第七十二話 論功行賞 義弟
さて、引き続き論功行賞の場である。
安房守と六郎二郎という、実弟二人の次は義弟たちの番だ。
今までは越前守が一門筆頭の地位にあり、安房守より孫九郎が上だった。
それを今回を機に、家中の序列も一気に整理することにした。
その辺りは無論当人たちも含め、一門家老たちと話し合って決めた。
序列順序と言うのは、存外に俺が思うよりも家中で重きをなす。
内面まで知っている上層や側近たちならばともかく、そうでない通常の家臣や領民たちに対しては、誰の血統が主流であるかを判りやすく示さねばならない。
安房守は庶弟であるが歳も近く、何より武功を挙げている。
六郎次郎は俺の嫡弟だ。
そういったことからこの二人の序列を引き上げた。
その次に孫九郎の番となる。
孫九郎は俺の義弟であり、越前守らよりも近い存在だ。
それが理由である。
あと久右衛門は孫九郎の弟なので一緒に、というだけだが。
* * *
「龍造寺孫九郎様。御前へ。」
「はっ。」
俺にとって、非常に大きく大切な存在である義弟こと孫九郎。
今回の一連の流れにおけるその果たした役割はとても大きい。
その分、恩賞も大きな物に成る筈だったのだが。
「孫九郎。そなたが果たした役割は、誠に見事と言う他ない。
安房守と並べても遜色ない働きであったと言えよう。大義であった。」
「勿体ないお言葉です。」
「水ヶ江当主はそのままに佐賀郡代の任を与え、摂津守に任じることとする!」
「は?…ぁ、有難き幸せ!」
普段冷静な孫九郎、改め摂津守が呆けたのには理由がある。
序列変更のほか、大体の恩賞内容については上席の者は皆知っている。
当然、摂津守その人も知っている訳だ。
では何故驚いたのか。
それは所謂サプライズと言うべきか。
要は、摂津守が知らないところで調整して恩賞を加算したのだ。
佐賀郡代を一度辞退したかの義弟であるが、それでは恩賞に不足があると思った俺は密かに他の者に諮った。
そこで問題もなかったので、郡代の職位を恩賞に捩じ込んだと言う訳だ。
はっはっは。
摂津守はそのことを察したようで、俺の周囲を恨めしそうな目で見ていた。
そして皆は目を逸らしている。
「色々大変だとは思うが、これからも私を支えてくれよ?」
「…はい。承知仕りました。」
俺が被せるように伝えると、摂津守は諦めたように苦笑し、受け取ってくれた。
おっとそうだ。
「皆も聞いてくれ。
この摂津守は先日嫁を迎えた。
そこで、改めて二人の披露宴を行う。
詳細は後ほど伝えさせるが、楽しみにしておいてくれ!」
「「「おおおおォォォォーーー!!!」」」
「「「おめでとうございますっ!!」」」
披露宴の開催を伝えるや否や、祝福と興奮の坩堝に投じられる大広間。
摂津守は苦笑するのみだ。
ちらっと横に目を向ける。
江副安芸が頷き、石井尾張が苦笑する。
ちらりと下座に視線を投げかける。
納富越中と目が合った。
にやりとお互い笑い合う。
よし!
* * *
「さて、落ち着いた所で続けるぞ。」
燃料を投下したのは俺だが、細かいことは気にしない。
「摂津守の与力として、河内守と本告与二郎を任じる。」
「はっ!」
「御意に御座います。」
河内守は俺たちが筑後に居た間、摂津守の側近くにあり公私に渡り支え続けた。
本告与二郎は、言わずと知れた摂津守の岳父である。
「また本告与二郎には内蔵助を以て任じ、摂津守の一字を取って兼景と名乗るが良い。」
「ははぁっ!恐悦至極に存じまするっ!」
「摂津守も、良いな?」
「はい。……与二郎、いや内蔵助殿。宜しく頼みます。」
「御意!」
せっかくなので与二郎にも内蔵助と新たな名を与え、摂津守により尽して貰うことにした。
「両名、よく摂津守の両輪としてよく支え、職務を全うすることを願っている。」
「「ははっ!!」」
因みに摂津守は佐賀郡代であるが、佐賀郡司は俺が龍造寺当主として兼任する。
同盟相手の小田駿河を神埼郡司に、千葉介殿を小城郡司にすることで釣り合いをとる形とした。
* * *
「では次です。龍造寺久右衛門様。」
「はい!」
筑後で元服し、六郎二郎と共に留守居を務めた久右衛門。
摂津守の弟でもあるが、今回は然したる功績はない。
それでも、せっかくこうして皆が集まった席だ。
元服のお披露目だけでもしておきたい、この兄心。
「これも既報通りであるが、我が義弟は元服し久右衛門となった。
水ヶ江分家として、摂津守を支える役目を任じている。」
俺の紹介に久右衛門は皆の方を向き、挨拶する。
「摂津守が弟・久右衛門信門です。宜しくお頼み申し上げます。」
きちんと挨拶出来たことに安堵するも、緊張の為かやや声が上擦っていたのは御愛嬌か。
なんせまだ十代前半。
政治的な意図もあって元服させたが、何にせよこれからの人材だな。
「改めて久右衛門。お主は水ヶ江分家の主として、兄たちを支えてくれ。」
「はい。お任せ下さい!」
幼さが残る風貌で、元気一杯な久右衛門に広間の空気が弛緩する。
良き哉良き哉。
* * *
ここまで二人の義弟について論考してきた。
義弟と言えばだ。
我らが妹・於辰の嫁ぎ先も考えなくてはならない。
有力なのは、今回新たに旗下に参じてくれた犬塚伯耆か綾部備前であろうか。
無論、安房守ともよく相談しないといけない。
余り表に出ない於辰だから仕方が無いが、誰ぞと恋に落ちてくれたりしないものか。
そうすれば、幸せになれる可能性が少しは上がると思うのだが。
まだ難しいかな。
連休なんて飾りです。
来月は不定期更新が確定しているので、何とか今月中に一区切り付けたいと思っているのですが、少し不安になってきました。
厳しい。




