:11歳、鑑兼:18歳、信門:15歳

<毛利一族>

元就:57歳、隆元:32歳、元春:25歳、隆景:22歳、元清:4歳、元秋:3歳

<諸侯>

大友義鎮:25歳、島津義久:21歳、長宗我部元親:15歳、三好長慶:33歳

織田信長:21歳、今川義元:36歳、武田晴信:34歳、北条氏康:40歳

長尾景虎:25歳、最上義守:34歳、伊達晴宗:36歳、南部晴政:38歳

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