第八十話 来訪者
ある日、肥前国外から珍客とも呼べる者の訪問を受けた。
* * *
「ようこそ肥前へ。龍造寺山城守と申す。」
「お初にお目に掛ります。
肥後国山鹿より参りました、隈部刑部が臣・龍造寺主水正と申します。」
なんと肥後から来た使者は、龍造寺姓を名乗った。
これには俄然興味をそそられる。
「ほう、同姓とは……。主水正殿の出自をお聞きしても?」
「その前に、我が主より文を預かっておりますれば。」
「これは失礼した。拝見致す。」
ぬう、失敗したな。
敢えて同姓を送ってきたのだろうし、それなりの話題になるはずだが本題はそっちじゃない。
礼を失する振る舞いを謝罪し、居住まいを正す。
軽く読んでみると、どうやら同盟の打診らしい。
現在の肥後国は群雄割拠。
大友氏の勢力下にあるとはいえ、豪族たちはそれぞれ思うが侭に活動を続けている。
そして山鹿郡に根を張る隈部氏もまた、独自の路線を模索しているようだった。
同輩と目され、大友氏に接近を続ける赤星氏との兼ね合いもあるようだ。
「成程。これは後程、家臣らと相談の上で返答致そう。」
「承知仕りました。」
「それまでは暫し、ごゆるりとなされよ。」
「かたじけのうござります。」
「誰かっ、使者殿を別室へ案内せよ!」
「はっ。」
* * *
とりあえず、集まれそうな重臣たちに集合の指示を飛ばす。
皆が集まるまで、龍造寺主水に話を聞いてみよう。
* * *
「失礼する。」
「は、これは山城守様。」
「先ほどのことだが、少々お時間宜しいか?」
「ええ、構いません。」
ならばと気になっていたことを尋ねる。
彼の龍造寺姓の由来と、肥前との関連性などを。
珍しくはあるが、龍造寺一族は肥前にしか居ない訳ではない。
古くは鎌倉時代の元寇の頃、活躍の恩賞として筑前や筑後に地頭職を貰ったりしてたいた。
そこから派生した一族が、各地に居てもおかしくないのだ。
さて、龍造寺主水はと言うと。
どうも、彼の祖は肥前龍造寺から別れた一族で間違いないらしい。
千葉や大内に従い肥前から出国し、筑前や周防に渡った者の末裔と言うことだった。
千葉が肥前に戻った後も大内に従い、結果的に肥前へ戻ることはなかった。
縁があり、肥後に入って隈部の世話になったらしい。
その際に姓を変えて仕えていたようだが、今回の使者に選ばれた。
これを務めるに当たり、同族の誼を伝手にするため旧姓に戻したとか。
なるほどね。
中々考えてるし、色々あるもんだ。
こちらとしても、遠縁とは言え一族。
歓迎するのは吝かではない。
いや、一族でなくとも誼を通じる打診なら歓迎はするのだが。
そこで更に一手踏み込んできた所に、隈部刑部の本気度が窺える。
これは良い判断材料になる。
先に聞いてみて良かった。
「失礼致します。殿、皆様お揃いです。」
「わかった。では主水正殿、失礼する。」
「はい。吉報をお待ち申し上げております。」
* * *
一族重臣が揃ったので、早速会議を始める。
「先に触れたが、簡潔に隈部との同盟の可否を問いたい。」
「ふむ。しかし殿の腹は、既にお決まりなのでは?」
江副安芸がズバリと問う。
「確かにそうだ。だが、それでも皆の意見を聞いておきたくてな。」
苦笑しつつ言えば、納得したように頷いた。
そして俺の意見も交えつつ討論を行うが、これといって反対意見は出なかった。
今回は軍事同盟と言う本格的なものではなく、誼を通じる程度の話だったからか。
後々の同盟へ含みを持たせつつも、まずは繋ぎを取っておこうと言うもの。
この辺りに隈部刑部の優秀さが滲み出てて、概ね好印象を持ったようだ。
「では、今回の話は受ける。問題ないな?」
「「「御意。」」」
参加できなかった皆には、手紙を送っておこう。
何かと齟齬が出たら不味いからな。
* * *
「……と言う訳で、隈部殿の申し出は受けることに相成った。
返書もこの通り認めたので、ご確認願いたい。」
「確かに。此度は申し出を受けて下さり、主に変わり御礼申し上げます。」
龍造寺主水が礼を言い、頭を下げる。
さて、ここまでが公式の会見だ。
「ともあれ今宵は泊まり、出発は明日以降になされよ。」
「重ね重ねご厚意、有り難くお受け致します。」
せっかくなので、遠方の同族の話を色々聞いてみたい。
主水も承知なのか、笑みを浮かべて頷いた。
* * *
「ほほう、左様なことが。」
「ええ。そうなんですよ。」
事務的な用事は早々に済ませ、懇親の宴を催した。
主水は俺と同年代で、娘が二人居るらしい。
そのような共通点を見出し、大いに盛り上がっていた。
更に驚くべきことに、彼は使者でありながら仕官を願うと言う。
「あちらには父と弟が健在ですから、問題ありません。」
隈部側としても、それだけ繋ぎを大事と見た訳か。
人質では無くとも、こちらの心証はかなり良くなる。
「隈部殿は、中々の御仁なのだな。」
「はい。外様である我々も、重臣にまで引き立てて頂きました。」
ふむふむ。
そう言ったやり手が、外に味方として居てくれると大変有難い。
九州では、秋月中務くらいしか居ないと思っていただけに尚更だ。
せっかく重臣の嫡男を送ってくれたのだ。
その心意気に感謝し、この繋がりを確かなものに出来るよう考えよう。
また、同族の誼を以て主水を迎え入れよう。
一門衆の一人として、主に肥後方面の外交官兼側近として働いて貰いたい。
「宜しく頼むぞ。」
「ははっ。誠心誠意、務めさせて頂きます。」
うむと頷き、だがと続ける。
「とは言え、一度戻ってからだな?」
「そうですね。」
仕官を求めると言っても、今回の任務はあくまでも使者。
一度戻って報告しなければならない。
色々準備もあるだろうしな。
* * *
翌朝主水を見送り、思わぬ収穫に顔が綻ぶ。
うん、期待大だ。
漸く投稿出来ましたが、二ヶ月以上間が空いてしまいました。
次回の更新日は明言出来ませんが、なるべく早く出来るよう頑張ります。
肥後国山鹿郡は、現在の熊本県山鹿市とほぼ同じです。




