第七十九話 英雄候補
西村伊予の三男・新十郎、元服。
一字を与え、信勝と名乗らせる。
* * *
「これで西村三兄弟は皆、元服を済ませたか。」
「はっ。この度は誠に有難く。」
三人が三人とも優秀で、それぞれ別家を立てることが出来そうな見込みがついている。
お陰で彼らの父である、西村伊予は実に御機嫌だ。
西村新十郎はこの後、成松兵庫の娘婿となることが確定している。
年齢的な問題もあって今は婚約のみなので、養子婿と言うことになるかな。
婚約と言えば、鍋島大炊と小河筑後の娘を婚約させた。
一門、家臣間の縁組は大いに推奨すべきことだ。
要所要所に一族の血統を結び付ければ尚、良いことになると言えるだろう。
「後は日柄を選び、成松兵庫助との縁組としたいが。」
「承知。」
この数日後、西村新十郎は正式に成松兵庫と養子縁組を交わした。
そして受領名を加え、”成松刑部少輔信勝”と名乗る。
「よい名乗り、若武者振りだ。励めよ?」
「御意!」
西村新十郎、改め成松刑部の誕生だ。
立派になった我が子を見て、目を細める西村伊予の姿が印象的だった。
いつかは俺も、このように我が子らの姿を見ることになるのだろうか……。
* * *
さて諸行事が一段落し、神代家から留学生が来るまでも少し間がある。
今後の展望に付いて軽く考えて置こう。
東肥前を傘下に置いた俺であるが、肥前統一にはまだ程遠い。
まず考えるべきなのは、杵島郡と松浦郡東部のことだろうか。
松浦郡西部や彼杵郡、そして高来郡は遠い上に、有馬の勢力範囲なので迂闊な行動は取れない。
藤津郡も有馬の影響力が強いが、こちらも納富石見らが中心となって侵食を続けている。
今はまだ様子見で良いだろう。
やはり、まずは杵島郡か。
あそこには、以前より何かと敵対してきた多久氏がいる。
少弐滅亡と東肥前平定は知らせたが、これといった反応はなかった。
同じく杵島郡に根を張る後藤からは、簡素ながらも祝辞が届いた。
この差は大きい。
反応の差もさることながら、対応能力の差もあるように思える。
即ち、付け込む隙があるということだ。
前田伊予に命じて、密かに探らせておくとしようか。
* * *
松浦郡の東部には、友好勢力と言える草野がいる。
他にも相浦や有田といった、そこそこ音信を取り続けている領主たちもいる。
良い外港になりそうな条件も揃えていることだし、近いうちに獲りたいところだ。
佐賀は内海だからな。
外海の港があるのとないのでは大きく違うだろう。
いずれは自前の外港を持つとして、まずは原田弾正や草野と結んで通商を求めるべきか。
松浦郡から廻って筑前に至るルートと、筑前を経由するルートがある。
筑前ルートを視野に、筑紫兄弟へ秋月中務との繋がりを探らせようか。
秋月は元々大内の傘下だった。
芽はあると思う。
あとは、筑後の小田領と江上領の保全。
他の筑後衆と摩擦が起きないよう、繋ぎを取っておきたい。
今までは赤司党をメインにしてきたが、それ以外のルートも確立させねばならない。
狙い目は西牟田や三池あたりであろうか。
そうそう、御世話になった蒲池様へ、折々の挨拶や贈り物を欠かさない様にしなければな。
それに蒲池左馬、久納宮内や原十郎にもお礼や挨拶状を送るとしよう。
* * *
あとは……、於辰の嫁ぎ先か。
出来れば近隣で、安全な所が良い。
於安が小田家に嫁ぐことが確定しており、於珠は蒲池家を予定している。
重要度から鑑みると千葉家なのだが、相応の相手がいない。
主な家の嫡子らは、大体が早々に許嫁が決まってしまう。
すると残るのは二男や三男となる。
一族や重臣たちでも構わないのだが、ある程度年齢差や身分の隔たりがない方が良いだろうし。
どうしたものかな。
高木能登の二男。
播磨守の二男。
綾部、犬塚、江副、鴨打、徳島、土肥、福地。
敢えて元盛とか……。
……って、おや?
奇を衒ってとか考えたが、意外とアリなのではないだろうか。
少弐の裔である元盛に、龍造寺の血を入れる。
武藤龍造寺と言う、新しい家を創設することも可能かもしれない。
何より元盛は佐賀城下の寺にいる。
近いし安全だ。
おお。
行ける気がして来た。
僧侶が所帯を云々は、まあ然したる問題ではない。
よくあることだ。
千葉や龍造寺と関係が深く、修験者の本山たる西持院の宗徒たちも当然のように妻帯してるしな。
かの修験者たちには、主に情報と言う面で世話になっている。
千葉では円城寺が、龍造寺では鍋島がその窓口となっている関係で、俺も幼少の頃から親しんで来た。
そう言えば、西持院所属の修験者の子が、余りにも優秀過ぎて円城寺の名跡を継いだという噂があった。
ふむ、あとで詳しく聞いてみよう。
それはともかく、於辰と元盛のことは後で皆に諮ってみるべきだ。
安全と言う面から言うと、安房守も十分納得してくれるのではないだろうか。
* * *
後日、重臣たちに於辰の嫁ぎ先に付いて諮問したところ、是と言って異論は出なかった。
安房守だけは渋い顔をしていたが、拒否はしなかった。
あとは先方に意思確認をして、まあダメだったら諦めよう。
因みに、於辰にも一応拒否権はある。
それでも御家の為にと言われたら拒否出来ないだろうから、無いに等しい。
余り我が強い方でもないしな。
だからもし、於辰が少しでも嫌そうな雰囲気を醸し出したら、安房守と共によく話し合おうと決めた。
まあ、相手の事を知らない時点で良いも悪いもないとも思うが、そこは仕方が無い。
さて、どうなるかな。
* * *
円城寺の名跡を継いだと言う修験者の子は、修験者ではあるが血統的に円城寺の分家の出であり問題なかった。
優秀なのも確かなようで、いずれは一家を立てさせるとか何とか。
千葉介殿が得意満面で教えてくれた。
しかし円城寺か。
どこかで聞いたことがあるような、無いような……?
僧侶が所帯を云々について。
・修験者は在家だから僧侶のそれとは全く異なる
・神仏習合の形であるため、そもそも僧侶ではない
等と言う意見があることは承知しておりますが、
ただ主人公がそう思っているだけと、軽く流して下さい。




