第七十五話 論功行賞 七本槍
論功行賞は今回で終わりです
さて、論功行賞も中盤を過ぎた辺りとなった。
後半は小粒な話に終始することになるが、ここで一つ大きな区切りとしたい。
「次、戸田藤次郎。前へ!」
「ははっ!」
旗本の戸田藤次郎。
やっと、彼に恩賞を与えることが出来る。
彼と、彼の父の二代に跨る恩賞だ。
「まず、此度の働き大儀であった。」
「はは!」
「時に、お主の父御は、私の父上の旗本として大いに武威を示し、共に散った。」
「……。」
「親子揃ってその武勇、百人に勝ると言えよう。
よってその栄誉を称え、そなたに新たな氏名を与える。
”百武志摩守 信兼”
…以後、そう名乗るように。」
「は、ははぁー。有り難き幸せにございますっ!」
「また、百武氏の祖はそなたの父御だ。良いな?」
「はっ。有り難きお言葉。父も泉下で喜んでおりましょう。」
戸田藤次郎、改め百武志摩。
その父・戸田藤左衛門兼定は、百武家の祖として百武藤左衛門と併記されることとなる。
なお、百武志摩には元服前の弟がいる。
彼も百武となるのか、戸田を継ぐのかは家長である百武志摩に任せることにした。
* * *
「では次。木下伊予守殿。」
「はっ!」
木下伊予は元々水ヶ江の譜代であるが、土橋の一件で色々あって佐賀の直臣となっている。
彼は一男一女があったが、嫡子は身体不自由の身となってしまい、隠居せざるを得なくなったと言う。
「子息の件は、誠に残念であった。」
「いえ、致し方ありません。あれは既に出家し、仙寂と号しました。」
「そうか……。」
優秀な家臣の嫡子が、家を継ぐことが出来ない。
何とも沈痛な空気が場を包む。
「今回の戦について鎮魂供養のため、水ヶ江に一寺を建立する。そこの住持としよう。」
「ご配慮、痛み入ります。」
寺社の建立も、ちょっとした力のアピールになる。
立派な様相にするため、近隣に並ぶ者なしと言われる腕前を持つ川上神社の大工・永山九右衛門を呼び寄せ、建立させるつもりだ。
どんなことにも政治的な意味合いが付いて回る。
そのことに思うところが無いではないが、呑み込んで前を見つめる他ない。
それが惣領と言うものだ。
木下伊予は家を残すため養子を迎え、娘に娶せ家督を譲る心積もりらしい。
その養子が木下伊予の後ろに控えており、挨拶してくる。
「初めて御意を得ます。木下四郎兵衛に御座います。」
「うむ。木下家の今後を担うこととなる。頼むぞ!」
「ははっ!」
木下四郎兵衛の婚姻が済み次第、木下伊予は家督を譲り隠居する予定らしい。
仙寂のことは残念だったが、生きているし穏やかな内に隠居出来るのはある種幸せなのだろう。
* * *
「成松兵庫助。御前へ。」
「はっ」
次は、松浦地方に伝手を構築してくれた成松兵庫だ。
実際は途中なのだが、ある程度目途が付いたので一旦戻ってきて貰った。
彼は当家においては新参であり、また家のために婿養子を求めている。
そのためには何かしら目に見える成果を挙げねばならず、必死であった。
まあ成松兵庫は元々松浦郡の出であり、工作には打って付けだ。
そして納富石見の指示に沿い、期待に違わない成果を挙げつつある。
まだ完全に芽吹いてはいないが、上々だと言って差し支えない。
今後の期待も込めて、欲していたであろう恩賞を渡すとしよう。
「松浦郡での働き、大儀である。」
「ははっ」
「西村新十郎!これへ。」
「はい!」
成松兵庫が平伏している隣に、西村新十郎が並び座る。
「兵庫助。この新十郎をお主の婿に推す。どうか?」
「はっ、あ。え?」
「お主への恩賞の一環だ。新十郎を婿に迎え、成松家を再興せぬか?」
「…ぁ。くっ……。」
あ、感極まったのか泣いてしまった。
落ち着くまで少し待つか。
* * *
「落ち着いたか?」
「…はい。お恥ずかしいところをお見せしてしまい、申し訳ありません。」
「何、構わぬ。…それで、どうか。」
「はっ。有り難く、お受け致します。新十郎殿。何卒、宜しくお願い致す。」
「はい。こちらこそ、宜しくお願い致します。」
「うむ。受けて貰えて良かった。婚儀の仲人は私が勤める。日時は後程調整しようぞ。」
「はは。有り難き幸せっ!」
大げさ気味に平伏する成松兵庫の隣で、苦笑しながら普通に平伏する西村新十郎。
西村新十郎が成松新十郎になる日も近い。
その時には、一緒に元服もさせてやらねば。
* * *
さて、論功行賞は概ね終わった。
そのせいか、場はざわざわとし始めている。
が、最後にもう一つあるのだ。
江副安芸に目配せすると、心得ているとばかりに頷いてくれる。
「各々方、静粛になされよ。」
良く通るが落ち着いた声が発せられると、すぐに場は落ち着いた。
流石だ。
そして俺は周囲を見て一つ頷き、対象者を呼ぶ。
「馬渡越後守。石井刑部少輔。百武志摩守。秀島雅楽助。
そして久納平兵衛。石井孫三郎。木下四郎兵衛。我が前へ!」
「「「「「「「ははっ!!」」」」」」」
呼ばれた七人が横一列に並び出る。
年齢も貫録もバラバラであるが、皆良い面構えをしている。
「そなたらは、先の戦にて特に武威を張った。
よってその栄誉を称え、盃と槍を取らせる。」
一人ずつ手ずから盃を与え、槍を授ける。
全員に行き渡ったことを確認したところで、江副安芸が言う。
「こなたらは、当家における無双の剛の者。授けられた槍を持つ“七本槍”と称する。」
「「「おおぉーーっ!!」」」
「お主らには、今後もその名誉に恥じぬ働きを期待する。頼んだぞ?」
「「「「「「「御意!!!」」」」」」」
さっきとは違ったざわめきで広間が満たされている。
当然ながら七本槍の名称は、有名なあれらから取っている。
が、別に誰も知らないし困らないから問題ないよな。
やはり、こういったパフォーマンスは有用だ。
使い所さえ間違わなければ、勝手が良い。
なお、七本槍に任じた者たちは基本的に旗本として運用する。
鍋島豊前や飛騨の兄弟も考えたが、立場と役割が異なるので見送った。
「では、論功行賞の席を終了する。皆、大儀であった!」
「「「ははぁーーっっ!!」」」
<龍造寺七本槍>天文二十二年ver.
①馬渡越後守栄信
②石井刑部少輔常忠
③百武志摩守信兼
④秀島雅楽助信重
⑤久納平兵衛久俊
⑥石井孫三郎忠尊
⑦木下四郎兵衛昌直




